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後悔しかしてない。
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去年の冬。
大学4年だった俺は就職先も決まり、卒業も確定していたので、実家でダラダラしていた。
この時には、父親は出世して激務から解放されていたし、母親も数年前から仕事を辞めているので常に家に人がいた。
明るいうちからリビングに人の気配がある事に不思議な感じがする。
弟達も大きくなるにつれ丈夫になっていき、次男は大学へ、三男は専門へ行っている。
いつも二人一緒だった双子達がそれぞれやりたい事を見付け、別の道に進んでいるその成長が兄としてはちょっと嬉しかった。
「あ、ねぇ。お兄ちゃん。由良ちゃんっていたでしょ?」
ソファーでダラけていると、キッチンに立つ母の口から唐突にオネーサンの名前が出た。
驚いて暫く言葉が出ない。
「えー、まさか覚えてないの?すっごく良くしてくれてたのに。アンタ薄情ねー。あんなに大好きだったのに。」
「いや、覚えてるって。オネーサンでしょ?で、そのオネーサンが何だって?」
心臓がバクバクしている。
何でもない風に言ったけど、本当はちょっと声が震えていた。
「昨日、由良ちゃんのお母さんとばったり会ったんだけどね、由良ちゃん長く付き合ってる彼氏がいて、多分もうすぐ結婚するかもって。」
俺は一瞬本気で自分が死んだかと思った。
建物をぶっ壊す時の鉄球で頭をぶっ飛ばされたかと思う程の衝撃。
「なんかね、正式には決まってないけど…。お相手が年下でね、まだ就職して一年目なんだけど、来年辺りには色々落ち着くから、そしたらご挨拶に伺いますって言われたんだって。お兄ちゃんと1歳しか変わらないのにしっかりしてるわよね。素敵ねー。」
「へー…。」
ヘロヘロの声しか出ない。
身体に力が入らなくて、息もちゃんと出来ない。
「由良ちゃん、子供の時からしっかりしてたもんね。大学出てからはお役所勤めだし。そういう子はお相手もしっかりした人選ぶのねー。」
母親の話が全く頭に入ってこない。
胸が苦しくて頭が痛い。
声が…出ない。
「え?お兄ちゃん、どうしたの?…え、もしかして……まだ由良ちゃんの事好きなの?」
「すっき、じゃ、ねぇ!」
咄嗟に叫んだ。
驚く母親。
それ以上に俺が自分で驚いていた。
俺、まだこんなにオネーサンでいっぱいなんだ。
「ごめん。ちょっと動揺してるだけ。…頭冷やすわ…。」
そう言って二階の自室へ逃げ込む。
母親が「お兄ちゃん、ごめんね!お母さん、デリカシーなかった!ホントごめん!」と階下から叫んでいた。
気にすんなって言いたかったけど声が出なかった。
部屋は俺が出ていった時からそのままの状態が保たれていて。
ベッドもそのままだった。
オネーサンと抱き合ったベッド。
誰と付き合っていても、他の誰も入れなかったベッド。
そこで久しぶりに泣いた。
誰にフラれても、どれだけ傷付く言葉を言われても涙は出なかったのに。
オネーサンの事になると簡単に涙腺が決壊する。
オネーサンが俺のものじゃないって気付いた日くらい今日は胸が痛い。
本当にオネーサンが人のものになっちゃう。
でも今更…。
どうして俺は何もしなかったのだろう。
その気になればいくらでも接触する方法も時間もあったのにな。
オネーサンに対して後悔しかしてない。
それ以来、母親がオネーサンの話題を振ってくることはなかった。
俺も何も言わなかった。
だからオネーサンが本当にその後結婚したのかどうかを俺は知らなかった。
大学4年だった俺は就職先も決まり、卒業も確定していたので、実家でダラダラしていた。
この時には、父親は出世して激務から解放されていたし、母親も数年前から仕事を辞めているので常に家に人がいた。
明るいうちからリビングに人の気配がある事に不思議な感じがする。
弟達も大きくなるにつれ丈夫になっていき、次男は大学へ、三男は専門へ行っている。
いつも二人一緒だった双子達がそれぞれやりたい事を見付け、別の道に進んでいるその成長が兄としてはちょっと嬉しかった。
「あ、ねぇ。お兄ちゃん。由良ちゃんっていたでしょ?」
ソファーでダラけていると、キッチンに立つ母の口から唐突にオネーサンの名前が出た。
驚いて暫く言葉が出ない。
「えー、まさか覚えてないの?すっごく良くしてくれてたのに。アンタ薄情ねー。あんなに大好きだったのに。」
「いや、覚えてるって。オネーサンでしょ?で、そのオネーサンが何だって?」
心臓がバクバクしている。
何でもない風に言ったけど、本当はちょっと声が震えていた。
「昨日、由良ちゃんのお母さんとばったり会ったんだけどね、由良ちゃん長く付き合ってる彼氏がいて、多分もうすぐ結婚するかもって。」
俺は一瞬本気で自分が死んだかと思った。
建物をぶっ壊す時の鉄球で頭をぶっ飛ばされたかと思う程の衝撃。
「なんかね、正式には決まってないけど…。お相手が年下でね、まだ就職して一年目なんだけど、来年辺りには色々落ち着くから、そしたらご挨拶に伺いますって言われたんだって。お兄ちゃんと1歳しか変わらないのにしっかりしてるわよね。素敵ねー。」
「へー…。」
ヘロヘロの声しか出ない。
身体に力が入らなくて、息もちゃんと出来ない。
「由良ちゃん、子供の時からしっかりしてたもんね。大学出てからはお役所勤めだし。そういう子はお相手もしっかりした人選ぶのねー。」
母親の話が全く頭に入ってこない。
胸が苦しくて頭が痛い。
声が…出ない。
「え?お兄ちゃん、どうしたの?…え、もしかして……まだ由良ちゃんの事好きなの?」
「すっき、じゃ、ねぇ!」
咄嗟に叫んだ。
驚く母親。
それ以上に俺が自分で驚いていた。
俺、まだこんなにオネーサンでいっぱいなんだ。
「ごめん。ちょっと動揺してるだけ。…頭冷やすわ…。」
そう言って二階の自室へ逃げ込む。
母親が「お兄ちゃん、ごめんね!お母さん、デリカシーなかった!ホントごめん!」と階下から叫んでいた。
気にすんなって言いたかったけど声が出なかった。
部屋は俺が出ていった時からそのままの状態が保たれていて。
ベッドもそのままだった。
オネーサンと抱き合ったベッド。
誰と付き合っていても、他の誰も入れなかったベッド。
そこで久しぶりに泣いた。
誰にフラれても、どれだけ傷付く言葉を言われても涙は出なかったのに。
オネーサンの事になると簡単に涙腺が決壊する。
オネーサンが俺のものじゃないって気付いた日くらい今日は胸が痛い。
本当にオネーサンが人のものになっちゃう。
でも今更…。
どうして俺は何もしなかったのだろう。
その気になればいくらでも接触する方法も時間もあったのにな。
オネーサンに対して後悔しかしてない。
それ以来、母親がオネーサンの話題を振ってくることはなかった。
俺も何も言わなかった。
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