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傾く方へ。
反論。
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壱哉は落ち着かない感じで、あぐらをかいた足を揺すっている。
ローテーブルの向こう側。
私はベッドに腰掛け、冷めた気持ちでそれを見下ろしていた。
きっと言いたい事も聞きたい事も沢山あるだろうに、どう切り出せば良いのか分からないのだろう。
一方で私は壱哉に言いたい事も聞きたい事もこれと言ってない。
さっさと別れ話を終わらせて帰って欲しいとしか思っていなかった。
それなのに一向に切り出して来ない壱哉。
このままでは何も終わらない。
話がある側がスっと話せよ。と思いつつも私から場を動かす事にした。
「今日…休みだったの?」
「え?」
突然の問い掛けに驚いた顔を向けてくる。
「私早番でかなり早く上がったのに壱哉もう外にいたからさ。」
「あー…。半休だったから…。ユリの誕生日だし。約束してたし。本当は全休にするつもりだったけどシフト作ってた時は今と状況が違ってたしさ…。」
成程。
つまり凛さんに夢中で私と別れたかった頃に作ったシフトって訳か。
大方、仕事で半休しか取れなかったと言い訳をして会う時間を減らすつもりだったのだろう。
あの時の壱哉はそこまで私に会いたくなかったのか。
そう思ったら笑えてきた。
「ふふ…。別にもう良いのに。電話でも言ったけど誕生日なんて忘れてると思ってたし…。」
「忘れてない!」
壱哉は声を荒らげる。
「伝わる様な態度とってこなかったし、口では何とでも言えるだろって思われるって分かってるけど。ずっとユリの事考えてた!それに毎日後悔してた!」
「…へー。」
確かに壱哉の言う通りだ。
そんな強く語り掛けられても口では何とでも言えるとしか思えなかった。
「今更だよ。私だって毎日後悔してたよ。嫌がらせの為に別れを引き延ばした事。」
「は?え?嫌がらせ?」
壱哉は信じられないと言った感じで弱く笑う。
「今、嫌がらせの為って言った?」
「…うん。」
「好きだから引き留めたんじゃなかったのかよ?」
「好きだったよ。」
「じゃあ何で…?嫌がらせって…。おかしいと思ったんだよ。別れるの嫌がった割りに連絡もして来ないし。俺の事好きな素振りも無かったし…」
勝手な解釈で話を進める壱哉を見ていると、一瞬にして頭に血が上った。
ついさっきまではもうとっくに終わった事だと思い心が全く動かなかったのに。
やっぱり壱哉本人から責められると文句の一つも言いたくなってしまう。
どの立場でものを言っているんだ。
今度は私が声を荒らげる。
「好きだったから嫌がらせしたって分かってよ!凛さんと会う度に少しでも私を思い出して欲しいって思ったの!それが罪悪感だとしても!」
「え?やっぱり凛子ちゃんとの事知っ…」
「知ってたよ。」
人目も憚らず喫煙室でイチャイチャしておきながら、知ってたもクソもないだろうと思う。
本当に舐め腐っている。
そうでなきゃ一ヶ月も放置しておいて、今更都合よく戻ろうなんて出来っこない。
「壱哉が別れたいって言い出すタイミングも何となく分かってたし、別れたいって言った次の日に凛さんと二人で会い始めた事も知ってる。」
「それは…」
「今凛さんと居るかもしれないって怖くなるのに私から連絡出来るわけないじゃん。もしかしたら思い留まってくれるかもとか、気が変わって戻ってきてくれるかもとか。そうやって待ってる間ずっと惨めで…。惨め過ぎて別れたくないって言った事直ぐに後悔した。」
身体が震えていた。
つられて声も揺れる。
あの時の怒りや悲しみややるせなかった想いが現在の事の様に蘇って息苦しい。
だけど涙は出ない。
当時の自分が可哀想で哀れで。
再燃した怒りをただ吐き出しているだけ。
「今更戻るなんて有り得ないから。」
私はいつの間にか立ち上がっていた。
怯えた様に見上げてくる壱哉を見下す。
気付けば指先が白くなるほど拳を握りしめていた。
でもこれで壱哉も引き下がってくれるだろう。
言い切った事によって微かに安堵感が芽生え始める。
が、それを覆す様に壱哉が反論してきた。
「でもユリだって男と居たよな?」
ローテーブルの向こう側。
私はベッドに腰掛け、冷めた気持ちでそれを見下ろしていた。
きっと言いたい事も聞きたい事も沢山あるだろうに、どう切り出せば良いのか分からないのだろう。
一方で私は壱哉に言いたい事も聞きたい事もこれと言ってない。
さっさと別れ話を終わらせて帰って欲しいとしか思っていなかった。
それなのに一向に切り出して来ない壱哉。
このままでは何も終わらない。
話がある側がスっと話せよ。と思いつつも私から場を動かす事にした。
「今日…休みだったの?」
「え?」
突然の問い掛けに驚いた顔を向けてくる。
「私早番でかなり早く上がったのに壱哉もう外にいたからさ。」
「あー…。半休だったから…。ユリの誕生日だし。約束してたし。本当は全休にするつもりだったけどシフト作ってた時は今と状況が違ってたしさ…。」
成程。
つまり凛さんに夢中で私と別れたかった頃に作ったシフトって訳か。
大方、仕事で半休しか取れなかったと言い訳をして会う時間を減らすつもりだったのだろう。
あの時の壱哉はそこまで私に会いたくなかったのか。
そう思ったら笑えてきた。
「ふふ…。別にもう良いのに。電話でも言ったけど誕生日なんて忘れてると思ってたし…。」
「忘れてない!」
壱哉は声を荒らげる。
「伝わる様な態度とってこなかったし、口では何とでも言えるだろって思われるって分かってるけど。ずっとユリの事考えてた!それに毎日後悔してた!」
「…へー。」
確かに壱哉の言う通りだ。
そんな強く語り掛けられても口では何とでも言えるとしか思えなかった。
「今更だよ。私だって毎日後悔してたよ。嫌がらせの為に別れを引き延ばした事。」
「は?え?嫌がらせ?」
壱哉は信じられないと言った感じで弱く笑う。
「今、嫌がらせの為って言った?」
「…うん。」
「好きだから引き留めたんじゃなかったのかよ?」
「好きだったよ。」
「じゃあ何で…?嫌がらせって…。おかしいと思ったんだよ。別れるの嫌がった割りに連絡もして来ないし。俺の事好きな素振りも無かったし…」
勝手な解釈で話を進める壱哉を見ていると、一瞬にして頭に血が上った。
ついさっきまではもうとっくに終わった事だと思い心が全く動かなかったのに。
やっぱり壱哉本人から責められると文句の一つも言いたくなってしまう。
どの立場でものを言っているんだ。
今度は私が声を荒らげる。
「好きだったから嫌がらせしたって分かってよ!凛さんと会う度に少しでも私を思い出して欲しいって思ったの!それが罪悪感だとしても!」
「え?やっぱり凛子ちゃんとの事知っ…」
「知ってたよ。」
人目も憚らず喫煙室でイチャイチャしておきながら、知ってたもクソもないだろうと思う。
本当に舐め腐っている。
そうでなきゃ一ヶ月も放置しておいて、今更都合よく戻ろうなんて出来っこない。
「壱哉が別れたいって言い出すタイミングも何となく分かってたし、別れたいって言った次の日に凛さんと二人で会い始めた事も知ってる。」
「それは…」
「今凛さんと居るかもしれないって怖くなるのに私から連絡出来るわけないじゃん。もしかしたら思い留まってくれるかもとか、気が変わって戻ってきてくれるかもとか。そうやって待ってる間ずっと惨めで…。惨め過ぎて別れたくないって言った事直ぐに後悔した。」
身体が震えていた。
つられて声も揺れる。
あの時の怒りや悲しみややるせなかった想いが現在の事の様に蘇って息苦しい。
だけど涙は出ない。
当時の自分が可哀想で哀れで。
再燃した怒りをただ吐き出しているだけ。
「今更戻るなんて有り得ないから。」
私はいつの間にか立ち上がっていた。
怯えた様に見上げてくる壱哉を見下す。
気付けば指先が白くなるほど拳を握りしめていた。
でもこれで壱哉も引き下がってくれるだろう。
言い切った事によって微かに安堵感が芽生え始める。
が、それを覆す様に壱哉が反論してきた。
「でもユリだって男と居たよな?」
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