木曜日のスイッチ

seitennosei

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「先生の部屋」その後。

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幅の狭い急な階段。
板を軋ませて登った先にはいくつかの扉があった。
廊下を進みながら初めての場所でキョロキョロと忙しなく周囲を観察していると、2つ程の扉を通り過ぎ1番奥の部屋へ通される。
「2階は洋風なんですね。」
「そうなんですよ。ここは母方の祖父の家なんですけど…叔母が離婚して戻って来ていた間に2階と水周りだけリフォームしたんです。祖父は叔母の事散々好き勝手して再婚したら全く帰って来ないって怒っていましたけど、僕は今ここに住んでいて叔母のリフォームに感謝しています。」
自室の扉を開いた先生は私に対しベッドに座るよう促す。
そして続いて入室すると奥の机まで進み椅子をこちらに向けて座った。
板張りの部屋。
私の部屋より少し広そうだから8畳くらいだろうか。
家具は少なく大きな本棚と机、後は私が座っているベッドと部屋にもともと備え付いているクローゼットくらいしか見当たらない。
その他は、和室の名残りを思わせる梁とレトロな洋館の物みたいな出窓が不自然に同居していて興味を惹かれた。
そのちぐはぐな感じが逆にレトロモダンに近いオシャレさを醸し出していて。
それはちょっと浮世離れしている先生の雰囲気にしっくりとはまっている。
「すみません。誰も招く予定もなくて…僕の部屋はソファーとか寛げる椅子がないんです…。」
「いえ。こちらこそベッドに失礼してしまって…。」
促されるままにこんな所に腰掛けてしまっているけれど良いのだろうか?
勿論私はそういうつもりで先生の部屋に行きたいといったけれど、先生はそれをどう思ったのだろう。
流石に私の意図には気付いているとは思うけれど、はしたないとか下品だと思ってやしないだろうか…。
「あの…。」
真剣な顔で先生が声を掛けてきた。
「僕の意気地がないせいで傷付けてしまったり遠回りしてしまいましたが…。細谷さん、僕の恋人になってくれますか?」
「…あ…はい。」
応えるのに時間を有してしまった。
迷いがあるわけでも納得していないわけでもなく。
想いは確かめ合っていたし、頻繁に会っていたので私はもうとっくに付き合っているつもりでいたから改まった言葉に反応が遅れてしまったんだ。
恥ずかしいのでその事は黙っていよう。
先生は立ち上がるとこちらに来て私の横に腰を下ろす。
その拍子にベッドが沈み、一瞬傾いた肩同士が触れ合った。
恥ずかしさから少し離れようとした私の腕を先生が掴む。
驚いて顔を上げると視線がぶつかった。
胸が痛いくらい心臓が鳴っている。
「咲…って呼んで良い?」
まるで初めて先生の絵を見た時のように止まる呼吸。
敬語の抜けた先生の破壊力が凄まじくて。
私は声が出なくてなんとか無言で頷く。
「咲…。」
顔が近付いてきた。
構えていると柔らかい唇が私の唇に重なって直ぐに離れる。
目を閉じる暇もなく、触れている短い間も呆然と見開いたままの私の目を先生はずっと見詰めていて。
恥ずかしくなって顔ごと逸らすと顎に添えた手で強制的に先生の方に向かされてしまった。
「せんせ…」
また唇が触れる。
慌ててギュッと目を瞑ると、3度程唇が食まれ離れる時濡れた唇をペロッと舐められた。
尋常ではない程の鼓動。
このままじゃ心臓が破れそうだ。
緊張で唇が強ばってしまう。
キスもろくに出来ない子供だと思われてないかと心配になる。
居た堪れなくて目を閉じていると、額どうしをくっ付けて先生が口を開いた。
「もう先生じゃないんだけど…?」
それは少し意地悪な声で。
いつかの木曜日に聞いた声でもあった。
そしてずっと聞きたかった、どうしたって逆らえない声だ。
「…真琴さん。」
「うん。…もう一回。」
「まことさっ…」
言えと言うから言ったのに、言い終わる前に口が塞がれてしまう。
呼んでいる途中の油断していた口に先生の舌が入ってきた。
ビクッと反射的に肩が跳ねる。
ゆっくりと焦らす動きで口の中が探られていく。
ジワジワと少しづつ。
だけど確実に暴かれて。
「咲…。」
息継ぎの合間に囁かれた名前。
私も真琴さんって呼びたくて口を開くもまた塞がれてしまう。
ガツガツと激しくくるのではなく、こちらの反応を見ながらしっとりと形をなぞられて。
応えようとこちらからも行こうとすると、わざとちゅっと音をたてて離れていってしまう。
「好きだよ…。」
息継ぎの度に囁かれて。
私も好きって言いたいのにまた塞がれての繰り返し。
抗議のつもりで先生の肩を押すと、いつの間にかウエストと背中に回っていた手にすりっとひと撫でされ力が抜けた。
ちょっと待ってって言いたいのに息付く間もなくて。
一方的に中を覚えられてしまう事が悔しくて、私も先生を知ろうと押してみてもかわされ。
思うように動けない。
全く自分のペースに持っていけない。
上顎を舌の先で擽られた瞬間。
ガクッと腰がしなった。
「咲は口の中も敏感なんだね…。」
久しぶりに目を開くと目の前に先生の顔があって。
今までに見た事がない程楽しそうに笑っていた。
唾液を滴らせる私の口の端を指で拭う仕草。
口元に視線を落とした時の伏せられた目が色っぽくて。
それに魅入っているとバッチと視線がぶつかった。
「咲?続けても良い?…今ならまだ間に合うけど…。」
卑怯だ。
こんなタイミングでの最終確認するなんて…。
正直怖い。
キスだけでこれなんだ。
絶対に知らない世界に連れていかれる。
「今逃げないと、もう途中で止めるの無理になるよ。」
そう言いつつも先生はきっと分かってるんだ。
その声で囁かれると抵抗出来ないって。
こっちだってそのつもりで来たんだ。
私は先生の顔を両手で寄せ唇を3回程食んだ後、音を立てて下唇を吸いながら離す。
さっき教わったばかりのキス。
「まだ私名前も呼べてない。」
「ん?」
「キスしながら…真琴さんって…。好きって言うのも出来てないから。」
そのまま自分の身体ごと先生を引き倒す。
覆い被さるように私を見下ろす格好になった先生の下。
そこから見上げておねだりした。
「続けて下さい。」
見下ろす目が鈍く光る。
これから私は捕食されるんだ。
逃げる気なんてないけれど、もう本当に逃げられないんだと思うとゾクゾクと身震いがきた。
さっきよりも強く舌を吸うような激しいキスが降ってくる。
私はやっぱり着いていくのがやっとで。
だけど自分がされて気持ちの良かった事を必死にやり返した。
それでも全く先生から主導権を奪う事なんて出来なくて。
身体中まさぐられて悶えている隙に良いように弄ばれる。
そうして形勢は不利でありつつも全身が喜びに震えて。
お互いに顔の角度を変えながら深く探りあっていると急に肌寒く感じた。
不思議に思い意識を身体へ向けるといつの間にかブラウスもブラも脱がされていている。
え?何で?って言おうと思っても勿論言う間もなくて。
上半身が裸な事にパニックを起こしながらも、大人のテクニックって凄いと感心してしまった。
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