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逸る気持ちに急かされる。
時間には十分な余裕があるのに歩く速度が加速していく。
待ち合わせの駅に着いてしまう前に、ビルのガラスに全身を映して最終チェックをする。
ミモレ丈のタイトスカートに白いドルマンのブラウス。
ホワッとしたボリューミーなブラウスで上半身の貧相さを隠し、タイトスカートにINすることによってウエストを細く見せている。
いつもの私よりは女らしいコーデだけど、急に気合いを入れすぎるのもはばかられ、小物はスニーカーとキャップと小振りのトートバッグでカジュアルにした。
海くんと付き合って2週間。
職場から一緒に帰ったり、早めに出勤して休憩室で話したりはしていたけれど、はじめてちゃんと待ち合わせをしてデートをする。
「海くんがどんな格好が好きなのか探っておけば良かったな。」
ガラスに映る自分が可愛くなくてガッカリする。
今日、海くんの好みをリサーチしてこれからに活かそう。
そう気合いを入れて駅に向かった。
待ち合わせ時間の15分前。
駅に着くと柱や壁にもたれ、連れを待つ人達がパラパラと疎らにいる。
ザッと見渡すも、海くんの姿はない。
まだ時間までかなりある。
周囲に誰もいない柱を陣取り、バッグからスマホを出し時間を潰す。
暫くスマホを弄っていると、黒スキニーの裾とスタンスミスのスニーカーが、俯き気味の視界に入ってきた。
疑問に思い、スタンスミスのイラストと暫し見詰め合う。
その足の持ち主からであろう視線を間近に感じ戸惑う。
恐る恐る顔を上げると、イマドキ風の知らない男の子が笑顔で立っている。
「一花さん、早いね。」
その男の子が海くんの声を口から出した。
「…ん?え?海くん?」
よくよく見れば完全に海くんだ。
けれど、身に着けている物がどれ一つとして海くんの物ではない。
白い綿のノーカラーシャツに黒スキニー。
真新しい緑色のスタンスミスに丸いレンズの伊達メガネ。
伸びっぱなしだった髪の毛も前髪のみ長めに残して、後ろは刈り上げられスッキリとしている。
普通にオシャレなんですけど。
唐突に熟れた感じ出しやがって。
貴方一体誰ですかと言う気持ちになる。
「やっぱり変かな?高橋くんにお願いして、一花さんと似合いそうな感じにしてもらったんだけど…。」
唖然とする私の反応で不安げに頭を掻き、海くんは自分の格好を見下ろした。
「違う違う!ビックリしちゃって。凄く良い!似合ってるし、そういう感じ好き!」
慌ててポジティブな感想を伝える。
嘘ではない。
本当に私好みのファッションだ。
だけど、海くんがどんな格好でも私は好きなのに。
こんなに誰から見ても格好良くなってしまったらと、一瞬にして不安になる。
「凄くカッコイイけど…あんまりオシャレになっちゃうの心配…。私だけが海くんのことカッコイイって知ってたのにって…。」
ネガティブな方の感想まで口をついて出る。
「ふはっ。」
不安げな私を余所に、何が面白いのか海くんは吹き出した。
「ないない。高橋くんのお陰で普通に街を歩けるレベルにしてもらったけど、カッコイイなんて思うの一花さんだけだよ。」
目を細めて笑う海くん。
「一花さんとデートするのに卑屈になりたくないから高橋くんに相談したんだよ。全部一花さんと一緒にいたくてやったんだから、オシャレになって調子乗って一花さんから離れるとかないからね?」
いじけて俯いている私の顔を覗き込み諭してくる。
その仕草も、上目遣いの顔も全て可愛くて叫び出したくなる。
「うぅ…。」
叫ぶのを我慢したら唸り声が出てしまった。
私は今、完全に浮かれている。
今この瞬間、世界で一番ポンコツだろう。
海くんを好きだと思う以外の全ての事が手に付かない自信がある。
今ならどんな簡単な作業も失敗する自信があるし、どんな稚拙な詐欺にも引っ掛かるだろうと胸を張って言える。
思えばこれが私にとって生まれて初めてのデートだ。
尊先輩とはまともにデートをしたことがなかった。
いつも家でダラダラするだけ。
好きな人と待ち合わせして、一緒にお出かけするのってこんなに幸せなことなのだと、現在進行形で実感している。
浮かれても多少は許されるだろう。
「一花さん、今日スカートなんだね。可愛い…。」
海くんが頬を赤らめ、照れながら言った。
釣られて私も赤くなる。
これからずっと一緒にいたら、これが当たり前になっていって、有難みが薄れ、喧嘩をしたり、嫌になったりする日がくるのだろう。
その時に今日の今の気持ちを思い出して、何度でも仲直りしたい。
そうやって海くんとずっと一緒にいたい。
「一花さん、行こうか?」
海くんが左手で私の右手をとった。
そして先を歩き出す。
手を引かれるようにして、ほんの少し後ろをついて行く。
後ろから見ると、海くんの耳が真っ赤になっていて、また愛しさが込み上げてくる。
私は指を絡めるように手を繋ぎ直し、身体をくっ付けすぐ横を歩く。
最初は休憩室の端っこで、ほんの少しの時間を共有するだけだった私達が、今では手を繋いで外を歩けるようになったんだ。
困らせて、泣かせて、そんな酷い始まり方だったけれど、あの時強引にでも海くんに近付いて良かったと、私は思った。
時間には十分な余裕があるのに歩く速度が加速していく。
待ち合わせの駅に着いてしまう前に、ビルのガラスに全身を映して最終チェックをする。
ミモレ丈のタイトスカートに白いドルマンのブラウス。
ホワッとしたボリューミーなブラウスで上半身の貧相さを隠し、タイトスカートにINすることによってウエストを細く見せている。
いつもの私よりは女らしいコーデだけど、急に気合いを入れすぎるのもはばかられ、小物はスニーカーとキャップと小振りのトートバッグでカジュアルにした。
海くんと付き合って2週間。
職場から一緒に帰ったり、早めに出勤して休憩室で話したりはしていたけれど、はじめてちゃんと待ち合わせをしてデートをする。
「海くんがどんな格好が好きなのか探っておけば良かったな。」
ガラスに映る自分が可愛くなくてガッカリする。
今日、海くんの好みをリサーチしてこれからに活かそう。
そう気合いを入れて駅に向かった。
待ち合わせ時間の15分前。
駅に着くと柱や壁にもたれ、連れを待つ人達がパラパラと疎らにいる。
ザッと見渡すも、海くんの姿はない。
まだ時間までかなりある。
周囲に誰もいない柱を陣取り、バッグからスマホを出し時間を潰す。
暫くスマホを弄っていると、黒スキニーの裾とスタンスミスのスニーカーが、俯き気味の視界に入ってきた。
疑問に思い、スタンスミスのイラストと暫し見詰め合う。
その足の持ち主からであろう視線を間近に感じ戸惑う。
恐る恐る顔を上げると、イマドキ風の知らない男の子が笑顔で立っている。
「一花さん、早いね。」
その男の子が海くんの声を口から出した。
「…ん?え?海くん?」
よくよく見れば完全に海くんだ。
けれど、身に着けている物がどれ一つとして海くんの物ではない。
白い綿のノーカラーシャツに黒スキニー。
真新しい緑色のスタンスミスに丸いレンズの伊達メガネ。
伸びっぱなしだった髪の毛も前髪のみ長めに残して、後ろは刈り上げられスッキリとしている。
普通にオシャレなんですけど。
唐突に熟れた感じ出しやがって。
貴方一体誰ですかと言う気持ちになる。
「やっぱり変かな?高橋くんにお願いして、一花さんと似合いそうな感じにしてもらったんだけど…。」
唖然とする私の反応で不安げに頭を掻き、海くんは自分の格好を見下ろした。
「違う違う!ビックリしちゃって。凄く良い!似合ってるし、そういう感じ好き!」
慌ててポジティブな感想を伝える。
嘘ではない。
本当に私好みのファッションだ。
だけど、海くんがどんな格好でも私は好きなのに。
こんなに誰から見ても格好良くなってしまったらと、一瞬にして不安になる。
「凄くカッコイイけど…あんまりオシャレになっちゃうの心配…。私だけが海くんのことカッコイイって知ってたのにって…。」
ネガティブな方の感想まで口をついて出る。
「ふはっ。」
不安げな私を余所に、何が面白いのか海くんは吹き出した。
「ないない。高橋くんのお陰で普通に街を歩けるレベルにしてもらったけど、カッコイイなんて思うの一花さんだけだよ。」
目を細めて笑う海くん。
「一花さんとデートするのに卑屈になりたくないから高橋くんに相談したんだよ。全部一花さんと一緒にいたくてやったんだから、オシャレになって調子乗って一花さんから離れるとかないからね?」
いじけて俯いている私の顔を覗き込み諭してくる。
その仕草も、上目遣いの顔も全て可愛くて叫び出したくなる。
「うぅ…。」
叫ぶのを我慢したら唸り声が出てしまった。
私は今、完全に浮かれている。
今この瞬間、世界で一番ポンコツだろう。
海くんを好きだと思う以外の全ての事が手に付かない自信がある。
今ならどんな簡単な作業も失敗する自信があるし、どんな稚拙な詐欺にも引っ掛かるだろうと胸を張って言える。
思えばこれが私にとって生まれて初めてのデートだ。
尊先輩とはまともにデートをしたことがなかった。
いつも家でダラダラするだけ。
好きな人と待ち合わせして、一緒にお出かけするのってこんなに幸せなことなのだと、現在進行形で実感している。
浮かれても多少は許されるだろう。
「一花さん、今日スカートなんだね。可愛い…。」
海くんが頬を赤らめ、照れながら言った。
釣られて私も赤くなる。
これからずっと一緒にいたら、これが当たり前になっていって、有難みが薄れ、喧嘩をしたり、嫌になったりする日がくるのだろう。
その時に今日の今の気持ちを思い出して、何度でも仲直りしたい。
そうやって海くんとずっと一緒にいたい。
「一花さん、行こうか?」
海くんが左手で私の右手をとった。
そして先を歩き出す。
手を引かれるようにして、ほんの少し後ろをついて行く。
後ろから見ると、海くんの耳が真っ赤になっていて、また愛しさが込み上げてくる。
私は指を絡めるように手を繋ぎ直し、身体をくっ付けすぐ横を歩く。
最初は休憩室の端っこで、ほんの少しの時間を共有するだけだった私達が、今では手を繋いで外を歩けるようになったんだ。
困らせて、泣かせて、そんな酷い始まり方だったけれど、あの時強引にでも海くんに近付いて良かったと、私は思った。
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