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不思議な男の子。
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トイレを済ませ、個室に戻ろうと本棚の前に差し掛かった時、共有スペース前の新刊コーナーに大量に置かれている人気作品が目に入った。
一冊を手に取る。
「新刊出てたんだ…。」
これは元彼が読んでいた作品。
薦められ、借りて私も読んでいた。
そうか、買わなくてもここに来ればこれからも続きが読めるんだ。
そんな些細な事でも気付ければ荒んでいる心が少し軽くなった。
パラパラと中身を覗く。
そうだった。
前巻は丁度気になるところで終わってしまっていたんだ。
立ったまま作品に引き込まれていると背後に気配が。
「好きなの?それ。」
ガバッと顔を上げ振り返る。
そこには20代前半くらいの、感じの良い男の子が笑顔で立っていた。
適度に流行を取り入れつつも、決まり過ぎない丁度いいファッションに身を包み、黒髪で真面目そうな風貌。
背はそこそこ高いけどゴツくなくて、クリっとした目が印象的。
人懐っこそうな顔はしているが、何処と無く控え目そうな雰囲気があって、初対面の女にフランクに話し掛ける様なチャラい行動が嘘みたいに似合っていない。
何だか不思議な男の子。
「俺もこれ好き。面白いよね。」
子犬の様に屈託なく瞑らな瞳でじっと見詰めてくる。
いけない。
本来の目的を忘れ、吸い寄せられる所だった。
正直もの凄くタイプだ。
一瞬時間が止まるほど見惚れてしまった。
胸がきゅんきゅんしてしまう。
「ねぇ、オネーサン。良かったら少し話しませんか?」
態とらしく小首を傾げて私の顔を覗き込む。
ヤバいヤバい。
本当に可愛い。
もう可愛いしか思えない。
語彙力は死にました。
貴方にキングオブ可愛いを進呈します。
まずい。
このままでは簡単に没落してしまいそうだ。
グラついている内心を見透かしているかの様に、男の子はダメ押しに私のTシャツの裾を控えめに摘むと、つんつんと引っ張ってくる。
そして一言。
「ダメ?」
もう可愛過ぎてしんどい。
見下ろされているのに、捨て犬に濡れた瞳で見上げられている様な錯覚に陥る。
私が拾ってあげなきゃ…。
心の中では完全に差し伸べてしまっている両手。
それをグッと引っ込める。
いや、ダメだ。
思い出せ。
年下はダメ、絶対だ。
私は心を鬼にし、敢えて冷たくあしらう。
「悪いけど、他をあたってくれる?」
「ヤダ。」
「ヤダって君…。」
驚いた。
まさか食い下がられるとは思っていなかった。
上手く返せない。
男の子は尚もグイグイと攻めてくる。
「オネーサン、一人だよね?ここに入る前に一人で歩いてるの見たよ?」
「え?」
「まだ電車動いてる時間なのに一人で漫喫って…。キャバの出勤前って感じもしないし、待ち合わせまでの時間つぶしでもなさそうだし…やっぱり男漁り?」
絶句。
言い当てられて思考が完全に停止する。
この子、何者?
訝しがる私を余所に、男の子は周囲を気にする素振りを見せると、「ヤバい。店員さんが怪しんでる…。」と言って、裾をつんつんしていた手を離した。
その離れた手に少しだけ名残惜しくなる。
店内はナンパ禁止だ。
このままいけばこの男の子は注意を受け、下手したら追い出されるだろう。
そしたらもう会えないのかな?
咄嗟に思った。
あれ?
なんで今寂しく思ったんだろう。
「オネーサン、一緒にここ出よう?悪い様にはしないから。」
咳払いをしながら店員が近付いて来るのが横目に見えた。
吸い込まれそうな男の子の瞳と、迫り来る店員の存在が私に考える隙を与えない。
慌てて思わず口走る。
「分かった。着いて行く。」
一冊を手に取る。
「新刊出てたんだ…。」
これは元彼が読んでいた作品。
薦められ、借りて私も読んでいた。
そうか、買わなくてもここに来ればこれからも続きが読めるんだ。
そんな些細な事でも気付ければ荒んでいる心が少し軽くなった。
パラパラと中身を覗く。
そうだった。
前巻は丁度気になるところで終わってしまっていたんだ。
立ったまま作品に引き込まれていると背後に気配が。
「好きなの?それ。」
ガバッと顔を上げ振り返る。
そこには20代前半くらいの、感じの良い男の子が笑顔で立っていた。
適度に流行を取り入れつつも、決まり過ぎない丁度いいファッションに身を包み、黒髪で真面目そうな風貌。
背はそこそこ高いけどゴツくなくて、クリっとした目が印象的。
人懐っこそうな顔はしているが、何処と無く控え目そうな雰囲気があって、初対面の女にフランクに話し掛ける様なチャラい行動が嘘みたいに似合っていない。
何だか不思議な男の子。
「俺もこれ好き。面白いよね。」
子犬の様に屈託なく瞑らな瞳でじっと見詰めてくる。
いけない。
本来の目的を忘れ、吸い寄せられる所だった。
正直もの凄くタイプだ。
一瞬時間が止まるほど見惚れてしまった。
胸がきゅんきゅんしてしまう。
「ねぇ、オネーサン。良かったら少し話しませんか?」
態とらしく小首を傾げて私の顔を覗き込む。
ヤバいヤバい。
本当に可愛い。
もう可愛いしか思えない。
語彙力は死にました。
貴方にキングオブ可愛いを進呈します。
まずい。
このままでは簡単に没落してしまいそうだ。
グラついている内心を見透かしているかの様に、男の子はダメ押しに私のTシャツの裾を控えめに摘むと、つんつんと引っ張ってくる。
そして一言。
「ダメ?」
もう可愛過ぎてしんどい。
見下ろされているのに、捨て犬に濡れた瞳で見上げられている様な錯覚に陥る。
私が拾ってあげなきゃ…。
心の中では完全に差し伸べてしまっている両手。
それをグッと引っ込める。
いや、ダメだ。
思い出せ。
年下はダメ、絶対だ。
私は心を鬼にし、敢えて冷たくあしらう。
「悪いけど、他をあたってくれる?」
「ヤダ。」
「ヤダって君…。」
驚いた。
まさか食い下がられるとは思っていなかった。
上手く返せない。
男の子は尚もグイグイと攻めてくる。
「オネーサン、一人だよね?ここに入る前に一人で歩いてるの見たよ?」
「え?」
「まだ電車動いてる時間なのに一人で漫喫って…。キャバの出勤前って感じもしないし、待ち合わせまでの時間つぶしでもなさそうだし…やっぱり男漁り?」
絶句。
言い当てられて思考が完全に停止する。
この子、何者?
訝しがる私を余所に、男の子は周囲を気にする素振りを見せると、「ヤバい。店員さんが怪しんでる…。」と言って、裾をつんつんしていた手を離した。
その離れた手に少しだけ名残惜しくなる。
店内はナンパ禁止だ。
このままいけばこの男の子は注意を受け、下手したら追い出されるだろう。
そしたらもう会えないのかな?
咄嗟に思った。
あれ?
なんで今寂しく思ったんだろう。
「オネーサン、一緒にここ出よう?悪い様にはしないから。」
咳払いをしながら店員が近付いて来るのが横目に見えた。
吸い込まれそうな男の子の瞳と、迫り来る店員の存在が私に考える隙を与えない。
慌てて思わず口走る。
「分かった。着いて行く。」
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