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傾く方へ。
傾き沈んでいく。
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今度は見慣れた天井。
ベッドの上に仰向けで倒れたまま見上げている。
疲れた…。
もう何も出来ない。
すぐ横で木内さんもそうしているけれど、右腕だけは腕枕をしてくれていて、時折手首を動かしては優しく髪をといてきた。
「最初にした日みたい…。」
「そうだな…。」
呼吸で穏やかに上下する身体。
そのまま深く沈んでいきそうな意識。
木内さんは今日泊まって行く気なのだろうか?
そうぼんやりと考えた後、急に我に返る。
あれ?この人こんな所に居て平気なんだっけ?
そもそも凛さんとはどうなったのか?
「あの…、木内さん…。」
「んー?」
お互い天井を見上げた格好で声だけの会話。
「凛さんとどうなったんですか?」
「えー?凛子と?」
「はい。凛さんと。」
「んー?んー…。特にどうもなってないけど?」
「は?」
思わず木内さんを見た。
首だけ起こし横に捻って睨見付ける。
彼は依然上を向いたまま目だけをチラッと合わせ「こわっ。」と呟いた。
その小馬鹿にする様な態度に尚更苛立つ。
「どうもならない訳なくないですか?だって凛さん『これからはちゃんとする』って言ってたじゃないですか?」
「人間はそうそう変わらない。」
こちらの熱量とは違い静かに言い切る木内さん。
肩透かしを食らった気持ちで、私はまた天井に向き直り声だけのコミュニケーションに戻った。
「凛子はね。ちゃんと仕方なんか知らないんだから、ちゃんとなんか一生出来ないよ。」
「いやいや、一昨日の今日ですよ?まだ分からないじゃないですか?」
「今日も誰かと会ってるのに?」
「えー?まさか。だいたい何でそんな事分かる…」
「GPS見たから。またあのホテルに居るよ。」
「えー…。」
私は心から引いた。
あれだけ執着を見せておいて結局木内さんを大切に出来ていない凛さん。
そしてここまで来て未だにGPSなんかで監視している木内さんにも。
人間はそうそう変わらないだなんて。
正に「お前もな。」と言いたくなった。
だけどそれを言うなら私もそうで。
結局今日木内さんを受け入れたんだから偉そうな事は言えない。
何処までも自分勝手な凛さんに、敢えて振り回され続ける木内さん。
傾く方へコロコロと転がり続ける私と。
登場人物の全てがちゃんとなんて出来ていないのだから誰一人文句を言える立場にない。
「だからって流石に私と会ってるのは許さないでしょう?」
「大丈夫。スマホは家に置いて来た。」
「へ?」
再度顔を上げ木内さんを見る。
今度は彼も私に顔を向けてきた。
そしてニッコリと微笑む。
「君だって困るでしょう?俺がここに居るって凛子にバレるのは。」
「そんな事…。」
ここまで言って言葉が出てこなくなった。
壱哉の話を聞いて今の私に凛さんへの罪悪感も嫌われたくないという想いも残っていない。
だけどそれを木内さんに言う気にはなれずに黙る。
「俺はね。凛子に変わって欲しくないんだ。」
「…何で?」
「ちゃんと俺を見る凛子なんてそれはもう凛子じゃない。」
意味が分からない。
辛くて苦しくて。
凛さんを壱哉から取り戻す為に私を巻き込んだのに?
その凛さんの意識が変わるかもしれなかったのに、今更変わらない事を望むなんて全く理解出来ない。
そしてここまで散々巻き込まれて、やってらんねぇと言う気持ちにもなる。
「アンタ何がしたいの?」
「ふはっ。急にタメ語。」
「笑ってる場合か。」
身体を起こし呆れた顔で見下ろす私を相変わらず涼しい顔でただ見上げてきた。
私は次々に湧いてくる疑問やら、スッキリしない現状に我慢ならなくなり言葉が溢れ出る。
「一人が辛くて同士を作ったんでしょう?『凛子は俺に興味無い』とか寂しそうに言ってた癖に。いざ凛さんの態度が変わったら変わって欲しくないとか。その癖未だにGPSで行動把握して、だけど自分の行動は把握させなくてって…。本当にアンタ何がしたいの?」
「何がしたいか…?」
不意に腕が伸ばされ捕えられる。
そして抱き寄せられ、またベッドに押さえ付けられた。
「キスがしたい。」
「ばっ…んぅっ、むっ…。」
馬鹿野郎と言い切る前に塞がれる口。
結局こうやってグズグズにされて全部有耶無耶なまま、私は木内さんの方へ傾き沈んでいく。
ベッドの上に仰向けで倒れたまま見上げている。
疲れた…。
もう何も出来ない。
すぐ横で木内さんもそうしているけれど、右腕だけは腕枕をしてくれていて、時折手首を動かしては優しく髪をといてきた。
「最初にした日みたい…。」
「そうだな…。」
呼吸で穏やかに上下する身体。
そのまま深く沈んでいきそうな意識。
木内さんは今日泊まって行く気なのだろうか?
そうぼんやりと考えた後、急に我に返る。
あれ?この人こんな所に居て平気なんだっけ?
そもそも凛さんとはどうなったのか?
「あの…、木内さん…。」
「んー?」
お互い天井を見上げた格好で声だけの会話。
「凛さんとどうなったんですか?」
「えー?凛子と?」
「はい。凛さんと。」
「んー?んー…。特にどうもなってないけど?」
「は?」
思わず木内さんを見た。
首だけ起こし横に捻って睨見付ける。
彼は依然上を向いたまま目だけをチラッと合わせ「こわっ。」と呟いた。
その小馬鹿にする様な態度に尚更苛立つ。
「どうもならない訳なくないですか?だって凛さん『これからはちゃんとする』って言ってたじゃないですか?」
「人間はそうそう変わらない。」
こちらの熱量とは違い静かに言い切る木内さん。
肩透かしを食らった気持ちで、私はまた天井に向き直り声だけのコミュニケーションに戻った。
「凛子はね。ちゃんと仕方なんか知らないんだから、ちゃんとなんか一生出来ないよ。」
「いやいや、一昨日の今日ですよ?まだ分からないじゃないですか?」
「今日も誰かと会ってるのに?」
「えー?まさか。だいたい何でそんな事分かる…」
「GPS見たから。またあのホテルに居るよ。」
「えー…。」
私は心から引いた。
あれだけ執着を見せておいて結局木内さんを大切に出来ていない凛さん。
そしてここまで来て未だにGPSなんかで監視している木内さんにも。
人間はそうそう変わらないだなんて。
正に「お前もな。」と言いたくなった。
だけどそれを言うなら私もそうで。
結局今日木内さんを受け入れたんだから偉そうな事は言えない。
何処までも自分勝手な凛さんに、敢えて振り回され続ける木内さん。
傾く方へコロコロと転がり続ける私と。
登場人物の全てがちゃんとなんて出来ていないのだから誰一人文句を言える立場にない。
「だからって流石に私と会ってるのは許さないでしょう?」
「大丈夫。スマホは家に置いて来た。」
「へ?」
再度顔を上げ木内さんを見る。
今度は彼も私に顔を向けてきた。
そしてニッコリと微笑む。
「君だって困るでしょう?俺がここに居るって凛子にバレるのは。」
「そんな事…。」
ここまで言って言葉が出てこなくなった。
壱哉の話を聞いて今の私に凛さんへの罪悪感も嫌われたくないという想いも残っていない。
だけどそれを木内さんに言う気にはなれずに黙る。
「俺はね。凛子に変わって欲しくないんだ。」
「…何で?」
「ちゃんと俺を見る凛子なんてそれはもう凛子じゃない。」
意味が分からない。
辛くて苦しくて。
凛さんを壱哉から取り戻す為に私を巻き込んだのに?
その凛さんの意識が変わるかもしれなかったのに、今更変わらない事を望むなんて全く理解出来ない。
そしてここまで散々巻き込まれて、やってらんねぇと言う気持ちにもなる。
「アンタ何がしたいの?」
「ふはっ。急にタメ語。」
「笑ってる場合か。」
身体を起こし呆れた顔で見下ろす私を相変わらず涼しい顔でただ見上げてきた。
私は次々に湧いてくる疑問やら、スッキリしない現状に我慢ならなくなり言葉が溢れ出る。
「一人が辛くて同士を作ったんでしょう?『凛子は俺に興味無い』とか寂しそうに言ってた癖に。いざ凛さんの態度が変わったら変わって欲しくないとか。その癖未だにGPSで行動把握して、だけど自分の行動は把握させなくてって…。本当にアンタ何がしたいの?」
「何がしたいか…?」
不意に腕が伸ばされ捕えられる。
そして抱き寄せられ、またベッドに押さえ付けられた。
「キスがしたい。」
「ばっ…んぅっ、むっ…。」
馬鹿野郎と言い切る前に塞がれる口。
結局こうやってグズグズにされて全部有耶無耶なまま、私は木内さんの方へ傾き沈んでいく。
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