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傾く方へ。
頭によぎる。
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ベッドの上。
今私は木内さんの腕の中にいる。
家に帰れなかった経緯を話すと、彼は慣れた感じで私を後ろから包み込み、肩に顎を載せてきた。
セミダブルだからもう少し離れたって問題ない筈なのに…。
そして「やっぱ暫くうちに居な?」と囁き腕に力を込める。
「うちに居れば取り敢えずは安全でしょ?」
「…はい。」
ここに居れば身は安全かもしれないけれど、心は安全じゃない。
そう言って突っ撥ねなければいけないのにそれができなかった。
これ以上木内さんを好きになりたくないのに、差し伸べられた手を取ってしまう。
私は自分を諦めさせる為に敢えて聞きたくない事を質問する。
「木内さんはどうして凛さんに拘るんですか?」
「え?なに、急に…。」
「だってこのままだと苦しそうだから…。」
凛さんの魅力は私にも痛い程分かる。
だけど恋人として一緒に居て幸せかどうかは疑問だ。
私には分からない二人の付き合い方があるのだろうけど、お互い納得して円満に過ごしている様にはどうしても見えない。
「苦しそう…。そうか…。」
噛み締める様に私の言葉を反芻している。
そして一度大きく息を吐きポツポツと語り出した。
「俺さ、2個上に兄貴がいるんだけど。全然似てなくて俺と違って優秀でさ…。人から好かれるし何でも器用に熟すし。結構自慢の兄貴で憧れてもいるんだよ。兄貴の言う事はいつも正しいし、間違いないから…。なのにさ、ははっ…。」
自嘲気味な乾いた笑い。
ここでまた大きく息を吐く。
「兄貴恋愛だけは下手くそでさ。高校ん時に最初に付き合った女をくだらない理由で振った事を凄く後悔してて。それを未だに引きずってんの。もうアラサーなのにな。しかも何年か前に自分の可愛がってる後輩とその女が結婚しちゃって。それ以来余計に拗れちゃってさ…。『手放したら戻らない。正解か不正解か分かるまでは手放したらいけなかったんだ。』って鬼気迫る感じで言われて。兄貴の拗れ方とか見てたらさ、一回この女だ!って思わされた凛子を手放すのが怖くなった。」
「そうですか…。」
少し分かった気がする。
囚われているのは凛さんにではなくその思考になんだ。
コレじゃないのかもと思っても、確実にコレじゃないって確信が持てるまでは手放せない。
もしくは絶対にコッチだって新しく確信が持てる存在が現れないとその場から動けない。
「呪いみたいですね…。しかも凛さんではなくてお兄さんの。」
「…うん。そうだな…。」
私の髪に顔を埋めて甘える様な声を出す。
「好き勝手して見えるけど凛子の方が全然被害者だよ。俺の呪いに付き合わされてるんだから…。君も引いてたじゃん?スマホにGPS入れたり。」
「ああー、ありましたね。」
ほんの数週間前の出来事が遠い昔の様に懐かしい。
確かにあの時の私は木内さんの執念深さに引いていた。
だけど今は違う。
「可哀想…。」
私は身体ごと木内さんの方に向くと、彼の頭を胸に抱き締める。
「木内さんも凛さんも…。木内さんのお兄さんも。壱哉も私も。みんな可哀想。」
「そうだな。でも…。」
私の背中に回している腕の力を強め抱き縋ると続けた。
「滑稽なのは俺だけだ。」
そう言って私の胸で大きく深呼吸をする。
胸元がほんわり熱くなった。
女の子みたいに細くてサラサラの髪を愛おしくなって撫でると髪からあの匂いが香る。
セックスをしなくても私達はこう言う時間をすごせるんだ。
なんて思った途端に太腿に硬くあたる感触。
「ちょっと。木内さん。」
呆れて睨むと顔を上げた彼はいじけた目を向けてきた。
「しないよ?でも勃っちゃうのは仕方なくない?ユリの匂いするし。」
ああ、今名前で呼んだ。
本当はスイッチ入ってるじゃん。って言おうとしたけど言えなかった。
チュッと触れるだけのキスをされ、胸が締め付けられる。
切なくて自分でも瞳が潤むのを感じた。
見詰め合って止まる時間。
「しないから…。キスだけさせて…。」
木内さんは苦しそうに吐き出すと少し角度を付けて私の唇を食む。
そのまま何回も軽く啄んで、時々離れて目を合わせる。
その顔と優しくて長いキスが、まるで愛してくれているみたいで。
好きだと言っている様で。
私は勘違いしそうになる自分を必死に抑えていた。
愛しい気持ちが溢れて、体内に留めておけなくて。
大きく溜め息を吐いて逃がすけれど…。
何度目かに口が離れた時、木内さんも大きく息を吐いて私を強く抱き締めてきた。
彼の吐く息が震えている。
絶対に違うって分かっているのに。
どうしたって頭に過ぎってしまう。
木内さんも私を好き?
今私は木内さんの腕の中にいる。
家に帰れなかった経緯を話すと、彼は慣れた感じで私を後ろから包み込み、肩に顎を載せてきた。
セミダブルだからもう少し離れたって問題ない筈なのに…。
そして「やっぱ暫くうちに居な?」と囁き腕に力を込める。
「うちに居れば取り敢えずは安全でしょ?」
「…はい。」
ここに居れば身は安全かもしれないけれど、心は安全じゃない。
そう言って突っ撥ねなければいけないのにそれができなかった。
これ以上木内さんを好きになりたくないのに、差し伸べられた手を取ってしまう。
私は自分を諦めさせる為に敢えて聞きたくない事を質問する。
「木内さんはどうして凛さんに拘るんですか?」
「え?なに、急に…。」
「だってこのままだと苦しそうだから…。」
凛さんの魅力は私にも痛い程分かる。
だけど恋人として一緒に居て幸せかどうかは疑問だ。
私には分からない二人の付き合い方があるのだろうけど、お互い納得して円満に過ごしている様にはどうしても見えない。
「苦しそう…。そうか…。」
噛み締める様に私の言葉を反芻している。
そして一度大きく息を吐きポツポツと語り出した。
「俺さ、2個上に兄貴がいるんだけど。全然似てなくて俺と違って優秀でさ…。人から好かれるし何でも器用に熟すし。結構自慢の兄貴で憧れてもいるんだよ。兄貴の言う事はいつも正しいし、間違いないから…。なのにさ、ははっ…。」
自嘲気味な乾いた笑い。
ここでまた大きく息を吐く。
「兄貴恋愛だけは下手くそでさ。高校ん時に最初に付き合った女をくだらない理由で振った事を凄く後悔してて。それを未だに引きずってんの。もうアラサーなのにな。しかも何年か前に自分の可愛がってる後輩とその女が結婚しちゃって。それ以来余計に拗れちゃってさ…。『手放したら戻らない。正解か不正解か分かるまでは手放したらいけなかったんだ。』って鬼気迫る感じで言われて。兄貴の拗れ方とか見てたらさ、一回この女だ!って思わされた凛子を手放すのが怖くなった。」
「そうですか…。」
少し分かった気がする。
囚われているのは凛さんにではなくその思考になんだ。
コレじゃないのかもと思っても、確実にコレじゃないって確信が持てるまでは手放せない。
もしくは絶対にコッチだって新しく確信が持てる存在が現れないとその場から動けない。
「呪いみたいですね…。しかも凛さんではなくてお兄さんの。」
「…うん。そうだな…。」
私の髪に顔を埋めて甘える様な声を出す。
「好き勝手して見えるけど凛子の方が全然被害者だよ。俺の呪いに付き合わされてるんだから…。君も引いてたじゃん?スマホにGPS入れたり。」
「ああー、ありましたね。」
ほんの数週間前の出来事が遠い昔の様に懐かしい。
確かにあの時の私は木内さんの執念深さに引いていた。
だけど今は違う。
「可哀想…。」
私は身体ごと木内さんの方に向くと、彼の頭を胸に抱き締める。
「木内さんも凛さんも…。木内さんのお兄さんも。壱哉も私も。みんな可哀想。」
「そうだな。でも…。」
私の背中に回している腕の力を強め抱き縋ると続けた。
「滑稽なのは俺だけだ。」
そう言って私の胸で大きく深呼吸をする。
胸元がほんわり熱くなった。
女の子みたいに細くてサラサラの髪を愛おしくなって撫でると髪からあの匂いが香る。
セックスをしなくても私達はこう言う時間をすごせるんだ。
なんて思った途端に太腿に硬くあたる感触。
「ちょっと。木内さん。」
呆れて睨むと顔を上げた彼はいじけた目を向けてきた。
「しないよ?でも勃っちゃうのは仕方なくない?ユリの匂いするし。」
ああ、今名前で呼んだ。
本当はスイッチ入ってるじゃん。って言おうとしたけど言えなかった。
チュッと触れるだけのキスをされ、胸が締め付けられる。
切なくて自分でも瞳が潤むのを感じた。
見詰め合って止まる時間。
「しないから…。キスだけさせて…。」
木内さんは苦しそうに吐き出すと少し角度を付けて私の唇を食む。
そのまま何回も軽く啄んで、時々離れて目を合わせる。
その顔と優しくて長いキスが、まるで愛してくれているみたいで。
好きだと言っている様で。
私は勘違いしそうになる自分を必死に抑えていた。
愛しい気持ちが溢れて、体内に留めておけなくて。
大きく溜め息を吐いて逃がすけれど…。
何度目かに口が離れた時、木内さんも大きく息を吐いて私を強く抱き締めてきた。
彼の吐く息が震えている。
絶対に違うって分かっているのに。
どうしたって頭に過ぎってしまう。
木内さんも私を好き?
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