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「ステラ、駄目だ!貴女の体に、これ以上の負荷を掛けてはいけない!ステラ…、今の貴女からは、濃い魔の臭いがするんだ。あの闇の中で、いったい何があった?」

苦しみに満ちた顔で、ヴェイル様が私へ問いかける。
縋るように私に触れるヴェイル様に、私は重い罪悪感を覚えた。少しでも彼を安心させたくて口を開いたその時、近くで大きな爆発音が響いた。


「ヴェイル様、あの爆破音は?今、どうなっているんです?それに、ヴェイル様の怪我だって!」
私は抱きついてしまったヴェイル様から距離を取って、彼の体に視線を巡らせる。すると、ヴェイル様の指が、私の頬に触れた。



「ステラ、落ち着け。俺は、大丈夫だから。全て、ステラのお陰だ。貴女は、危険を冒して、俺に魔力を託してくれたのだろう?だから、俺は、魔物の王に大きな傷を負わせる事が出来た。それに、ステラの魔力で怪我も治ったんだ。ほら。」
そう言うと、ヴェイル様は、苦しいぐらい強く私を抱きしめた。


「ステラから魔力が送られてきたあの時、一瞬、魔物の王の闇が晴れたんだ。おそらく、魔物の王の存在自体が揺らいだのだろうな。俺はその隙に、俺達を捕らえていたあの闇の空間ごと、魔物の王に異能を叩きつけた。青炎で闇を燃やし尽くしたんだ。その瞬間、奴の核が見えた。これだ。」

広げられたヴェイル様の手のひらには、砕けた漆黒の魔石の欠片があった。


「これ…。じゃあ、魔物の王は!」

「いや、まだ魔物の王は、死んでいない。おそらく、魔物の王にも、複数の核があるのだろう。だが、ヤツが呼んだ異形の魔物達の力が落ちた。あの程度であれば、すぐに異能者達が討伐してくれるだろう。」

スッとヴェイル様が向けた視線の先には、激しい爆発音と粉塵が巻き起こっていた。その近くには、異様な姿をした巨大な魔物の死体が転がっていた。


「大丈夫だ。俺達は負けない。だから、もう、ステラは何もしないでくれ。頼むから…。」

私を抱きしめたヴェイル様の体が、震えている。それはまるで、私を失うことに恐怖し、泣いているかのようだった。


ヴェイル様を守るために必死だった。
絶対に貴方を死なせたくなくて。
でも、ヴェイル様をこんなにも悲しませてしまった。
私は、相手を守るつもりで、結局、自分の事しか考えられていなかったのね。


「ヴェイル様、私達は、同じ事をしていたんですね。ヴェイル様は私を、私はヴェイル様を、ただ守りたかった。自分を犠牲にしても。でも、それじゃ、いけなかったんですね。」

「ああ、そうだ。俺達は、共に生きる約束をしたのだから。ステラ、俺はこの戦い、ヤツを倒して、必ず生き残る。だから、ステラも、俺のために生きてくれ。俺はもう、貴女なしでは生きられない。俺に、貴女を世界一幸せにする権利をくれ。」

「ヴェイル様…。はい、約束です!」

私達は、お互いの目を合わせて、新たな覚悟を誓った。絶対に生き残ると。



その時、一際大きな爆発音が響き、空を飛んでいた魔物が地面に落ちた。


「向こうは、終わったようだな。」

「はい。では、今度は、こちらですね。」

私は、自分の胸に手を当て、核に向かって呼びかけた。


「ミシャ、決着をつけましょう。」

私の呼びかけに応え、空気が闇に染まる。その闇に触れた湖の水が、グツグツと沸騰音を立てて蒸発していた。






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