ビッチ未遂

seitennosei

文字の大きさ
上 下
24 / 32

後悔しかしてない。

しおりを挟む
去年の冬。
大学4年だった俺は就職先も決まり、卒業も確定していたので、実家でダラダラしていた。
この時には、父親は出世して激務から解放されていたし、母親も数年前から仕事を辞めているので常に家に人がいた。
明るいうちからリビングに人の気配がある事に不思議な感じがする。
弟達も大きくなるにつれ丈夫になっていき、次男は大学へ、三男は専門へ行っている。
いつも二人一緒だった双子達がそれぞれやりたい事を見付け、別の道に進んでいるその成長が兄としてはちょっと嬉しかった。

「あ、ねぇ。お兄ちゃん。由良ちゃんっていたでしょ?」
ソファーでダラけていると、キッチンに立つ母の口から唐突にオネーサンの名前が出た。
驚いて暫く言葉が出ない。
「えー、まさか覚えてないの?すっごく良くしてくれてたのに。アンタ薄情ねー。あんなに大好きだったのに。」
「いや、覚えてるって。オネーサンでしょ?で、そのオネーサンが何だって?」
心臓がバクバクしている。
何でもない風に言ったけど、本当はちょっと声が震えていた。
「昨日、由良ちゃんのお母さんとばったり会ったんだけどね、由良ちゃん長く付き合ってる彼氏がいて、多分もうすぐ結婚するかもって。」
俺は一瞬本気で自分が死んだかと思った。
建物をぶっ壊す時の鉄球で頭をぶっ飛ばされたかと思う程の衝撃。
「なんかね、正式には決まってないけど…。お相手が年下でね、まだ就職して一年目なんだけど、来年辺りには色々落ち着くから、そしたらご挨拶に伺いますって言われたんだって。お兄ちゃんと1歳しか変わらないのにしっかりしてるわよね。素敵ねー。」
「へー…。」
ヘロヘロの声しか出ない。
身体に力が入らなくて、息もちゃんと出来ない。
「由良ちゃん、子供の時からしっかりしてたもんね。大学出てからはお役所勤めだし。そういう子はお相手もしっかりした人選ぶのねー。」
母親の話が全く頭に入ってこない。
胸が苦しくて頭が痛い。
声が…出ない。
「え?お兄ちゃん、どうしたの?…え、もしかして……まだ由良ちゃんの事好きなの?」
「すっき、じゃ、ねぇ!」
咄嗟に叫んだ。
驚く母親。
それ以上に俺が自分で驚いていた。
俺、まだこんなにオネーサンでいっぱいなんだ。
「ごめん。ちょっと動揺してるだけ。…頭冷やすわ…。」
そう言って二階の自室へ逃げ込む。
母親が「お兄ちゃん、ごめんね!お母さん、デリカシーなかった!ホントごめん!」と階下から叫んでいた。
気にすんなって言いたかったけど声が出なかった。
部屋は俺が出ていった時からそのままの状態が保たれていて。
ベッドもそのままだった。
オネーサンと抱き合ったベッド。
誰と付き合っていても、他の誰も入れなかったベッド。
そこで久しぶりに泣いた。
誰にフラれても、どれだけ傷付く言葉を言われても涙は出なかったのに。
オネーサンの事になると簡単に涙腺が決壊する。
オネーサンが俺のものじゃないって気付いた日くらい今日は胸が痛い。
本当にオネーサンが人のものになっちゃう。
でも今更…。
どうして俺は何もしなかったのだろう。
その気になればいくらでも接触する方法も時間もあったのにな。
オネーサンに対して後悔しかしてない。
それ以来、母親がオネーサンの話題を振ってくることはなかった。
俺も何も言わなかった。
だからオネーサンが本当にその後結婚したのかどうかを俺は知らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

お疲れ先輩女子は石油王に攫われたい!

織部ソマリ
恋愛
「ねぇ、先輩。それ本気ですか? 本当に石油王に攫われたいの?」 そう言ったのは、褐色碧眼の後輩男子、成宮バドゥル。 「ああぁ〜石油王に愛されたい……攫われたい……疲れたぁ〜〜!」 仕事に忙殺される美夜子が吐き出した、そんな愚痴から始まる攫われ? スタート恋愛。 *お疲れ女子が癒されたらいいな…というある意味現代ファンタジー *他サイトにも投稿しています

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...