傾く方へ

seitennosei

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傾く方へ。

さようなら。

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その後も木内さんは私の中から出ていってはくれなかった。
萎えたり固くなったりを繰り返し、形は変わったけれどずっと私の中にいた。
その長い時間。
私は中に入っている事を忘れて快感に対して鈍感になっては、「こいつホント終わってんな。」と冷静に非難したり。
かと思えば、急に不安になって泣き喚いてしまい、その気になった木内さんにイかされたりを朝まで繰り返した。
2回も出していると流石に木内さんも体力が続かない様で、時々思い出した様に硬度を取り戻しては私を虐めて、少し休んでまた虐めてと長く楽しんでいた。
そして休んでいる間、大切なものを愛でる様に私を甘やかしてきた。
奪う様な今までのとは違う優しいキスをして、守るみたいにそっと頭を撫でて。
何時間も泣かされて喘がされて。
私きっと口臭いだろうなって思ったけれど、今更木内さんにどう思われても良いやと思って抵抗はしなかった。
一度トイレに行きたいとお願いしたけれど却下され、その時も、もう最悪漏らしても良いかと思って従った。
物語の様に簡単に失神出来る訳もなく、私は何時間もかけて攻められ、焦らされ、イカされを繰り返した。
空が明るくなってきた頃、木内さんは3度目の絶頂を迎え、その直後に動かなくなった。
あまりに急に大人しくなったので、流石に心配になったけれど、ぐったりと覆い被さっている彼の身体を少し押して下から顔を覗き見ると、静かに寝息をたてて眠っているだけだった。
何だよと、ホッとしたと同時に呆れてしまう。
よくもこんな状況で眠れるもんだ。
全力で押し退け、彼の下から抜け出し、数時間ぶりに自分の足で立ち上がった。
腰に力が入らず、膝をカクっと抜かして床に倒れ込む。
その拍子にボタボタと大量の精液が溢れ出てきた。
慌ててティッシュで拭っていたら笑えてきた。
何やってんだろ。
勝手にクローゼットを開け、大きめのトレーナーを拝借する。
そして股にティッシュを充てがうとショーツを履いてその場を後にした。
その日人生で初めて嘘を吐いて仕事を休んだ。


数時間後。
私はアフターピルを処方してもらう為、婦人科クリニックにきていた。
スマホには木内さんから夥しい数の着信が記録されている。
一切応えずメッセージだけ送る。
『借りた服は後日職場で返します。』
瞬間既読がつき、また電話がかかってきた。
暇なのかな?
無視をして電源を切った。

診察中。
アフターピルが欲しい理由を聞かれた。
「パートナーと性交した後、避妊具が破れている事に気が付いて…。」
申し訳なさそうにそう言うと、笑顔を浮かべた女医さんが「大丈夫ですよ。」と優しい声で言ってくれた。
自分の嘘に胸が痛む。
だけど馬鹿正直に答えたら通報されてしまうかもしれない。
そしたら木内さんは捕まるのだろうか。
それは望んでいない。
泣き寝入りとかそんなんじゃなく、ただ妊娠の可能性だけ潰して、それが解決したら全部忘れて一人になりたい。

それから2回だけ店舗に出勤したけれど休憩室を使わず勤務後に社員口も使わずで逃げ切った。
その間異動準備と引き継ぎを言い訳に店頭にも殆ど立たないで裏に隠れて過ごした。
木内さんからは毎日夥しい数のメッセージや着信が来ていたけれど、最後の勤務が終わった後着信拒否して今までの履歴も全て消してしまった。
必要最小限の家具を持ち込んだ新居でフッと一息つく。
後は前の住居を引き払うだけだ。
近くに住んでいる姉夫婦に手伝って貰って残りの荷物を持ち出す事に決まった。
その日だけ乗り切れば、私は本当に一人の生活を始められる。
これで終わるんだ。
木内さんと凛さんに振り回されたここ数ヶ月間の苦しみからの解放。
つーっと涙が頬を流れた。
さようなら。
凛さん。
さようなら。
木内さん。
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