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「そういや、この前の夜に一花ちゃんがカウンターで絡まれてたのって、もしかして元カレ?」
「いてっ」
強く押しすぎた枝豆が勢いよく飛び出し、自分の額で跳ね何処かへ消えて行った。
仲宗根さんは興味津々の顔で私の返答を待っている。
「お!なんですか、その面白そうな話!」
直前までミスコンにノミネートされている彼女について、興味無さそうな海くんに無理やり自慢していた高橋が、目敏く聞きつけて再度絡んできた。
「…そうですよ。元カレですよ。付き合っていたのは三年も前の話ですけどね。」
「へー、お前彼氏いたことあったのか。仲宗根さん、元カレどんな感じでした?」
最高の酒の肴を見つけた様子で、ヘラヘラと笑っている高橋に殺意を覚える。
「なんか、背が高くて結構イケメンだった。男からもモテそうな、スポーツマン系のイケメン。」
「えー!何でそんな高スペックが一花と!」
ニヤニヤと私の顔を覗き込んで来る。
そのことは忘れたいのに。
イライラして作り笑いもできない。
一杯目しかアルコールを摂っていないのに、顔がカッと熱くなる。
「そうだよ。私なんかじゃ釣り合ってなかったよ。だから向こうは他にも沢山彼女いたしね。一年も付き合ってたのに、部活の皆には内緒とか可笑しいと思ったんだよね。あ、部活の先輩だったんですけどね、その人。そのくせ、私には口止めしておいて、自分はペラペラペラペラ友達に面白可笑しく喋ってたしね。」
敬語も何もかもめちゃくちゃに捲し立てる私に唖然とする面々。
周囲の様子を見る冷静さは残っているのに、自分でも自分の口を止められない。
「部活関係ない友達にだけこっそり先輩と付き合ってるって話してたんだけど、その友達の彼氏がたまたま先輩と小学校から一緒で、その人が心配して他にも彼女いるって教えてくれて。でも初めての彼氏だし、別れ方とかわかんないし。先輩にも確認してからじゃないと色々決断できないしって思って。私…。はー…。」
息継ぎも忘れていた。
酸欠に頭をクラクラさせながら目の前の烏龍茶を見つめる。
「一花…。もう良いって。」
高橋は今更心配そうに言うと、優しく肩に手を置いてきた。
私はそれを跳ね除け喚く。
「良くない!ほじくり返したのはそっちなんだからお前ら最後まで聞け!」
「…お、おう。」
まだ続く独演に備え、烏龍茶をごくごくと飲み下す。
「何か確認するの怖くて、先輩のこと避けてハッキリさせないままちょっと経ってとんだけど、それは良くないと思って、自分を奮い立たせて先輩に確認しに行ったの。そしたら、先輩が部活の先輩たちと私のこと話してて。タイプじゃないし胸も小さいから処女だけ貰って捨てようと思ってたって話してて…。この一年何だったんだろうとか、先輩たち全員で私のこと笑ってたのかなとか。もう全部怖くなって、その後先輩が卒業するのに合わせて全部ブロックして逃げたの。それが三年前。あー、くそー。思い出したら腹立ってきた。」
あまりにも悲惨な話に全員黙り込む。
「あの、惨めになるので笑って下さい。三年も前の話で未練もないですし。はは…。」
高橋と仲宗根さんが目配せしている。
どちらが口を開くか押し付けあっているようだ。
「一花ちゃん、ゴメンな。まさかそんな仕打ちを受けていたなんて思わなくてさ。」
年長者の仲宗根さんが場を取り持とうと口を開く。
「いえいえ、私も三年ぶりに何の覚悟もなくこの前会っちゃって、色々思い出してムカついてて、さっきのは八つ当たりでした。ごめんなさい。」
「でもさー、」
折角空気が戻ってきていたのに高橋が余計な口を挟む。
「処女貰って捨てるつもりだったのに、何で一年も付き合ってたんだろ?他の先輩たちの手前格好つけただけで、本当はちゃんと一花のこと好きだったんじゃないの?」
高橋なりのフォローなのだろうが、それは完全に地雷だ。
「さっきは伏せたけど、先輩が私を直ぐに切らなかった理由も聞いちゃてるから、それはないよ。」
「え?理由って?」
話したくないけど、ここまで話しおいて話したくないって言うのは許されるのだろうか。
半分ヤケクソで今まで誰にも言わなかったことを口にする。
「…身体…だってさ。」
「へ?」
「身体が良いからズルズル続けちゃったって言ってた。」
「…。」
再び全員が沈黙する。
「いやさ、胸ないし、筋肉質で柔らかくもないし、先輩が何を良いって言ってたのか意味はわからないんだけどね。」
自分の身体を良いと思って自惚れている訳ではないことを強く弁解する。
「え?なんか凄いことしてたの?テクニシャン?」
私を元気付けるとか、空気を戻すとか一切忘れ、純粋に疑問を口にする高橋。
「いやいや、普通普通。普通がどうなのかとか知らないけど。特殊なことしたつもりはないし、特に身体が特殊ってこともないはず…。」
長く黙るとその時間色々想像されそうで、慌てて否定する。
「でも、そんなヤリチンが惜しいと思った程の身体って…。」
仲宗根さんと高橋が私のことを上から下まで見て何かしら想像している。
海くんだけは無表情のまま正面を見て黙々と枝豆を食べている。
やっぱり言わなきゃ良かった。
誰かこの空気を何とかしてくれ。
そういえば日菜子が全然喋っていない。
そう気にかけた瞬間、ガバッと日菜子が立ち上がる。
「うっ…」
口元を抑え座敷を抜けると、裸足のままトイレに走って行ってしまった。
「ヒナ!」
サンダルを掴み、後を追う仲宗根さん。
「そういや、ヒナちゃん俺ら来た時点で出来上がってたな。」
「うん。仲宗根さんへの不満爆発で完全にやけ酒だった。」
「そうか。」
向かいに座っていた二人が居なくなり、6人掛けのテーブルに、3人が同じ方を向いて座るシュールさ。
何となく高橋と距離をとりたいのもあり、グラスを持って反対側に移動すると、海くんの正面に座る。
高橋越しに横から見る海くんは無表情に淡々として見えたが、正面からよく見ると微かに頬を赤らめ、フワフワと揺れながら枝豆を食んでいた。
まだ一杯目のジョッキが半分以上残っているのに、ほろ酔っているようだ。
可愛い過ぎる。
「海、それもうカラじゃん。ペッしなさい。」
中身を食べきった枝豆の皮をはみはみしていた海くんを見て、まるで母親にように高橋は世話を焼いた。
「俺ね、高橋くんと同じこと考えてた。」
「え?…一花の身体のこと…?」
「アホか!」
ゴクリと生唾を飲み込み見当違いなことを言う高橋に強く突っ込む。
「一花さんの先輩が本当は一花さんのこと好きだったんじゃないかってこと。」
「ああ…。でもそれは身体だったって話に…」
「お前、黙れ!」
大きめの唐揚げを箸で摘み、高橋の口に突っ込む。
「むぐぅ。」
「『酸っぱい葡萄の法則』って知ってる?イソップ物語の『狐と葡萄』って話から名前をとってるんだけど。木に成った葡萄に手が届かなくて食べられなかった狐が、あの葡萄は酸っぱいに違いない。って言う話。手に入れられなかった物や、思い通りに行かないことを悪く言って、あれは手に入れる価値もないって、自分の心を守る心理なんだけど。先輩はそれだったんじゃないかと思って。」
「ふぉへー。」
高橋が口いっぱいの唐揚げを咀嚼しながら、興味深げに海くんの話に相槌を打つ。
「一花さんに拒絶されて、別にあんな女惜しくないし。もともと要らなかったし。って思うんだよ。でも、じゃあ何で一年以上も一緒にいたのか、要らないものといたその時間は自分にとって無駄だったんじゃないか。っていうジレンマに陥てしまう。その時一番都合よく自分を納得できた理由が『身体の良さ』だったんじゃないかな?本当は一花さんのことちゃんと好きだったと思うよ。大切には出来ていなかったし、一花さんに捨てられて当然だとは思うけど。」
海くんはニコニコと優しい笑顔で、また中身の無い枝豆の皮を口に運んだ。
「お前、だからそれカラだって。もう。」
やっとのこと唐揚げを飲み下した高橋が、再度海くんの世話を焼きながら呟く。
「でも、本当にそうかもな…。もしそうなんだとしたら俺はその元カレの気持ちちょっとわかるよ。」
海くんが落とした皮をザルに集めながら高橋が笑う。
「しかし、海って面白いよな。ボーッとしてそうなのに、意外とちゃんと周り見てて、で、最終的には枝豆の皮食っちゃうくらいちゃんとしてねぇの。意味わかんねぇよな。」
このまま眠ってしまいそうにユラユラ漂っっている海くんを眺める。
私はまた海くんに救われた。
尊先輩が私を好きだったかどうかでなく、私が愛されない存在だって世界中から言われているようで辛かった気持ちを海くんは救い出してくれた。
こんな惨めな内容でも今日吐き出して良かったと思える。
高橋に甘やかされながらニコニコ笑っている海くんを眺め、やっぱり海くんが欲しいと思った。
「いてっ」
強く押しすぎた枝豆が勢いよく飛び出し、自分の額で跳ね何処かへ消えて行った。
仲宗根さんは興味津々の顔で私の返答を待っている。
「お!なんですか、その面白そうな話!」
直前までミスコンにノミネートされている彼女について、興味無さそうな海くんに無理やり自慢していた高橋が、目敏く聞きつけて再度絡んできた。
「…そうですよ。元カレですよ。付き合っていたのは三年も前の話ですけどね。」
「へー、お前彼氏いたことあったのか。仲宗根さん、元カレどんな感じでした?」
最高の酒の肴を見つけた様子で、ヘラヘラと笑っている高橋に殺意を覚える。
「なんか、背が高くて結構イケメンだった。男からもモテそうな、スポーツマン系のイケメン。」
「えー!何でそんな高スペックが一花と!」
ニヤニヤと私の顔を覗き込んで来る。
そのことは忘れたいのに。
イライラして作り笑いもできない。
一杯目しかアルコールを摂っていないのに、顔がカッと熱くなる。
「そうだよ。私なんかじゃ釣り合ってなかったよ。だから向こうは他にも沢山彼女いたしね。一年も付き合ってたのに、部活の皆には内緒とか可笑しいと思ったんだよね。あ、部活の先輩だったんですけどね、その人。そのくせ、私には口止めしておいて、自分はペラペラペラペラ友達に面白可笑しく喋ってたしね。」
敬語も何もかもめちゃくちゃに捲し立てる私に唖然とする面々。
周囲の様子を見る冷静さは残っているのに、自分でも自分の口を止められない。
「部活関係ない友達にだけこっそり先輩と付き合ってるって話してたんだけど、その友達の彼氏がたまたま先輩と小学校から一緒で、その人が心配して他にも彼女いるって教えてくれて。でも初めての彼氏だし、別れ方とかわかんないし。先輩にも確認してからじゃないと色々決断できないしって思って。私…。はー…。」
息継ぎも忘れていた。
酸欠に頭をクラクラさせながら目の前の烏龍茶を見つめる。
「一花…。もう良いって。」
高橋は今更心配そうに言うと、優しく肩に手を置いてきた。
私はそれを跳ね除け喚く。
「良くない!ほじくり返したのはそっちなんだからお前ら最後まで聞け!」
「…お、おう。」
まだ続く独演に備え、烏龍茶をごくごくと飲み下す。
「何か確認するの怖くて、先輩のこと避けてハッキリさせないままちょっと経ってとんだけど、それは良くないと思って、自分を奮い立たせて先輩に確認しに行ったの。そしたら、先輩が部活の先輩たちと私のこと話してて。タイプじゃないし胸も小さいから処女だけ貰って捨てようと思ってたって話してて…。この一年何だったんだろうとか、先輩たち全員で私のこと笑ってたのかなとか。もう全部怖くなって、その後先輩が卒業するのに合わせて全部ブロックして逃げたの。それが三年前。あー、くそー。思い出したら腹立ってきた。」
あまりにも悲惨な話に全員黙り込む。
「あの、惨めになるので笑って下さい。三年も前の話で未練もないですし。はは…。」
高橋と仲宗根さんが目配せしている。
どちらが口を開くか押し付けあっているようだ。
「一花ちゃん、ゴメンな。まさかそんな仕打ちを受けていたなんて思わなくてさ。」
年長者の仲宗根さんが場を取り持とうと口を開く。
「いえいえ、私も三年ぶりに何の覚悟もなくこの前会っちゃって、色々思い出してムカついてて、さっきのは八つ当たりでした。ごめんなさい。」
「でもさー、」
折角空気が戻ってきていたのに高橋が余計な口を挟む。
「処女貰って捨てるつもりだったのに、何で一年も付き合ってたんだろ?他の先輩たちの手前格好つけただけで、本当はちゃんと一花のこと好きだったんじゃないの?」
高橋なりのフォローなのだろうが、それは完全に地雷だ。
「さっきは伏せたけど、先輩が私を直ぐに切らなかった理由も聞いちゃてるから、それはないよ。」
「え?理由って?」
話したくないけど、ここまで話しおいて話したくないって言うのは許されるのだろうか。
半分ヤケクソで今まで誰にも言わなかったことを口にする。
「…身体…だってさ。」
「へ?」
「身体が良いからズルズル続けちゃったって言ってた。」
「…。」
再び全員が沈黙する。
「いやさ、胸ないし、筋肉質で柔らかくもないし、先輩が何を良いって言ってたのか意味はわからないんだけどね。」
自分の身体を良いと思って自惚れている訳ではないことを強く弁解する。
「え?なんか凄いことしてたの?テクニシャン?」
私を元気付けるとか、空気を戻すとか一切忘れ、純粋に疑問を口にする高橋。
「いやいや、普通普通。普通がどうなのかとか知らないけど。特殊なことしたつもりはないし、特に身体が特殊ってこともないはず…。」
長く黙るとその時間色々想像されそうで、慌てて否定する。
「でも、そんなヤリチンが惜しいと思った程の身体って…。」
仲宗根さんと高橋が私のことを上から下まで見て何かしら想像している。
海くんだけは無表情のまま正面を見て黙々と枝豆を食べている。
やっぱり言わなきゃ良かった。
誰かこの空気を何とかしてくれ。
そういえば日菜子が全然喋っていない。
そう気にかけた瞬間、ガバッと日菜子が立ち上がる。
「うっ…」
口元を抑え座敷を抜けると、裸足のままトイレに走って行ってしまった。
「ヒナ!」
サンダルを掴み、後を追う仲宗根さん。
「そういや、ヒナちゃん俺ら来た時点で出来上がってたな。」
「うん。仲宗根さんへの不満爆発で完全にやけ酒だった。」
「そうか。」
向かいに座っていた二人が居なくなり、6人掛けのテーブルに、3人が同じ方を向いて座るシュールさ。
何となく高橋と距離をとりたいのもあり、グラスを持って反対側に移動すると、海くんの正面に座る。
高橋越しに横から見る海くんは無表情に淡々として見えたが、正面からよく見ると微かに頬を赤らめ、フワフワと揺れながら枝豆を食んでいた。
まだ一杯目のジョッキが半分以上残っているのに、ほろ酔っているようだ。
可愛い過ぎる。
「海、それもうカラじゃん。ペッしなさい。」
中身を食べきった枝豆の皮をはみはみしていた海くんを見て、まるで母親にように高橋は世話を焼いた。
「俺ね、高橋くんと同じこと考えてた。」
「え?…一花の身体のこと…?」
「アホか!」
ゴクリと生唾を飲み込み見当違いなことを言う高橋に強く突っ込む。
「一花さんの先輩が本当は一花さんのこと好きだったんじゃないかってこと。」
「ああ…。でもそれは身体だったって話に…」
「お前、黙れ!」
大きめの唐揚げを箸で摘み、高橋の口に突っ込む。
「むぐぅ。」
「『酸っぱい葡萄の法則』って知ってる?イソップ物語の『狐と葡萄』って話から名前をとってるんだけど。木に成った葡萄に手が届かなくて食べられなかった狐が、あの葡萄は酸っぱいに違いない。って言う話。手に入れられなかった物や、思い通りに行かないことを悪く言って、あれは手に入れる価値もないって、自分の心を守る心理なんだけど。先輩はそれだったんじゃないかと思って。」
「ふぉへー。」
高橋が口いっぱいの唐揚げを咀嚼しながら、興味深げに海くんの話に相槌を打つ。
「一花さんに拒絶されて、別にあんな女惜しくないし。もともと要らなかったし。って思うんだよ。でも、じゃあ何で一年以上も一緒にいたのか、要らないものといたその時間は自分にとって無駄だったんじゃないか。っていうジレンマに陥てしまう。その時一番都合よく自分を納得できた理由が『身体の良さ』だったんじゃないかな?本当は一花さんのことちゃんと好きだったと思うよ。大切には出来ていなかったし、一花さんに捨てられて当然だとは思うけど。」
海くんはニコニコと優しい笑顔で、また中身の無い枝豆の皮を口に運んだ。
「お前、だからそれカラだって。もう。」
やっとのこと唐揚げを飲み下した高橋が、再度海くんの世話を焼きながら呟く。
「でも、本当にそうかもな…。もしそうなんだとしたら俺はその元カレの気持ちちょっとわかるよ。」
海くんが落とした皮をザルに集めながら高橋が笑う。
「しかし、海って面白いよな。ボーッとしてそうなのに、意外とちゃんと周り見てて、で、最終的には枝豆の皮食っちゃうくらいちゃんとしてねぇの。意味わかんねぇよな。」
このまま眠ってしまいそうにユラユラ漂っっている海くんを眺める。
私はまた海くんに救われた。
尊先輩が私を好きだったかどうかでなく、私が愛されない存在だって世界中から言われているようで辛かった気持ちを海くんは救い出してくれた。
こんな惨めな内容でも今日吐き出して良かったと思える。
高橋に甘やかされながらニコニコ笑っている海くんを眺め、やっぱり海くんが欲しいと思った。
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