木曜日のスイッチ

seitennosei

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木曜日のスイッチ。

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金曜日の帰り道。
駅まで一人で歩いている。
前にこの道を森本先生と歩いた事がある。
あの時は楽しかったな。
森本先生と仲良くなれたって思っていたのにな。
急激に切なくなってしまい思考を強制的に切り替える。
まだまだ半袖でも汗をかくくらい暑いけれど、空が暗くなるのが早くなってきた。
今太陽は西の低い方に移動し、完全に沈んではいないだろうけれど、大きなマンションに隠れその姿は見えない。
そのまま東の方に視線を巡らすと、青が濃くなっていき最終的には濃紺の中にポツポツと星を散らし始めている。
赤と青の境目。
それは判然としなくてジワジワと侵食するみたいにグラデーションがかっていた。
私にも絵の才能があれば。
山崎先生みたいにこういう何気ない『綺麗』を絵にするのにな。
ジワッと涙が溢れ視界の中のグラデーションがますます境目をなくし滲んでいく。
瞼をギュッと閉じればぽろぽろと零れ落ちた。

先週森本先生とプール棟で会って、山崎先生本人の居ない中ごちゃごちゃと女2人で言い合った。
それがどうにも納得出来なくて。
どうしても山崎先生と話したくて。
昨日は美術準備室まで押し掛けてしまったのだけれど。
本当に散々だった。
知りたいことは何一つ知れなかったのに、胸を燻らせる燃料だけはまた新たに投下されて。
あんなに自分のコントロールを失った事はない。
言って良い事悪い事の選別もしないままに叫んでしまった。
当たり前だけれど、感情の制御って失ったら言動も思うように操作出来なくなるんだな。
山崎先生にも森本先生にも酷い事を言ってしまった。
だけど謝って取り消す気にはどうしてもなれない。
優しい2人の事だ。
素直に謝罪を受け入れてくれるだろうとは思う。
だけど真面目で誠実な2人の事だ。
きっと聞きたくもないそれぞれの気持ちとか、現状の2人の関係について説明とか聞かされるのかもしれない。
そんなものを聞ける程、私の頭と心はまだ整理されていない。
それに、やっぱり腹も立っていて。
今でもどうしたって納得が出来ない。
山崎先生に裏切られた気持ちは当たり前にあるし、森本先生を狡いと思う気持ちも消えない。
大人とか子供とか関係ない。
子供扱いしないでって普段は思っている反面。
こうなってくるとちょっとくらい大人である先生方にしっかりして欲しいなんて思うのは都合が良すぎるだろうか?
だって昨日の出来事は余りにも酷いと思ってしまう。
最近の山崎先生や森本先生なんかより、今の亜樹の方が余程大人だ。
大人って私が思う程大人じゃないのかもしれない。
なんて思った。

亜樹は辛い中で急激に成長した。
理不尽を受け入れて、自分を見つめて強くなろうと今ももがいている。
きっと私も受け入れないといけないんだろうな。
もう山崎先生と触れ合えない事も。
理解し合えない事も。
首にくれた痕の答え合わせが叶わない事も…。
受け入れよう受け入れようとする度、昨日山崎先生が親指を舐めた情景が脳裏を過ぎってしまい、強く後ろ髪を引かれるけれど。
もうどう仕様もないのだから忘れなければならないのだろう。
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