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傾く方へ。
矢印の先。
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私の選んだ真っ赤なエンジニアブーツ。
それを履いて颯爽と前に進む凛さんに心臓が鳴る。
私の選んだ物を身に着けているんだ。
彼女は誰の物にもならないけれど、何だか私の存在を刻めた様な、マーキング出来た様な錯覚に陥った。
男性が意中の女性に贈り物をする時の心理とはきっとこんな感じなのだろう。
複雑な感情が生まれるのに、結局彼女を嫌いになれないでいる。
休憩室に続く廊下を歩く凛さん。
追う様に少し離れた後ろを着いて行く。
そうして先を行く後ろ姿を眺める。
ピンと伸びた背筋の健全さと、ぶっ飛んだファッションの不健全さがミスマッチで、見ていて飽きない。
だけど今日も凛さんは木内さんと私をヤキモキさせたまま壱哉の元へ向かうんだと思えばほんのり悲しくもなった。
先週、彼女が私の店に現れた時。
少しは腹を割って話せたと思い嬉しかったけれど、それは私だけだったのかもしれない。
あれ以降も凛さんは変わらなかった。
向き合ったら僅かでも何か変わるかもしれないと期待していた私は、変わらなかった現実に少しガッカリした。
だけどそれは彼女に理想を押し付け続ける事を選択した私にも一端はあって。
そして現状が変わらなかった事によって、木内さんと居られる時間が延びてくれたと思う自分もいた。
どんどん分からなくなっていく。
これまではイヤイヤ巻き込まれ、本意ではない状態に持っていかれたと被害者のつもりでいたけれど、いよいよ自身にそう言い聞かせるもの限界が近い。
今私は紛う事なき当事者であり、尚且つ誰に対しても加害者に成り得る立場になってしまった。
何時から踏み外していたのだろう。
凛さんに理想を押し付けた所だろうか?
それとももっと前、壱哉との別れを無理やり先延ばした所?
いや、多分もっともっと前。
木内さんに出会った時だ。
私はきっと初めから木内さんに惹かれていた。
当初は、なんて失礼な奴だと嫌悪していたので自覚出来ていなかったけれど、今でも振り返れば鮮明に思い出せる事がある。
全てをどうでも良いと思わせる程の良い香りと、この世の何よりも美しいと感じた横顔。
いくらでも拒むタイミングはあった筈なのに。
木内さんのせいにして流れに身を任せたのは私の意思だ。
もう自分がどうすれば良いのか分からない。
凛さんも好き。
木内さんも好き。
どうしようも無く惹かれてしまう二人の狭間でフラフラと立ち行かなくなる。
だけど悲しい思考が降って湧いた。
二人とも好きだけれど、二人が好きなのは私じゃない。
そうだ私は独りだ。
渦中のど真ん中、完全なる当事者の筈なのに、誰にとっても私は一番じゃない。
複雑に飛び交う矢印の向く先。
そこに私は居ない。
誰の想いも私には刺さらない。
私は二人に想いを向けているのに…。
急な寂しさが全身を包む。
直後にハッとして我に帰る。
そして冷静になって呟いた。
「ごめん、壱哉…。」
私の見ている世界の中。
壱哉に向いている矢印ももう存在していないみたいだった。
それを履いて颯爽と前に進む凛さんに心臓が鳴る。
私の選んだ物を身に着けているんだ。
彼女は誰の物にもならないけれど、何だか私の存在を刻めた様な、マーキング出来た様な錯覚に陥った。
男性が意中の女性に贈り物をする時の心理とはきっとこんな感じなのだろう。
複雑な感情が生まれるのに、結局彼女を嫌いになれないでいる。
休憩室に続く廊下を歩く凛さん。
追う様に少し離れた後ろを着いて行く。
そうして先を行く後ろ姿を眺める。
ピンと伸びた背筋の健全さと、ぶっ飛んだファッションの不健全さがミスマッチで、見ていて飽きない。
だけど今日も凛さんは木内さんと私をヤキモキさせたまま壱哉の元へ向かうんだと思えばほんのり悲しくもなった。
先週、彼女が私の店に現れた時。
少しは腹を割って話せたと思い嬉しかったけれど、それは私だけだったのかもしれない。
あれ以降も凛さんは変わらなかった。
向き合ったら僅かでも何か変わるかもしれないと期待していた私は、変わらなかった現実に少しガッカリした。
だけどそれは彼女に理想を押し付け続ける事を選択した私にも一端はあって。
そして現状が変わらなかった事によって、木内さんと居られる時間が延びてくれたと思う自分もいた。
どんどん分からなくなっていく。
これまではイヤイヤ巻き込まれ、本意ではない状態に持っていかれたと被害者のつもりでいたけれど、いよいよ自身にそう言い聞かせるもの限界が近い。
今私は紛う事なき当事者であり、尚且つ誰に対しても加害者に成り得る立場になってしまった。
何時から踏み外していたのだろう。
凛さんに理想を押し付けた所だろうか?
それとももっと前、壱哉との別れを無理やり先延ばした所?
いや、多分もっともっと前。
木内さんに出会った時だ。
私はきっと初めから木内さんに惹かれていた。
当初は、なんて失礼な奴だと嫌悪していたので自覚出来ていなかったけれど、今でも振り返れば鮮明に思い出せる事がある。
全てをどうでも良いと思わせる程の良い香りと、この世の何よりも美しいと感じた横顔。
いくらでも拒むタイミングはあった筈なのに。
木内さんのせいにして流れに身を任せたのは私の意思だ。
もう自分がどうすれば良いのか分からない。
凛さんも好き。
木内さんも好き。
どうしようも無く惹かれてしまう二人の狭間でフラフラと立ち行かなくなる。
だけど悲しい思考が降って湧いた。
二人とも好きだけれど、二人が好きなのは私じゃない。
そうだ私は独りだ。
渦中のど真ん中、完全なる当事者の筈なのに、誰にとっても私は一番じゃない。
複雑に飛び交う矢印の向く先。
そこに私は居ない。
誰の想いも私には刺さらない。
私は二人に想いを向けているのに…。
急な寂しさが全身を包む。
直後にハッとして我に帰る。
そして冷静になって呟いた。
「ごめん、壱哉…。」
私の見ている世界の中。
壱哉に向いている矢印ももう存在していないみたいだった。
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