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ペリドット。
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『結婚して下さい。』なんて簡単に言うもんじゃなよ。
そう言って諭すべきだったのかな?
『不束者ですが、よろしくお願いいたします。』なんて、ちょっと調子に乗ったかもしれない。
医薬品メーカー勤務1年目。
23歳。
176cm、細身だけど筋肉質。
クリっとした目のカワイイ系?
優良物件過ぎる。
そして若すぎる。
仕事が落ち着いてもないのに、人生決めさせちゃって良いのだろうか。
まだまだ未来があるのに、私なんかで手を打たせて良いのだろうか。
冷静になってみたら釣り合わないって気付いてしまった。
それなのに一旦落ち着こうの一言が言えなかった。
再会してから今日で4日。
金曜夜に会ってから、土曜朝にホテルを出て、土日をウチで一緒に過ごし、今日月曜朝にそれぞれ仕事に出た。
そのままそれぞれの日常に戻る筈だったのに、月曜の仕事後なぜかアポ無しで遥輝くんはウチにやって来た。
そして現在、目の前の遥輝くんは満面の笑みでケースに入った指輪を差し出している。
「え…?どうしたの…これ。」
「今日、昼休み中に買って、仕事終わった瞬間に渡しに来た。」
「え?…ああ…。」
遥輝くんは、受け取る素振りを見せない私の左手を取ると、ケースから取り出した指輪を薬指に嵌めた。
怖い怖い。
サイズぴったりなんですけど。
一体いつの間に…。
ブリリアンカットされた小振りのルースを、鉤爪で留めただけのシンプルな指輪。
石は薄緑で透き通っている。
「定番のダイヤは俺だと手が届かないから、誕生石のサファイヤとか考えてたんだけど、店の人に聞いたら誕生日石って言うのもあって、9月12日はペリドットなんだって。…それ。」
もう一度指輪を見る。
若草色で可愛い色。
私の好きな色。
「オネーサン、絶対こっちの方が好きだと思って。」
遥輝くんがニッコリと笑っている。
昼休みに急いで用意した筈なのに、どうしてこうも間に合わせにならずに、私のツボを抑えられるのか。
「なんで、こんな急いで…。」
「だってオネーサン、一人になると良くない事考えるでしょ?きっと。…今もちょっと迷ってるでしょ?」
お見通しと言った感じで私の顔を覗いてくる。
その首を傾げる仕草がまた可愛いから困ってしまう。
「俺の為にやっぱ止めるとか言うつもりでしょ?」
「…。」
「言っとくけど、それ俺の為にならないから。もう何回も言ってるけど、俺にはオネーサンしかいないからね。」
「遥輝くん…。」
「彼氏の面倒は最後まで見なきゃなんでしょ?俺の事捨てないでよ?」
心が解けていく。
そうだった。
今まで散々自分を必要としてくれる人を探し、手当り次第に手を差し伸べていた癖に、一番自分を求めてくれる人から逃げる所だった。
「分かった。もうごちゃごちゃ考えるの止める。最後まで遥輝くんの面倒見る。」
「オネーサン!」
ギュッと強く抱き締められる。
やっぱり幸せだ。
本当に遥輝くんには敵わない。
そうしみじみ実感していると、「あ、そうそう。」と抱き合ったまま遥輝くんが話題を変えた。
「俺、新居探してそこに越すまでの間は基本的にオネーサンの家に住むから。」
「え?」
「だってオネーサン一人にしておけないもん。絶対良くない事考えるから。俺が止めなかったらビッチになってた人だよ?誰が何て言ってももう絶対一人にしないから。」
ほんの数日前の事なのに、遠い昔の黒歴史を掘り返された気分で恥ずかしい。
何も言い返せずに黙り込む。
「あと、俺の親にはオネーサンと結婚するってもう電話で言ったから。」
「え?」
「母親めっちゃ喜んでた。だから『オネーサンのお母さんにも近々ご挨拶に伺いますって言っておいて。』って言っておいた。」
「は?」
展開に着いていけずポカンとしている私。
その額に、ちゅっと優しくキスをすると、今までに見た事ない程の悪い笑顔で遥輝くんが言った。
「もう俺のって言ったでしょ?」
「…。」
「周りから固めてでも、どんな卑怯な事してでも、もう絶対離さないからね。オネーサン。」
私のせいで遥輝くんの性癖、人生、その全てを歪めてしまったと思っていたけれど、本当に歪められたのは私の方なのかもしれないと、今更に気付いた。
そう言って諭すべきだったのかな?
『不束者ですが、よろしくお願いいたします。』なんて、ちょっと調子に乗ったかもしれない。
医薬品メーカー勤務1年目。
23歳。
176cm、細身だけど筋肉質。
クリっとした目のカワイイ系?
優良物件過ぎる。
そして若すぎる。
仕事が落ち着いてもないのに、人生決めさせちゃって良いのだろうか。
まだまだ未来があるのに、私なんかで手を打たせて良いのだろうか。
冷静になってみたら釣り合わないって気付いてしまった。
それなのに一旦落ち着こうの一言が言えなかった。
再会してから今日で4日。
金曜夜に会ってから、土曜朝にホテルを出て、土日をウチで一緒に過ごし、今日月曜朝にそれぞれ仕事に出た。
そのままそれぞれの日常に戻る筈だったのに、月曜の仕事後なぜかアポ無しで遥輝くんはウチにやって来た。
そして現在、目の前の遥輝くんは満面の笑みでケースに入った指輪を差し出している。
「え…?どうしたの…これ。」
「今日、昼休み中に買って、仕事終わった瞬間に渡しに来た。」
「え?…ああ…。」
遥輝くんは、受け取る素振りを見せない私の左手を取ると、ケースから取り出した指輪を薬指に嵌めた。
怖い怖い。
サイズぴったりなんですけど。
一体いつの間に…。
ブリリアンカットされた小振りのルースを、鉤爪で留めただけのシンプルな指輪。
石は薄緑で透き通っている。
「定番のダイヤは俺だと手が届かないから、誕生石のサファイヤとか考えてたんだけど、店の人に聞いたら誕生日石って言うのもあって、9月12日はペリドットなんだって。…それ。」
もう一度指輪を見る。
若草色で可愛い色。
私の好きな色。
「オネーサン、絶対こっちの方が好きだと思って。」
遥輝くんがニッコリと笑っている。
昼休みに急いで用意した筈なのに、どうしてこうも間に合わせにならずに、私のツボを抑えられるのか。
「なんで、こんな急いで…。」
「だってオネーサン、一人になると良くない事考えるでしょ?きっと。…今もちょっと迷ってるでしょ?」
お見通しと言った感じで私の顔を覗いてくる。
その首を傾げる仕草がまた可愛いから困ってしまう。
「俺の為にやっぱ止めるとか言うつもりでしょ?」
「…。」
「言っとくけど、それ俺の為にならないから。もう何回も言ってるけど、俺にはオネーサンしかいないからね。」
「遥輝くん…。」
「彼氏の面倒は最後まで見なきゃなんでしょ?俺の事捨てないでよ?」
心が解けていく。
そうだった。
今まで散々自分を必要としてくれる人を探し、手当り次第に手を差し伸べていた癖に、一番自分を求めてくれる人から逃げる所だった。
「分かった。もうごちゃごちゃ考えるの止める。最後まで遥輝くんの面倒見る。」
「オネーサン!」
ギュッと強く抱き締められる。
やっぱり幸せだ。
本当に遥輝くんには敵わない。
そうしみじみ実感していると、「あ、そうそう。」と抱き合ったまま遥輝くんが話題を変えた。
「俺、新居探してそこに越すまでの間は基本的にオネーサンの家に住むから。」
「え?」
「だってオネーサン一人にしておけないもん。絶対良くない事考えるから。俺が止めなかったらビッチになってた人だよ?誰が何て言ってももう絶対一人にしないから。」
ほんの数日前の事なのに、遠い昔の黒歴史を掘り返された気分で恥ずかしい。
何も言い返せずに黙り込む。
「あと、俺の親にはオネーサンと結婚するってもう電話で言ったから。」
「え?」
「母親めっちゃ喜んでた。だから『オネーサンのお母さんにも近々ご挨拶に伺いますって言っておいて。』って言っておいた。」
「は?」
展開に着いていけずポカンとしている私。
その額に、ちゅっと優しくキスをすると、今までに見た事ない程の悪い笑顔で遥輝くんが言った。
「もう俺のって言ったでしょ?」
「…。」
「周りから固めてでも、どんな卑怯な事してでも、もう絶対離さないからね。オネーサン。」
私のせいで遥輝くんの性癖、人生、その全てを歪めてしまったと思っていたけれど、本当に歪められたのは私の方なのかもしれないと、今更に気付いた。
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