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傾く方へ。
ラーメンとパンケーキ。
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忙しなく人々が行き交う中、木内さんは私の右手に左手を繋がせてきた。
ふとそちらを見ると、目線を外したまま「人多いなー。」と誰に言うでもないトーンで呟いている。
繋いだ手の言い訳のつもりだろうか。
いつもの通りポーカーフェイスで飄々とした横顔だけど、その手はしっとりと汗ばんでいた。
再会してから一ヶ月程。
一緒に外を歩く機会は何度かあったけれど、最初に繋いだ時以来自然にすっと手を繋がれた事がない。
もしかして照れているのかな?
からかってやろうかとも思ったけれど、へそを曲げて二度と繋いでくれなくなる恐れがあるので黙っておいた。
その代わり、ただ繋いでいた手から指を絡ませる繋ぎ方に変えて身体を寄せ木内さんの顔を斜め下から覗き込む。
ギクッとして向けられた視線。
やっと目が合い、私がニッコリ微笑んで見せると「あざとっ…。」と呟き、彼はまた前を向いてしまった。
あざといだなんて。
照れ隠しの発言だと思いたい。
「んで、これからどうすんの?」
木内さんは面倒くさそうな声で訊ねてきた。
「今日何すんの?」
「とりあえずランチでもしますか?」
ここは無難な提案をしてみる。
やっぱり私はまだ木内さんの事をそんなに知らないんだ。
拠って当たり障りのない所から探っていくしかない。
「木内さんは何が食べたいですか?」
「うーん。ラーメン?」
「えー。デートでラーメンですか?まあ、良いですけど…。」
ラーメンは好きだけれど、ラーメン屋さんは回転が早くゆっくり出来ない。
ちょっと話したりこの後どうするのかの相談をしたりしたかったのに。
「じゃあ、ユリの希望は?」
「カフェでパンケーキとか…ラーメンは夜にしませんか?」
「パンケーキ?!ユリは頭の中までゆるふわだな…。」
「何なんですか?その言い方。」
早速雰囲気が悪くなる。
試したり本音を言えなかった前恋人とのお付き合いよりも、お互い幾分か成長して素直になった結果だと思いたいけれど。
それにしても本当に気が合わない。
「はー。本当に私たち合わないですよね…。何でこんな人好きになっちゃったんだろ…。」
「それはこっちのセリフだよ。」
そう言いながら私の手を握る力が強くなる。
「木内さん?」
「あー、もおー、こんなに合わないし全然好みのタイプでもないのにな。可愛くて可愛くて仕方ないんだよ。ホント腹立つわ。」
まさかの不意打ちにボワッと音が出たかと思う程顔が熱くなった。
私のその反応を見てニヤリと嫌らしい笑顔をする。
「こんな面倒臭い男を好きにさせたユリが悪い。」
「なんじゃそりゃ。」
あんまりな責任転嫁に私も思わず笑ってしまう。
何だかんだ楽しくなってしまった。
行先なんてもうどうでも良い。
ここは譲ってやるかと、私は笑顔で提案する事にした。
「じゃあ、とりあえずラーメン行きます?」
「いや…。」
木内さんは愛おしそうに目を細め空いている方の手で私の頭を撫でる。
そして「パンケーキにしよう。」と満面の笑みで言った。
ふとそちらを見ると、目線を外したまま「人多いなー。」と誰に言うでもないトーンで呟いている。
繋いだ手の言い訳のつもりだろうか。
いつもの通りポーカーフェイスで飄々とした横顔だけど、その手はしっとりと汗ばんでいた。
再会してから一ヶ月程。
一緒に外を歩く機会は何度かあったけれど、最初に繋いだ時以来自然にすっと手を繋がれた事がない。
もしかして照れているのかな?
からかってやろうかとも思ったけれど、へそを曲げて二度と繋いでくれなくなる恐れがあるので黙っておいた。
その代わり、ただ繋いでいた手から指を絡ませる繋ぎ方に変えて身体を寄せ木内さんの顔を斜め下から覗き込む。
ギクッとして向けられた視線。
やっと目が合い、私がニッコリ微笑んで見せると「あざとっ…。」と呟き、彼はまた前を向いてしまった。
あざといだなんて。
照れ隠しの発言だと思いたい。
「んで、これからどうすんの?」
木内さんは面倒くさそうな声で訊ねてきた。
「今日何すんの?」
「とりあえずランチでもしますか?」
ここは無難な提案をしてみる。
やっぱり私はまだ木内さんの事をそんなに知らないんだ。
拠って当たり障りのない所から探っていくしかない。
「木内さんは何が食べたいですか?」
「うーん。ラーメン?」
「えー。デートでラーメンですか?まあ、良いですけど…。」
ラーメンは好きだけれど、ラーメン屋さんは回転が早くゆっくり出来ない。
ちょっと話したりこの後どうするのかの相談をしたりしたかったのに。
「じゃあ、ユリの希望は?」
「カフェでパンケーキとか…ラーメンは夜にしませんか?」
「パンケーキ?!ユリは頭の中までゆるふわだな…。」
「何なんですか?その言い方。」
早速雰囲気が悪くなる。
試したり本音を言えなかった前恋人とのお付き合いよりも、お互い幾分か成長して素直になった結果だと思いたいけれど。
それにしても本当に気が合わない。
「はー。本当に私たち合わないですよね…。何でこんな人好きになっちゃったんだろ…。」
「それはこっちのセリフだよ。」
そう言いながら私の手を握る力が強くなる。
「木内さん?」
「あー、もおー、こんなに合わないし全然好みのタイプでもないのにな。可愛くて可愛くて仕方ないんだよ。ホント腹立つわ。」
まさかの不意打ちにボワッと音が出たかと思う程顔が熱くなった。
私のその反応を見てニヤリと嫌らしい笑顔をする。
「こんな面倒臭い男を好きにさせたユリが悪い。」
「なんじゃそりゃ。」
あんまりな責任転嫁に私も思わず笑ってしまう。
何だかんだ楽しくなってしまった。
行先なんてもうどうでも良い。
ここは譲ってやるかと、私は笑顔で提案する事にした。
「じゃあ、とりあえずラーメン行きます?」
「いや…。」
木内さんは愛おしそうに目を細め空いている方の手で私の頭を撫でる。
そして「パンケーキにしよう。」と満面の笑みで言った。
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