34 / 79
傾く方へ。
知りたくなかった。
しおりを挟む
ダボダボのTシャツ。
顔を埋めると木内さんの匂いがする。
気恥しいのを悟られない様、涼しい顔でリビングへ入ると、ベッドと反対側の空間に置いてあるダイニングテーブルに木内さんはいた。
「夕飯まだでしょ?俺自炊しないからカップ麺しかないけど…。」
「え?木内さんが用意してくれたんですか?ありがとうございます。」
礼を言い椅子に座る。
私の前にお湯の入ったカップ麺を置くと、木内さんは自分の分を持ちながら向かいの席に座った。
「お湯入れたばっかだから今から3分ね。」
「どうも。」
「んー。」
キッチンから持ってきた2膳のお箸をそれぞれの蓋の上に乗せていく。
どちらも黒くて長めのお箸。
お風呂を借りた時、もっと言えば玄関を入った時からの疑問。
「この家…凛さんの物とか全然置いてないんですね?」
「んー?…んー。」
「他人の物を部屋に置いときたくないタイプですか?」
「いや…。そんなんじゃないから…。君はさっき買ったお泊まりセット置いといて良いよ。」
「え?」
「帰れない理由があんでしょ?今日から暫くうちに居れば良いよ。」
「え?」
「あー、理由は話せる様になったら教えてよ。普通に心配だし。」
展開に着いていけなかった。
疑問が増すばかりだ。
「いや、あの、理由なんて全然話せますけど、でも、そうじゃなくて、私がここに居たら凛さん来る時とか困るじゃないですか?」
「ははは、大丈夫大丈夫。」
彼はないないといった感じで顔の前で手を振り笑い飛ばす。
「凛子はここへは来ないよ。来た事もないし。」
「へ?一度も?」
「うん。一回も。」
何年も付き合っていてそんな事ってあるのだろうか。
だけど木内さんと凛さんの関係は何処か特殊な感じがして。
凡人な私には理解が及ばない事情があるのかもしれない。
道理で女っ気のない部屋をしている訳だと納得もできた。
「あ、3分経つよ。」
テーブルの上のスマホを覗いて木内さんが言い、続けてピピピピと電子音が響く。
蓋を剥がし、二人同時に「いただきます。」と手を合わせた。
ジャンキーで人の気持ちとかお構い無しで、礼節なんて重んじなさそうに見える木内さんのいただきますが意外で笑ってしまった。
そう言えば私達は一緒に食卓を囲んだ事がなかった。
会えば身体を重ねる事に夢中で。
その後は気絶するみたいに眠って。
性欲と惰眠に塗れて、もっと手前の通常のコミュニケーション手段を一切とっていなかった。
木内さんと食べるとカップラーメンでも美味しいんだ。
何でもない話でも楽しいんだ。
身に染みて実感しながら、私はそれを知りたくなかったと思った。
顔を埋めると木内さんの匂いがする。
気恥しいのを悟られない様、涼しい顔でリビングへ入ると、ベッドと反対側の空間に置いてあるダイニングテーブルに木内さんはいた。
「夕飯まだでしょ?俺自炊しないからカップ麺しかないけど…。」
「え?木内さんが用意してくれたんですか?ありがとうございます。」
礼を言い椅子に座る。
私の前にお湯の入ったカップ麺を置くと、木内さんは自分の分を持ちながら向かいの席に座った。
「お湯入れたばっかだから今から3分ね。」
「どうも。」
「んー。」
キッチンから持ってきた2膳のお箸をそれぞれの蓋の上に乗せていく。
どちらも黒くて長めのお箸。
お風呂を借りた時、もっと言えば玄関を入った時からの疑問。
「この家…凛さんの物とか全然置いてないんですね?」
「んー?…んー。」
「他人の物を部屋に置いときたくないタイプですか?」
「いや…。そんなんじゃないから…。君はさっき買ったお泊まりセット置いといて良いよ。」
「え?」
「帰れない理由があんでしょ?今日から暫くうちに居れば良いよ。」
「え?」
「あー、理由は話せる様になったら教えてよ。普通に心配だし。」
展開に着いていけなかった。
疑問が増すばかりだ。
「いや、あの、理由なんて全然話せますけど、でも、そうじゃなくて、私がここに居たら凛さん来る時とか困るじゃないですか?」
「ははは、大丈夫大丈夫。」
彼はないないといった感じで顔の前で手を振り笑い飛ばす。
「凛子はここへは来ないよ。来た事もないし。」
「へ?一度も?」
「うん。一回も。」
何年も付き合っていてそんな事ってあるのだろうか。
だけど木内さんと凛さんの関係は何処か特殊な感じがして。
凡人な私には理解が及ばない事情があるのかもしれない。
道理で女っ気のない部屋をしている訳だと納得もできた。
「あ、3分経つよ。」
テーブルの上のスマホを覗いて木内さんが言い、続けてピピピピと電子音が響く。
蓋を剥がし、二人同時に「いただきます。」と手を合わせた。
ジャンキーで人の気持ちとかお構い無しで、礼節なんて重んじなさそうに見える木内さんのいただきますが意外で笑ってしまった。
そう言えば私達は一緒に食卓を囲んだ事がなかった。
会えば身体を重ねる事に夢中で。
その後は気絶するみたいに眠って。
性欲と惰眠に塗れて、もっと手前の通常のコミュニケーション手段を一切とっていなかった。
木内さんと食べるとカップラーメンでも美味しいんだ。
何でもない話でも楽しいんだ。
身に染みて実感しながら、私はそれを知りたくなかったと思った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる