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 昔々、薄暗い迷いの森の縁に、老いた祖父母を養いながら苦しい生活を送る青年がいた。その青年が、薬草を取りに森へ入ると、蔦に絡まり弱っている妖精を見つけた。
青年は、森から出られない妖精のために、来る日も来る日も甲斐甲斐しく看病を続けた。
そんな青年の優しさに触れ、妖精は彼に恋をする。青年もまた、美しい妖精に心を奪われ、二人はいつしか恋人になった。
けれど、妖精の寿命は短い。
別れを悲しんだ妖精は、それでも、青年の幸せを願い、最後の力を使って、決して枯れることのない花畑を作った。
後に、その花で財を築いた青年は、思い出の森を守りながら、家族と幸せに暮らした。



これは、私が生まれた辺境地に伝わる御伽噺。そこに住む者なら、誰でも知っている物語だ。嘘か本当かは、分からない。

この話は、私にとって嫌な思い出が残る話だった。
私の名前の由来であり、役に立たない幼い私を責め立てるための両親の常套句だったから。


『フローラ』
それは、青年に恋をした花の妖精の名前。
そして、花の印を持って生まれた私にぴったりだと、両親が付けた名前だった。


その名前を、闇の底から絡めとるように呼ばれて、私の意識は堕ちてしまった。
そんな私の心に、闇が詰め寄る。


「忘れたのか、フローラ?己の願いを。」

「やめて!私はもう、フローラじゃないわ!」

「本当に、そうか?ハハ、違うな。今もまだ憎いのだろう?ほら、素直になれ、フローラ。我は、お前の唯一の理解者だぞ?我をミシャと呼んで、友達だと言ったのは、お前だ。」

「やめて!やめて!貴方が、魔物の王だなんて知らなかった!貴方の核を受け入れさせられていたなんて分からなかった!私は、ただ…、辛くて、逃げ出したかっただけ。私の心が弱かったから、誰かに助けて欲しかったのよ!」

「だが、お前は我に願った。恐怖に、苦痛に耐えながら、毎日、神を恨み、人を妬み、世界の消失を願っていた。」

「だって!それは、ミシャが!」

「ハハハハハハ!我がなんだ?我が、お前を誘導したとでも?違う!違うぞ、フローラ。闇に手を伸ばしたのは、お前の意思。全部、お前のせいだ。」


私の、せい?
こうなったのは、全部私のせいなの?


お父さんもお母さんも、私が町の子供達と仲良くするのを嫌がった。異能者が迎えに来る前に、変な虫が付いたら大変だと。

だから、楽しそうに遊んでいる同年代の子供達を見かける度に、羨ましくて。とても、寂しかったのだ。
そんな時に、私に話しかけてくれる存在と出会った。影の中に潜む彼は、自分をメシア、救世主だと言った。でも、私は上手く発音出来なくて、ミシャと呼んだのだ。
初めて出来た友達は、優しくて、いつも私が望む言葉をくれた。そんな彼に、私はべったりと依存してしまった。
幼い私が、世界の消滅を願ってしまうほどに。

だから、今、ヴェイル様が、苦しんでいるのは、私のせいなのだ。






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