ビッチ未遂

seitennosei

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やっと言えた…。

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動かない遥輝くん。
私は少し腹筋に力を入れるだけでも、更にじわりと溢れ出る感触がして焦った。
「もー、遥輝くんのばか!」
枕元のティッシュを手探りで探すも見付からない。
腰をガッツリ掴まれたままでは、身動きが限られている。
「んー、ちょっと!ねぇ!ティッシュ取ってよー!て言うか、後で説教だよ!」
グッと首を伸ばし、手元を確認しながらティッシュ箱を何とか掴んだ。
そして視線を戻し、「遥輝くん、聞いてる?」と訊ねた時。
ぽたぽたと顔に雫が降ってきた。
不思議に思い、下から顔を覗くと、遥輝くんが肩で息をしながら、真っ赤な目をして静かに泣いている。
「はるきむぅっ…」
急にキツく抱き締められ、彼の肩で口が潰される。
横目で見ると、耳まで赤くなっており、肩を小刻みに震わせながらしくしくと泣いていた。
胸が締め付けられる。
私の知っている遥輝くんは決して泣き虫な男の子ではなかった。
2年半程一緒に過ごした子供時代、彼の泣いている所を見たのはたったの2回だけだ。
熱で初めて抱きついて来た日と、私に抱きつきながら初めて達してしまった日。
そのどちらも、私が離れていく事を恐れて泣いていた。
今もそうなのだろうか。
ティッシュ箱をほっぽると、そっと遥輝くんの頭と背中に手を置き、優しく撫でる。
応える様に私を抱き締める腕に更に力が篭った。
「ごめんなさい…。オネーサン、ごめんなさい…。」
「…。うん。」
何の謝罪かは分からない。
それでも、どんな事でも受け入れようと覚悟し相槌を打つ。
遥輝くんは嗚咽しながら苦しそうに言葉を吐き出した。
「もう『来ないで。』なんて言わないから…。居なくならないで…。っ…。うっ…。もう、ほ、他の人のものにならないで…。」
泣きじゃくり縋り付く様が、子供の頃の彼と重なる。
ギュッと胸が詰まった。
ツンと鼻も痛む。
気付くと私も少し泣いていた。
「ずっと俺といて…。俺のものになって…。」
両手で遥輝くんの顔を包み、目を合わせる。
身体は大きくなっているのに、あの時の遥輝くんと変わらない目が、今私を見ている。
「大丈夫だよ。」
そう言って額にキスをすると、また強く抱き締められた。
「オネーサン。…好き。」
彼は切なそうにそう呟いた後、「やっと言えた…。」と、また泣き出した。
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