木曜日のスイッチ

seitennosei

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木曜日のスイッチ。

スイッチ。

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フワフワと頬を擽られている感覚。
梅雨の晴れ間。
心地好い風がそよそよと窓から入ってきては、私の全身を撫でて部屋の奥へと消えて行く。
まどろみの中、瞼を開くと少し離れた所に座っている真琴さんが目を細めて私を眺めていた。
その表情は愛しさに溢れていて。
恋人の寝顔を見て愛しさを募らせている真琴さんに私も愛おしくなった。
手にはスケッチブックと鉛筆を持っていて。
どうやらまた私の事を描いていたらしい。
油断し切った寝顔なんて絶対可愛くないのに…。
想いが通じあってそろそろ2ヶ月になるけれど、恋人になって以降ちょっと目を離した隙にデッサンされている事があって恥かしい。
だけど今まであまり人物を描きたいと思わなかったと言う真琴さんが、いつも私の何気ない瞬間を絵に収めている行為が嬉しくて胸がムズムズとしてくる。
堪えきれなくなってフッと笑みが零れた。
「咲?…目さめたの?」
「ううん…まだ…ねてる。」
「なんだ、まだ寝てるか…。」
私の冗談に付き合う真琴さん。
スケッチブックと鉛筆を椅子に置くとこちらに来る。
「じゃあ、寝てるうちに悪戯するか…。」
ギシッと音を立ててベッドが揺れた。
何をされてしまうんだろう?
少し期待してギュッと目を閉じる。
真琴さんの香りが強くなって。
チュッと首筋が唇で擽られた。
「…っ」
ピクっと身体が跳ねたけれど、声を殺して狸寝入りを続ける。
鼻で笑う声。
今絶対楽しそうな顔してるんだろうな。
その顔を想像して胸がキュンとしてしまう。
真琴さんはゆっくりとした手つきでツーっと私のウエストを撫でた。
ビクビクと身体が捩れる。
「咲?起きないと続けるよ?」
「…。」
「擽ったいの嫌でしょ?」
耳元で囁かれてそれも擽ったい。
だけど嫌じゃないから起きる気になれない。
「さーき?」
身体を撫で回す手。
それが段々と上がっていき脇の下に差し込まれた。
「ふっ…ん。」
「咲?」
サワサワと指が動く。
合わせて身体が揺れた。
「…っ。…ぅ。」
「さきー?」
「くぅ…っ。」
「咲?さーき?」
「んあぁ、もうだめ!」
寝たフリが難しい程の刺激。
私は目を開くと真琴さんの手を掴み静止する。
「擽ったいのと違う感じになるからだめ。」
「あ、起きた。」
「起きてたって分かってるくせに。」
「擽ったくないなら良いんじゃない?」
「良くない。」
真琴さんと触れ合う以前。
擽ったいせいで男の人と上手く身体のコミニュケーションがとれないと考えていた私はどうにかして快感を得たいと思っていた。
擽ったさを快感に変換出来れば全て上手くいくと思い込んでいたんだ。
その後真琴さんに触れてもらようになった時、段々と擽ったさよりも快感が勝ってきた時は希望が見えたと喜んでいた。
だけど本当のところはそんな単純な話ではなくて。
擽ったがりで大変だった身体は今別の悩みを抱えている。
「咲、ホント擽ったがらなくなったよな…。」
「白々しい。」
今の私は真琴さんに身体を撫でられるだけで快感を得てしまう体質になってしまった。
しかもそれは真琴さん限定の事で、他人に悪戯に触れられた時やテロテロした素材の服を着た時の擽ったさは多少改善されたものの完全には解消されてはいない。
つまり私はただただ真琴さんに対して常に快感のスイッチが入っているイヤらしい身体に塗り替えられてしまったんだ。
「はは、ごめんな。咲が擽ったいのを快感に変えたいって言い出した時から、そんな事したら別の意味で大変になるって俺は思ってたんだけどな。」
「ホント意地悪。」
真琴さんは私の腕を掴み引き寄せるとそのまま仰向けに転がった。
つられて私は真琴さんの上に乗っかる形になる。
腕で身を起こし、上から顔を睨み付けながら「このむっつりスケベ。」と罵ってやった。
だけど相手に堪えた様子はなく。
「ははは。否定はしないよ?けど好きな子にあんなお願いされたら断れないよ。」
全く悪びれない発言。
大人だからとか冷静だからとかじゃなくて。
パワーバランスとして全く敵わないと感じる。
私だけ翻弄されていて、だけどそれも嫌じゃないから悔しい。
「私をこんな身体にしたの真琴さんなんだから責任取ってよね。」
「そんなの…。当然だよ。」
満面の笑顔。
だけど次の瞬間には悪い顔をしていて。
「そうなるように仕向けたんだから…。」
と囁いてきた。
それに反応し、湧き上がった悦びにゾクゾクと全身が支配される。
鳥肌が立つ程の幸福感の中、もうこの人自体が私の幸せのスイッチなんだなと思った。
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