傾く方へ

seitennosei

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傾く方へ。

喜びの涙。

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一回だけコールした後。
「お、え?…どうした?」
「わ、え?はやっ…。」
想定よりも早く応答され上手く言葉が出なかった。
「いやだって、ビックリだわ。君から掛けて来ると思わないし。丁度連絡しようと思ってスマホ弄ってた時だったし…。」
低くて優しい声が耳から流れ込んでくる。
そして私に連絡しようと思ってくれていたという言葉。
何だか全てに安心出来て。
「…っふぅ…っ。」
胸が圧迫されて、喉が詰まって、顔が熱くなって。
零れそうになる嗚咽を飲み込んで益々苦しくなった。
「ん?…どうした?」
「…っんぐ。」
「え?ちょっと!おい!」
限界で縋る様に木内さんに繋いだのに。
この期に及んでどう吐き出したら良いのかが分からない。
一言でも発したら余計な事まで言ってしまいそうで口を開けないでいた。
「今何処にいる?」
「…ひっ…ぅ。」
「何で泣いてんの?今そこは安全なの?」
「…あぐっ…。」
会いたいって言いそうになって止めた。
「とにかく、安全じゃないなら安全なとこに移動しろ。今から行くから。」
「…っ…。」
助けてって言いそうになってまた止めた。
電話の向こうでガタガタと音がする。
「おい!今家出たから…とりあえず君んちの方に向かうけど…。それで良い?」
「…んんっ、ぅん…。」
「おし。一旦切るけど落ち着いたら何処に居るのかメッセージ入れる様に。着いたらまた掛けるから絶対出ろよ。」
「…うん…っ。」
大通りの歩道でしゃがみこみ、泣きながら通話している私を通り過ぎる人達が不思議そうに見て行く。
だけど木内さんの言葉が、行動が嬉しくて、涙が止まらなかった。
通話を切る直前。
「ユリ。」
優しい声で囁かれる。
「大丈夫だから…、な。」
そしてプツッと遮断される音声。
続けてツーッツーッと鳴り続ける通話終了を知らせる音。
暫くそれを聴きながら私は安堵と喜びの涙を流した。
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