平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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私は、ヴェイル様に出来る限り強く抱きついた後、地面に降ろしてもらった。


正直、怖い。
辺り一面を真っ黒に染める悪意そのものの闇を、これから自分の中に受け入れなければいけないのだから。

私は本当に、この真っ黒な闇を全て浄化出来るだろうか。
無能の私が…。
役立たずと言われ続けた私が…。

でも!
無能でも、出来損ないでも、無様に地面に這いつくばって希望に食い付こう。
願った未来に進むために、生にしがみ付こう。

私は、上手く動かせない腕をヴェイル様に伸ばした。


「手を握っていてくれませんか?」

「ああ、ずっと側にいる。」

「はい!」
私は、貼り付けた笑顔ではない、心からの笑みをヴェイル様に向けた。


いつから私は、自然に笑顔が出るようになったんだっけ?

私は、今まで使ってきた偽物の笑顔の作り方が、よく分からなくなっていた。

そんな自分を自嘲気味に笑った私は、スッと闇に目を向ける。すると、ヴェイル様が払った影が這い寄ってきた。
私は、ヴェイル様の手を握ったまま、影の中に足を踏み入れた。


氷水のように冷たい影から、私の脚を伝って影が湧き出る。そして、それは、一気に私に襲いかかった。
私は、それを拒む事なく全て受け入れた。


痛い…。

体の中から、鋭い針で刺されているみたいに。

痛い、痛い、痛い!

喉の奥から何度も悲鳴が出そうになった。
でも、唇を噛んで必死で耐えた。
ヴェイル様をこれ以上心配させたくなくて。

痛い…、痛い…。

大丈夫、大丈夫。

自分の心の叫びに、何度も言い聞かせる。
大丈夫、耐えられると。

その時、後ろから殆ど突進するような勢いで抱き締められた。


「大丈夫だ、ステラ。俺がいるから。俺にもステラの痛みを分けてくれ。」

「ヴェ、イル、さま…。」
ヴェイル様の手が、私の胸元に触れる。すると、今まであった激痛が和らいだ。


「ヴェイル様、手が!」

私の胸に置かれたヴェイル様の大きな手に自分の手を重ねると、嫌な感触がした。思わず見下ろした彼の腕には、私と同じように黒い魔石が張り付いていた。


「ああ、ステラの痛みを一部だが、肩代わり出来たようだ。これで、一緒に戦えるな。さあ、この不快な闇を払ってしまおう。」

見上げたヴェイル様の顔には、苦痛は見られない。あるのは覚悟だけ。


この方の覚悟は、なんて素敵なんだろう。

思わずヴェイル様の頬に触れると、ヴェイル様の顔がゆっくりと降りてきて、その唇が私の唇に落ちた。
そして、その瞬間、私達の周りに青炎が立ち昇る。


温かい。
ああ、心地良い。

燃え上がった炎は、足元からゆっくりと私達を優しく包んで、私の中にあった苦痛も恐怖も燃やしてしまった。


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