傾く方へ

seitennosei

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その後の凛子。

口座解約。

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みーと別れて一週間経った。
この一週間は生涯忘れる事はないだろうと思える程に色々とあった。
まずは病院へ行った。
お腹の子は妊娠9週目に入ったところだった。
一般的にはツワリのピークでもあるそうだけれど、私の場合はファーストフードのフライドポテトが異様に食べたくなるくらいで、気分の悪くなる症状は有難い事にそれほど強くない。
後は便秘気味でお腹が張っていたり、恐ろしくトイレが近いくらいで基本的に今までと変わりなく生活出来ている。
だから実感がなかった。
妊娠したかも?と思った時点でタバコは止めたけれど、自分の身体の中にもう一人の人間が居るなんて事はとても信じられなくて…。
それでもエコーに映る子供を見た時。
白黒で小さいけれど、ちゃんと人の形をしていて。
私がこの子のママなんだと思ったら自然と涙が出てきた。
これがどんどん大きくなって、苦しみの中産んで。
その後もずっとずっと、何年もかけて育てて。
それが私に出来るなんて到底思えないし、不幸にしてしまうかもしれない。
ママみたいに男に頼ったり逃げ出したくなる日がくるのかもしれない。
そう思えば怖くて不安で、同仕様もない筈なのに。
愛おしくて嬉しくて、先生達の視線も気にせずに笑いながら泣いてしまった。


家に帰って母子手帳にエコー写真を貼っていると、ずっと迷っていた事に決心がついた。
パパに手紙を書こう。
私はクローゼットの奥に仕舞いこんでいた便箋を引っ張り出してくるとパパに宛てて今の気持ちを綴った。

実さんへ。
お元気ですか。
私は仕事も順調で楽しく生きています。
実さんが今元気で幸せでいる事を心から願っています。
家族として暮らしていた時から今までの間、ずっと迷惑しか掛けていないのに、今でも毎月私の為に送金してくれてありがとうございます。
だけど私は、裕福ではないけれど好き勝手生きられるくらいには自分で稼げています。
本来ならばお金をお返しして送金もお断りするべきだと分かっています。
それでも実さんが毎月私を思い出してくれている事が嬉しくて中々行動に移せませんでした。
本当にごめんなさい。
このままお金に手を付けず、時が来たら全額返すつもりでいましたが、躊躇っている内に事情が変わってしまいました。
今私は父親の分からない子供を身篭っています。
本当に勝手ですが、今まで送金していただいたお金を子供の為に使いたいと考えています。
そしてこれ以上のご迷惑を掛けないよう、繋がっている口座を今月で解約します。
最後に感謝の気持ちをお伝えしたくてお手紙を書きました。
実さん、本当にありがとうございました。
実さんが私の父親でいてくれた時があったから、まともな愛情を知らない私でも母親になる覚悟が持てました。
本当に感謝をしています。
どうか実さんもお元気でいて下さい。
凛子より。

手紙はパパと暮らした家に宛てて投函した。
数年前にハガキを送った時は届いていた様だったし、この手紙も届くと良いなというくらいの気持ちで。
パパは新しく家庭を持っているかもしれない。
だから新しい家族が受け取っても誤解を持たれない様に文章には気を付けた。
未練を感じさせない様に感情を込めないで事実だけを記した。
お金を使います宣言なんて最後の最後まで躊躇ったけれど、きっとパパなら子供の為に使いなって心から言ってくれると思う。
本当の意味でパパを解放しなくては…。
そして口座解約の手続きをした。
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