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傾く方へ。
諦めた。
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足元で軋む床。
久し振りの感覚。
木内さんは当たり前に部屋に入る様促してきたけれど、私はそれを無視しして玄関に立ったまま切り出した。
「木内さんに会うのこれで最後にします。」
「え?」
「もう此処には来ません。ホテルでもうちでも会いません。」
振り向いた格好のまま呆然と私を見ている木内さん。
ゆらゆらと小刻みに瞳が揺れ、珍しくポーカーフェイスを崩している。
「私、もうちゃんとしたいんです。壱哉とか凛さんとか全部忘れてスッキリしたいんです。…だからこれで帰ります。」
「待って!」
扉のノブに手を掛けた私の腕を木内さんが掴み、「困るよ。」と呟く。
「はい?」
「そんな勝手な事…困る。」
また可笑しな事を言い出した。
確かに木内さんの目には突然で勝手に映るかもしれない。
だけど散々自分勝手してきた人にそんな言い方されたくない。
「困るって何なんですか?困ってるのはこっちですよ!凛さんは戻ってきたんだし、もう良いじゃないですか… 」
「一人にしないで!」
言い終わる前に被せられる。
兎に角驚いた。
この人、今なんて言った?
私の言い分に対して反論するでも、逆ギレするでもなく、ただただ懇願してきた。
最近の木内さんの態度から簡単には終われない事も覚悟していたけれど、このパターンは全く予想していなかった。
今度は私が呆然としてしまう。
「君と一緒だからここまで耐えられたんだ。これからも君がいてくれないと困る。」
なんて残酷なんだ。
凛さんとの関係を止める気なんてない癖に、私にも執着をする。
本当にこちらの都合なんてお構い無しな人だ。
「ごめんなさい。無理なんです。私好きな人が出来ました。だからもう…本当に人としてちゃんとしたいんです。」
「…好きな…人?」
掴まれた腕が急に痛む。
木内さんが手にギリギリと力を込めてきた。
「痛いです…。」
咄嗟に引っ込めようとした腕を逆に引き寄せられ、パンプスを履いたままなのに部屋の中に引っ張り込まれてしまう。
「ちょっと、木内さっ…んむぅっ!」
乱暴にベッドに投げられ、受け身もとれずに枕に顔が埋もれた。
木内さんは、体勢を立て直せず藻掻く私の足からパンプスを剥いで適当に放ると、覆い被さる様にして顔を覗き込む。
「その好きな人ともう付き合ってんの?」
冷たい目に射抜かれ、私は無言でふるふると首を横に振る。
「じゃあ、良いじゃん。別に今までと同じ様に俺と遊べば。」
本当に残酷だ。
好きな人は貴方ですって言わないと解放してはもらえないのだろうか。
私は木内さんの目を真っ直ぐ見詰めた。
そして「もう付き合っていない人と寝るのは止めます。」と言い切った。
暫しの沈黙。
分かってくれたのだろうか。
木内さんは顔色を変えないので何を考えているのかが全く伝わってこない。
今も冷たい目で静かに私を見下ろしている。
「もう帰っても良いですか?」
「分かった…。」
やっと引き出せた肯定の言葉。
だけど、そう言いつつも上からは退いてくれない。
「木内さん?」
顔を見上げて反応を待っていると目を合わせた木内さんは言った。
「じゃあ、最後にヤろう?」
あぁ、コイツ駄目だ。
私の心はドスンと絶望の底に叩き付けられた。
全力で身体を押し退け様と躍起になるも、木内さんはビクともしない。
くるみボタンのコートを無理矢理脱がされる。
そしてその下のシャツが為す術なく引き千切られ、ポンポンとボタン達が飛んでいくのを目で追った。
バラバラに散らばり、追いきれず視界から消えたそれらが床や壁で跳ねる音が一瞬遅れて耳に届く。
コートもシャツもお気に入りだったのに…。
本当に乱暴する時は服とか破るんだ。と、絶望的な思考の中にも冷静な部分が残っていて、他人事な感じでこの状況を観察していた。
心とは別で、身体はめちゃくちゃに暴れ抵抗する。
ここで応じてしまっては元も子も無い。
私はちゃんとして前に進みたいのだ。
「木内さん!やだ!」
「はは…、力強っ…。」
そう発言しつつも、彼は事も無げに私を押さえ付けている。
中性的なその細い身体の何処にそんな力があるのか。
おもむろにブラの中心を鷲掴んで引っ張ると、木内さんは作業台に手を伸ばし裁ち鋏を取る。
まさか、切ったりしないよね…?
嘘だよね?
急に不安が襲い、私は抵抗を止めて木内さんの動向をただ見守もるが。
そのまさかだった。
無情にも真ん中からバッツリと切断されるブラ。
拘束から解放され顕になった胸が揺れる。
なんて事を…。
ショーツとセットで高かったのに…。
もう会わない宣言をする為とはいえ、好きな人と会うんだと思い、勝負下着なんて着けて来てしまった自分の浅はかさを心底後悔した。
「どうして…?こんな…。」
「服が無ければ外に逃げられないでしょ?」
涼しい顔で何でもない事の様にサラッと言う。
背筋を悪寒が駆け登る。
どうしようもなく怖くなり身体を強ばらせていると、「大丈夫。痛い事はしないから。」と優しく囁かれた。
その発言が余計に怖いんだって。
きっと木内さんは本当に痛い事をするつもりはないんだと思う。
だけどどれだけ抵抗しても止める気もなさそうで。
絶対にダメだって分かっているのに、この後私は結局木内さんを受け入れてしまうんだろうなと自分を諦めた。
久し振りの感覚。
木内さんは当たり前に部屋に入る様促してきたけれど、私はそれを無視しして玄関に立ったまま切り出した。
「木内さんに会うのこれで最後にします。」
「え?」
「もう此処には来ません。ホテルでもうちでも会いません。」
振り向いた格好のまま呆然と私を見ている木内さん。
ゆらゆらと小刻みに瞳が揺れ、珍しくポーカーフェイスを崩している。
「私、もうちゃんとしたいんです。壱哉とか凛さんとか全部忘れてスッキリしたいんです。…だからこれで帰ります。」
「待って!」
扉のノブに手を掛けた私の腕を木内さんが掴み、「困るよ。」と呟く。
「はい?」
「そんな勝手な事…困る。」
また可笑しな事を言い出した。
確かに木内さんの目には突然で勝手に映るかもしれない。
だけど散々自分勝手してきた人にそんな言い方されたくない。
「困るって何なんですか?困ってるのはこっちですよ!凛さんは戻ってきたんだし、もう良いじゃないですか… 」
「一人にしないで!」
言い終わる前に被せられる。
兎に角驚いた。
この人、今なんて言った?
私の言い分に対して反論するでも、逆ギレするでもなく、ただただ懇願してきた。
最近の木内さんの態度から簡単には終われない事も覚悟していたけれど、このパターンは全く予想していなかった。
今度は私が呆然としてしまう。
「君と一緒だからここまで耐えられたんだ。これからも君がいてくれないと困る。」
なんて残酷なんだ。
凛さんとの関係を止める気なんてない癖に、私にも執着をする。
本当にこちらの都合なんてお構い無しな人だ。
「ごめんなさい。無理なんです。私好きな人が出来ました。だからもう…本当に人としてちゃんとしたいんです。」
「…好きな…人?」
掴まれた腕が急に痛む。
木内さんが手にギリギリと力を込めてきた。
「痛いです…。」
咄嗟に引っ込めようとした腕を逆に引き寄せられ、パンプスを履いたままなのに部屋の中に引っ張り込まれてしまう。
「ちょっと、木内さっ…んむぅっ!」
乱暴にベッドに投げられ、受け身もとれずに枕に顔が埋もれた。
木内さんは、体勢を立て直せず藻掻く私の足からパンプスを剥いで適当に放ると、覆い被さる様にして顔を覗き込む。
「その好きな人ともう付き合ってんの?」
冷たい目に射抜かれ、私は無言でふるふると首を横に振る。
「じゃあ、良いじゃん。別に今までと同じ様に俺と遊べば。」
本当に残酷だ。
好きな人は貴方ですって言わないと解放してはもらえないのだろうか。
私は木内さんの目を真っ直ぐ見詰めた。
そして「もう付き合っていない人と寝るのは止めます。」と言い切った。
暫しの沈黙。
分かってくれたのだろうか。
木内さんは顔色を変えないので何を考えているのかが全く伝わってこない。
今も冷たい目で静かに私を見下ろしている。
「もう帰っても良いですか?」
「分かった…。」
やっと引き出せた肯定の言葉。
だけど、そう言いつつも上からは退いてくれない。
「木内さん?」
顔を見上げて反応を待っていると目を合わせた木内さんは言った。
「じゃあ、最後にヤろう?」
あぁ、コイツ駄目だ。
私の心はドスンと絶望の底に叩き付けられた。
全力で身体を押し退け様と躍起になるも、木内さんはビクともしない。
くるみボタンのコートを無理矢理脱がされる。
そしてその下のシャツが為す術なく引き千切られ、ポンポンとボタン達が飛んでいくのを目で追った。
バラバラに散らばり、追いきれず視界から消えたそれらが床や壁で跳ねる音が一瞬遅れて耳に届く。
コートもシャツもお気に入りだったのに…。
本当に乱暴する時は服とか破るんだ。と、絶望的な思考の中にも冷静な部分が残っていて、他人事な感じでこの状況を観察していた。
心とは別で、身体はめちゃくちゃに暴れ抵抗する。
ここで応じてしまっては元も子も無い。
私はちゃんとして前に進みたいのだ。
「木内さん!やだ!」
「はは…、力強っ…。」
そう発言しつつも、彼は事も無げに私を押さえ付けている。
中性的なその細い身体の何処にそんな力があるのか。
おもむろにブラの中心を鷲掴んで引っ張ると、木内さんは作業台に手を伸ばし裁ち鋏を取る。
まさか、切ったりしないよね…?
嘘だよね?
急に不安が襲い、私は抵抗を止めて木内さんの動向をただ見守もるが。
そのまさかだった。
無情にも真ん中からバッツリと切断されるブラ。
拘束から解放され顕になった胸が揺れる。
なんて事を…。
ショーツとセットで高かったのに…。
もう会わない宣言をする為とはいえ、好きな人と会うんだと思い、勝負下着なんて着けて来てしまった自分の浅はかさを心底後悔した。
「どうして…?こんな…。」
「服が無ければ外に逃げられないでしょ?」
涼しい顔で何でもない事の様にサラッと言う。
背筋を悪寒が駆け登る。
どうしようもなく怖くなり身体を強ばらせていると、「大丈夫。痛い事はしないから。」と優しく囁かれた。
その発言が余計に怖いんだって。
きっと木内さんは本当に痛い事をするつもりはないんだと思う。
だけどどれだけ抵抗しても止める気もなさそうで。
絶対にダメだって分かっているのに、この後私は結局木内さんを受け入れてしまうんだろうなと自分を諦めた。
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