櫻月の巫女 〜過去のわたしと今の私

川まき

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現在⑶

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 すべてを片付けた。
 もう、どこにも帰ることはない。

 あの事故のあと、すべてを片付けられるぐらいのお金をもらった。
 実際のところ少しの麻痺が出た。よく見なければわからないが、歩くのがおっくうだ。

 そして、記憶の混濁。
 生きていくのに、合わなくなっていってた。

「大丈夫だよ、あの時と同じ」
 そう言ってる人を見た。

「ずっといっしょに居るよ、だって、僕のおかあさんだから」
 笑いかけながら、そう言ってくれる人だから、そうなんだろう。


 すべて片付けて、帰ることのない場所を見返した。

 ほんの少しの未練はあるが、それだけで生きていけるほどいいものじゃない。

 優しかった人もいた。いじめられることもあった。知り合いもできた。嫌な人もいた。

 たった一人の友人。さよなら。

 また会えたらいいな…。

 向こうに人影が見えた。背が高いからよく見える。
「見て、迎えに来てくれたの」


 二人で歩いて行った。懐かしい記憶。山に入って山菜採りもしたな。
 自分の記憶がぐるぐる回る。整合性のない記憶。

 そうだ。今は前を見よう。
 手を差し出してくれた人に挨拶する。

「長い間、ご心配をかけました」
「お帰り」
「ただいま帰りました」

 

 あの場所へ帰って行った。
 またあそこで寝よう。そうすれば元気になれるかもしれないから。





 ◆◆◆◆◆

 
 あれから、一週間ほどして白木さんは目を覚ました。体を痛めたらしく少しの麻痺があった。

 店も今後どうするか、話し合いをしてるらしい。

 そして、白木さんは田舎に帰るとかで引っ越してった。どこにとも聞けなかった。
 だって事情を知ってるから。
 どこかに行った。どこかに引っ越したらしい。そう聞いた。


 クロがいなくなった。もういつまでかわからないから、最後までと思っていたのに、居なくなってしまった。まるで猫の最後みたいだ。
「仕方ないね…」
 母さんはそう言った。




 ◆◆◆◆◆

 話し合いは進まない。平行線だ。
 いい加減、認めろと思う。口には出さないが。


 白木さんはなんとか目を覚ました。けど、記憶の混濁と軽い麻痺。
 とても働ける状態ではなかった。

 そのうち、白木さんの知り合いだと言う人が現れて、療養するため引っ越すという。

 いい人なのか、悪い人なのかわからないが、自分では止めることさえできなかった。

 元気でいればいいけど…。

 それで、また話し合いに戻った。













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