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傾く方へ。
接点はなくなった。
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数日が経った。
警察や弁護士からの連絡は今の所ない。
そして音沙汰がなかったあの子との状況に変化が一つ。
先程判明した事実。
完全にブロックされた。
今までは無視されていただけで拒絶まではいっていなかった。
関係の修復は難しくても、気持ちが落ち着いたらきっとまた話せるなどと何処か楽観視していた。
しかし今日、とうとうブロックという形で完全に拒絶されてしまった。
思えばあの子は何だかんだいつも俺を受け入れてくれていた。
最初は押しに弱くて男に逆らえない子だからだと思っていたけれど、それは彼女の包容力なのだと後に気付いた。
気付いてからは嬉しかった。
俺の弱い所も狡い所も全部分かって一緒に居てくれて。
そして会いたくて会いに行けば必ず応えてくれて。
だから勘違いしていた。
俺と同じ気持ちなのかもしれないと。
ここまで考えてハッとした。
俺の気持ちってなんだ?
自分の事なのに分からない。
分からないというか分かりたくなくて目を瞑っているという方が正しいかもしれない。
認めたら自分がどうするべきだったのかの答えがでてしまう。
そして答えが出てしまったら己がどれだけ間違えていたのかを突き付けられてしまう事にもなる。
本当はとっくに凛子の事をどうにかして、あの子と向き合うべきだった。
俺の呪いなんて彼女には関係ない筈なのに。
自ら課した呪縛から抜け出そうともしない俺をあの子は否定せずに「可哀想。」と言って抱きしめてくれたんだ。
そうやってきっと彼女は凛子の事も岡田くんの事も許して。
一方的に受け皿になって自分は誰にも寄りかからない。
そんな優しいあの子に俺は、心だけでなく身体まで傷付けた。
あれが最後になるなんて。
償う事さえ許されない。
今彼女がどのくらい傷付いているのかも知れない立場になってしまった。
それでもやっぱり俺は本当にクズで。
あの子が今誰かに慰められて笑顔で居るよりも、俺を想って一人で泣いていて欲しいと思ってしまった。
更に数日が経った。
あの子は本当に忽然と消えた。
連絡手段をブロックされていても、職場で見かける事はあるだろうと思っていたのに。
休憩室は勿論、彼女の所属するテナントを覗いても姿を見る事はない。
店長らしき人物に声を掛けて確認した所「異動しましたよ。」とぶっきらぼうに言い放たれた。
「え?異動?」
「…はい。」
呆然とする俺に対し訝しげな目線。
「失礼ですけど…池田さんとはどういう関係ですか?」
「あ…あー、友人?です…。貸してる物があるので気になって…。」
「貸してるもの?」
レディースフロアに男が一人で居るだけでも目を引くのに、居なくなった特定の従業員について探りを入れるなんて。
俺だって怪しいと思う。
だけど嘘じゃない。
あの子は『パーカーを借ります。』と、置き手紙で言っていた。
貰いますじゃなくて借りますなんだから、貸している事になるだろう。
「大事な物なら私が連絡してみましょうか?返す様に伝えますけど。」
「いや、対した物ではないので…。自分で連絡取ってみます。」
そう断って足早に立ち去る。
異動って言ってた?
バイトでも異動ってあるのか?
何処に?
遠く?
そしてハッする。
家は?
引っ越したりしてないよな?
急に不安になった俺は、仕事後にあの子の家に向かう事にした。
見慣れた扉。
何度ここに来ただろう。
だけどあの子との楽しかった日々はやけに遠い昔の出来事に感じられて。
逸る気持ちを抑え、一度インターホンを鳴らした。
けれど、出ない。
聞き耳をたてるも静かで何の反応もない。
気配自体を感じない。
もう一度インターホンを鳴らし、今度は合わせてノックもしてみる。
やはり反応はなかった。
今日は諦めるか。
そう思い立ち去ろうとした時。
タトタトと微かな足音が。
仄かな期待が芽生えドアノブを見つめる。
開け、開け。
ガチャリと解錠の音が響く。
しかしそれは直ぐ目の前の扉からでなく、隣の扉からで。
そちらに目を向けると開いた隙間から例の隣人が嫌らしく顔を歪めて笑いかけてきた。
「お兄さん、もしかして振られた?」
「は?」
「お姉さんなら引っ越したよ。」
何処に?
いつ?
何で?
咄嗟に問い詰めそうになったけど堪えた。
コイツに聞いたって知ってるわけないしな。
そんな事より最悪の予想が現実のものとなり、余りのショックに一瞬声が出なかった。
「…。あ、そう…。」
「俺はてっきりお兄さんと住むから出てったのかと思いましたよ。」
「…。」
もともと歪めていた顔を限界まで変形させ、邪悪な笑顔で俺を煽る。
「可哀想に…。俺を脅してまでお姉さんを守ったのにね。」
「…。」
「振られた腹いせに、俺の件学校にチクッたりしないで下さいね。約束は守ったんですから。」
「…。」
「ホント清々しますよ。散々エロいの聞かされてこっちだけ悪者にされて…。お兄さんももう二度と来ないで下さいね。」
閉じられた扉。
言いたい放題言われたけれど、腹を立てる気力も湧かない。
引っ越した。
そうか…、もうここには居ないのか。
ガックリと肩が落ちた。
俺は本当に馬鹿だ。
どこかで、本当に一縷の望みとして。
ここで待っていれば一目でも会えるって思っていた。
そして一目でも会えればあの子の事を繋ぎ止められる自信もあった。
またあの子の優しさに漬け込む事になるけれど、俺が懇願すればあの子は受け入れてくれだろうって…。
あれ程までに拒絶されているのに何を根拠にそんな事を思えたのだろうと自分でも呆れるけれど。
どれだけ勝手をしても、どれだけ酷い事をしても受け入れてくれていたから安心しきっていた。
だからこそあの子は完全に断ち切って逃げたのだろう。
それだけこの拒絶が本気だって事だ。
ここにきてようやく俺は理解し始めた。
もうこれで本当にあの子との接点はなくなった。
警察や弁護士からの連絡は今の所ない。
そして音沙汰がなかったあの子との状況に変化が一つ。
先程判明した事実。
完全にブロックされた。
今までは無視されていただけで拒絶まではいっていなかった。
関係の修復は難しくても、気持ちが落ち着いたらきっとまた話せるなどと何処か楽観視していた。
しかし今日、とうとうブロックという形で完全に拒絶されてしまった。
思えばあの子は何だかんだいつも俺を受け入れてくれていた。
最初は押しに弱くて男に逆らえない子だからだと思っていたけれど、それは彼女の包容力なのだと後に気付いた。
気付いてからは嬉しかった。
俺の弱い所も狡い所も全部分かって一緒に居てくれて。
そして会いたくて会いに行けば必ず応えてくれて。
だから勘違いしていた。
俺と同じ気持ちなのかもしれないと。
ここまで考えてハッとした。
俺の気持ちってなんだ?
自分の事なのに分からない。
分からないというか分かりたくなくて目を瞑っているという方が正しいかもしれない。
認めたら自分がどうするべきだったのかの答えがでてしまう。
そして答えが出てしまったら己がどれだけ間違えていたのかを突き付けられてしまう事にもなる。
本当はとっくに凛子の事をどうにかして、あの子と向き合うべきだった。
俺の呪いなんて彼女には関係ない筈なのに。
自ら課した呪縛から抜け出そうともしない俺をあの子は否定せずに「可哀想。」と言って抱きしめてくれたんだ。
そうやってきっと彼女は凛子の事も岡田くんの事も許して。
一方的に受け皿になって自分は誰にも寄りかからない。
そんな優しいあの子に俺は、心だけでなく身体まで傷付けた。
あれが最後になるなんて。
償う事さえ許されない。
今彼女がどのくらい傷付いているのかも知れない立場になってしまった。
それでもやっぱり俺は本当にクズで。
あの子が今誰かに慰められて笑顔で居るよりも、俺を想って一人で泣いていて欲しいと思ってしまった。
更に数日が経った。
あの子は本当に忽然と消えた。
連絡手段をブロックされていても、職場で見かける事はあるだろうと思っていたのに。
休憩室は勿論、彼女の所属するテナントを覗いても姿を見る事はない。
店長らしき人物に声を掛けて確認した所「異動しましたよ。」とぶっきらぼうに言い放たれた。
「え?異動?」
「…はい。」
呆然とする俺に対し訝しげな目線。
「失礼ですけど…池田さんとはどういう関係ですか?」
「あ…あー、友人?です…。貸してる物があるので気になって…。」
「貸してるもの?」
レディースフロアに男が一人で居るだけでも目を引くのに、居なくなった特定の従業員について探りを入れるなんて。
俺だって怪しいと思う。
だけど嘘じゃない。
あの子は『パーカーを借ります。』と、置き手紙で言っていた。
貰いますじゃなくて借りますなんだから、貸している事になるだろう。
「大事な物なら私が連絡してみましょうか?返す様に伝えますけど。」
「いや、対した物ではないので…。自分で連絡取ってみます。」
そう断って足早に立ち去る。
異動って言ってた?
バイトでも異動ってあるのか?
何処に?
遠く?
そしてハッする。
家は?
引っ越したりしてないよな?
急に不安になった俺は、仕事後にあの子の家に向かう事にした。
見慣れた扉。
何度ここに来ただろう。
だけどあの子との楽しかった日々はやけに遠い昔の出来事に感じられて。
逸る気持ちを抑え、一度インターホンを鳴らした。
けれど、出ない。
聞き耳をたてるも静かで何の反応もない。
気配自体を感じない。
もう一度インターホンを鳴らし、今度は合わせてノックもしてみる。
やはり反応はなかった。
今日は諦めるか。
そう思い立ち去ろうとした時。
タトタトと微かな足音が。
仄かな期待が芽生えドアノブを見つめる。
開け、開け。
ガチャリと解錠の音が響く。
しかしそれは直ぐ目の前の扉からでなく、隣の扉からで。
そちらに目を向けると開いた隙間から例の隣人が嫌らしく顔を歪めて笑いかけてきた。
「お兄さん、もしかして振られた?」
「は?」
「お姉さんなら引っ越したよ。」
何処に?
いつ?
何で?
咄嗟に問い詰めそうになったけど堪えた。
コイツに聞いたって知ってるわけないしな。
そんな事より最悪の予想が現実のものとなり、余りのショックに一瞬声が出なかった。
「…。あ、そう…。」
「俺はてっきりお兄さんと住むから出てったのかと思いましたよ。」
「…。」
もともと歪めていた顔を限界まで変形させ、邪悪な笑顔で俺を煽る。
「可哀想に…。俺を脅してまでお姉さんを守ったのにね。」
「…。」
「振られた腹いせに、俺の件学校にチクッたりしないで下さいね。約束は守ったんですから。」
「…。」
「ホント清々しますよ。散々エロいの聞かされてこっちだけ悪者にされて…。お兄さんももう二度と来ないで下さいね。」
閉じられた扉。
言いたい放題言われたけれど、腹を立てる気力も湧かない。
引っ越した。
そうか…、もうここには居ないのか。
ガックリと肩が落ちた。
俺は本当に馬鹿だ。
どこかで、本当に一縷の望みとして。
ここで待っていれば一目でも会えるって思っていた。
そして一目でも会えればあの子の事を繋ぎ止められる自信もあった。
またあの子の優しさに漬け込む事になるけれど、俺が懇願すればあの子は受け入れてくれだろうって…。
あれ程までに拒絶されているのに何を根拠にそんな事を思えたのだろうと自分でも呆れるけれど。
どれだけ勝手をしても、どれだけ酷い事をしても受け入れてくれていたから安心しきっていた。
だからこそあの子は完全に断ち切って逃げたのだろう。
それだけこの拒絶が本気だって事だ。
ここにきてようやく俺は理解し始めた。
もうこれで本当にあの子との接点はなくなった。
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