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傾く方へ。
向かう先。
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壱哉は6階のスニーカー屋さんの社員で、私より3歳年上の25歳。
168cmと長身ではないものの、整った顔立ちと鍛え抜かれた身体とで、洗練されたオシャレさんが集まるファッションビルの中でも目立っている。
周囲のテナントの女性たちからも人気があり、言葉を交わす前から私は壱哉を見ていた。
一方で私は4階のレディース靴屋のアルバイト。
コスメブランドのお姉様方や、セクシー系のアパレルブランドの社員さん方に比べると地味でパッとしない。
だからどれだけ休憩室ですれ違ったって、絶対に壱哉の視界に入れるなんて思ってもいなかった。
それが1年程前。
休憩室で自社の商品カタログを見ていた時の事。
「レディースシューズも興味あるんだけど…。それ見せてくれる?」
声のした方に視線を向けるとそこには壱哉が立っていた。
「俺、6階のスニーカー屋なんだけど分かる?」
私は言葉を失うくらいの驚きと喜びを覚え、ニヤける顔を隠す為、手を口元に当てながら頷いたのを今でも覚えている。
そこから3ヶ月くらい。
休憩が被れば話し、休みが合えば出掛けたりを何度かして。
最終的に酔ってお持ち帰りされたのを切っ掛けに付き合うようになって今に至る。
始まり方はそんなだけれど、壱哉は私を大切にしてくれている。
優しくて、ちょっとチャラいけど浮気はしないし、マメに連絡もくれる。
もともと憧れていたのも相まって、私は壱哉が大好きだ。
今までにも何人か付き合った事はあったけれど、こんなに一人の人を強く思った事はない。
等とつい最近まで、この先もずっと壱哉の隣に居られると疑いもしなかったのに…。
だけど今振り返ってみれば最初から不安な気持ちがあった事を思い出す。
喫煙室で壱哉の隣に座って会話をしていても私は何処か孤独で。
喫煙者のコミュニティーには結局最後まで馴染めなかった様に思う。
嫌な顔をされたり冷たくされるなんて事はなく、私も仲間に入れてもらえていた。
だけどどれだけ笑い合っていても言い様のない疎外感が付き纏い、常に居心地は悪かった。
勿論、行動は弁えていた。
喫煙室がいっぱいの時は遠慮していたし、入室した時は邪魔にならない様端っこで大人しくしていた。
壱哉が特別顔が広いのか、喫煙所とはそういう場所なのかは分からないけれど、顔を合わせた人達は皆壱哉にもその隣の私にも親切に接してくれた。
だから、疎外感も孤独感も全て私の中にあって、私が勝手に生み出した要らない感情だって事も分かっている。
「吸うけど…一緒来る?」
最初にそう誘ってきたのは壱哉の方だった。
寧ろ私は、気を遣うので遠慮しようとしていたくらいだ。
臭い煙。
狭い空間。
自分の知らない世界。
私はそこで壱哉と過ごしたいと言うよりは、タバコを吸うほんの数分ですら私を連れて行きたいと思ってくれている事が嬉しくて着いて行っていただけだ。
その内「一緒来る?」が当たり前になっていき、私達の中では暗黙の了解みたいになっていったけれど。
それはいつしか壱哉の中では義務となり、枷の様に思えてきたのだろう。
言い出した手前、私に来るなと告げるまでにかなりの時間を費やしたに違いない。
言われるよりだいぶ前から私は気付いていた。
喫煙室にいる時の壱哉の関心が、私とは別の方を向いてしまっている事に。
そしてその向かう先が私も大好きな凛さんだって事にも。
168cmと長身ではないものの、整った顔立ちと鍛え抜かれた身体とで、洗練されたオシャレさんが集まるファッションビルの中でも目立っている。
周囲のテナントの女性たちからも人気があり、言葉を交わす前から私は壱哉を見ていた。
一方で私は4階のレディース靴屋のアルバイト。
コスメブランドのお姉様方や、セクシー系のアパレルブランドの社員さん方に比べると地味でパッとしない。
だからどれだけ休憩室ですれ違ったって、絶対に壱哉の視界に入れるなんて思ってもいなかった。
それが1年程前。
休憩室で自社の商品カタログを見ていた時の事。
「レディースシューズも興味あるんだけど…。それ見せてくれる?」
声のした方に視線を向けるとそこには壱哉が立っていた。
「俺、6階のスニーカー屋なんだけど分かる?」
私は言葉を失うくらいの驚きと喜びを覚え、ニヤける顔を隠す為、手を口元に当てながら頷いたのを今でも覚えている。
そこから3ヶ月くらい。
休憩が被れば話し、休みが合えば出掛けたりを何度かして。
最終的に酔ってお持ち帰りされたのを切っ掛けに付き合うようになって今に至る。
始まり方はそんなだけれど、壱哉は私を大切にしてくれている。
優しくて、ちょっとチャラいけど浮気はしないし、マメに連絡もくれる。
もともと憧れていたのも相まって、私は壱哉が大好きだ。
今までにも何人か付き合った事はあったけれど、こんなに一人の人を強く思った事はない。
等とつい最近まで、この先もずっと壱哉の隣に居られると疑いもしなかったのに…。
だけど今振り返ってみれば最初から不安な気持ちがあった事を思い出す。
喫煙室で壱哉の隣に座って会話をしていても私は何処か孤独で。
喫煙者のコミュニティーには結局最後まで馴染めなかった様に思う。
嫌な顔をされたり冷たくされるなんて事はなく、私も仲間に入れてもらえていた。
だけどどれだけ笑い合っていても言い様のない疎外感が付き纏い、常に居心地は悪かった。
勿論、行動は弁えていた。
喫煙室がいっぱいの時は遠慮していたし、入室した時は邪魔にならない様端っこで大人しくしていた。
壱哉が特別顔が広いのか、喫煙所とはそういう場所なのかは分からないけれど、顔を合わせた人達は皆壱哉にもその隣の私にも親切に接してくれた。
だから、疎外感も孤独感も全て私の中にあって、私が勝手に生み出した要らない感情だって事も分かっている。
「吸うけど…一緒来る?」
最初にそう誘ってきたのは壱哉の方だった。
寧ろ私は、気を遣うので遠慮しようとしていたくらいだ。
臭い煙。
狭い空間。
自分の知らない世界。
私はそこで壱哉と過ごしたいと言うよりは、タバコを吸うほんの数分ですら私を連れて行きたいと思ってくれている事が嬉しくて着いて行っていただけだ。
その内「一緒来る?」が当たり前になっていき、私達の中では暗黙の了解みたいになっていったけれど。
それはいつしか壱哉の中では義務となり、枷の様に思えてきたのだろう。
言い出した手前、私に来るなと告げるまでにかなりの時間を費やしたに違いない。
言われるよりだいぶ前から私は気付いていた。
喫煙室にいる時の壱哉の関心が、私とは別の方を向いてしまっている事に。
そしてその向かう先が私も大好きな凛さんだって事にも。
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