134 / 163
*ヴェイル視点 39
しおりを挟む
影の中に等間隔で並ぶソレは、人形のように無表情で目は虚ろだった。
「何だ、コレは…?」
「いいだろう?我の自慢のコレクション、かつて神に愛されていた者達だ。コレらは、異能者や番でこそないが、その輝く魂で、弱者を導いていた。そんな者達の堕ちた魂だからこそ、良き闇を生み出してくれている。」
「母上も、その一人だというのか?」
「ああ、そうだ。この体の持ち主は、異国に嫁ぎたくないと泣いていたからな、優しく慰めてやったのだ。ハハ、そう言えば、コレは、初めてまともな形で保存出来た異能者の番だったな。」
魔物の王は、上機嫌で言葉を発しながら、自らの体を撫で下ろす。
母上は、魔物の王に精神を汚染されていたのか。
父上は、そうとも知らず…。
俺は、伸ばされた母上の手を強く振り払った。その拍子に、母上の手首が逆方向に曲がる。
「あーあ、人間の体は脆いな。この程度で壊れるとは。」
魔物の王は、折れた腕を見せつけるように、俺の前でプラプラと揺すってみせた。
「それにしても、青炎の異能者は、母親に厳しいな。ハハ、では、これはどうだ?」
母上の姿が闇に消えると、展示品のように並んでいた者達も、同じく闇に溶けていく。更に闇が深まり、不快な沈黙が俺を包んだ。
その中に、ポツンと赤い髪が浮かび上がる。
「ステラ!」
ステラの下に駆けるも、なぜか俺とステラの距離が縮まらない。俺は、無表情で佇むステラに向かって、名前を叫び続けた。
すると、ステラの背後の影から腕が伸び、彼女の体に巻き付いた。
「ステラに触るな!」
俺は、ステラを抱きしめる魔物の王へ青炎を放った。
しかし、その炎は、ステラの体に吸収されていく。
「怖い、怖い。お前の愛しい番に当たったら、どうするつもりだ?」
魔物の王が、ステラの首に手をかける。その指が、ステラの首に食い込んだ。
苦しいはずなのに、ステラはただ、虚ろな目で俺を見ていた。
「やめろ!」
どんなに強力な魔法を放っても、ステラの吸収の力で止められてしまう。しかも、俺達の距離すら縮まらず、彼女に触れることさえ出来ない。俺の中に、焦りだけが募った。
そんな俺の状況を楽しむように、魔物の王はニヤリと笑うと、ゆっくりステラの首に噛み付いた。
ステラの首筋に、いく筋もの赤い血液が流れ落ちる。俺の耳にも、血を啜る不快な音が届いた。
「クソ野郎ーーー!」
俺は、有りったけの力で、剣を魔物の王目掛けて投げつけた。しかし、その一撃も、魔物の王によって軽々と止められる。
すると、ステラの首元から視線を上げた魔物の王が、彼女の目に手を翳した。何かを解くかのように。
「い、や、やだ…。やめて。」
突然、ステラの目に生気が戻り、彼女が魔物の王の腕から逃れようと抵抗し始めた。
「ステラ!ステラ!」
「ヴェ、ヴェイル、さま、助けて…。」
俺に気付いたステラが、俺に向かって手を伸ばす。虚ろだったステラの目は、苦痛に歪み、恐怖の涙を流していた。
「何だ、コレは…?」
「いいだろう?我の自慢のコレクション、かつて神に愛されていた者達だ。コレらは、異能者や番でこそないが、その輝く魂で、弱者を導いていた。そんな者達の堕ちた魂だからこそ、良き闇を生み出してくれている。」
「母上も、その一人だというのか?」
「ああ、そうだ。この体の持ち主は、異国に嫁ぎたくないと泣いていたからな、優しく慰めてやったのだ。ハハ、そう言えば、コレは、初めてまともな形で保存出来た異能者の番だったな。」
魔物の王は、上機嫌で言葉を発しながら、自らの体を撫で下ろす。
母上は、魔物の王に精神を汚染されていたのか。
父上は、そうとも知らず…。
俺は、伸ばされた母上の手を強く振り払った。その拍子に、母上の手首が逆方向に曲がる。
「あーあ、人間の体は脆いな。この程度で壊れるとは。」
魔物の王は、折れた腕を見せつけるように、俺の前でプラプラと揺すってみせた。
「それにしても、青炎の異能者は、母親に厳しいな。ハハ、では、これはどうだ?」
母上の姿が闇に消えると、展示品のように並んでいた者達も、同じく闇に溶けていく。更に闇が深まり、不快な沈黙が俺を包んだ。
その中に、ポツンと赤い髪が浮かび上がる。
「ステラ!」
ステラの下に駆けるも、なぜか俺とステラの距離が縮まらない。俺は、無表情で佇むステラに向かって、名前を叫び続けた。
すると、ステラの背後の影から腕が伸び、彼女の体に巻き付いた。
「ステラに触るな!」
俺は、ステラを抱きしめる魔物の王へ青炎を放った。
しかし、その炎は、ステラの体に吸収されていく。
「怖い、怖い。お前の愛しい番に当たったら、どうするつもりだ?」
魔物の王が、ステラの首に手をかける。その指が、ステラの首に食い込んだ。
苦しいはずなのに、ステラはただ、虚ろな目で俺を見ていた。
「やめろ!」
どんなに強力な魔法を放っても、ステラの吸収の力で止められてしまう。しかも、俺達の距離すら縮まらず、彼女に触れることさえ出来ない。俺の中に、焦りだけが募った。
そんな俺の状況を楽しむように、魔物の王はニヤリと笑うと、ゆっくりステラの首に噛み付いた。
ステラの首筋に、いく筋もの赤い血液が流れ落ちる。俺の耳にも、血を啜る不快な音が届いた。
「クソ野郎ーーー!」
俺は、有りったけの力で、剣を魔物の王目掛けて投げつけた。しかし、その一撃も、魔物の王によって軽々と止められる。
すると、ステラの首元から視線を上げた魔物の王が、彼女の目に手を翳した。何かを解くかのように。
「い、や、やだ…。やめて。」
突然、ステラの目に生気が戻り、彼女が魔物の王の腕から逃れようと抵抗し始めた。
「ステラ!ステラ!」
「ヴェ、ヴェイル、さま、助けて…。」
俺に気付いたステラが、俺に向かって手を伸ばす。虚ろだったステラの目は、苦痛に歪み、恐怖の涙を流していた。
64
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
龍王の番
ちゃこ
恋愛
遥か昔から人と龍は共生してきた。
龍種は神として人々の信仰を集め、龍は人間に対し加護を与え栄えてきた。
人間達の国はいくつかあれど、その全ての頂点にいるのは龍王が纏める龍王国。
そして龍とは神ではあるが、一つの種でもある為、龍特有の習性があった。
ーーーそれは番。
龍自身にも抗えぬ番を求める渇望に翻弄され身を滅ぼす龍種もいた程。それは大切な珠玉の玉。
龍に見染められれば一生を安泰に生活出来る為、人間にとっては最高の誉れであった。
しかし、龍にとってそれほど特別な存在である番もすぐに見つかるわけではなく、長寿である龍が時には狂ってしまうほど出会える確率は低かった。
同じ時、同じ時代に生まれ落ちる事がどれほど難しいか。如何に最強の種族である龍でも天に任せるしかなかったのである。
それでも番を求める龍種の嘆きは強く、出逢えたらその番を一時も離さず寵愛する為、人間達は我が娘をと龍に差し出すのだ。大陸全土から若い娘に願いを託し、番いであれと。
そして、中でも力の強い龍種に見染められれば一族の誉れであったので、人間の権力者たちは挙って差し出すのだ。
龍王もまた番は未だ見つかっていないーーーー。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
離縁してください旦那様
ルー
恋愛
近年稀にみる恋愛結婚で結ばれたシェリー・ランスとルイス・ヤウリアは幸せの絶頂にいた。
ランス伯爵家とヤウリア伯爵家の婚姻は身分も釣り合っていて家族同士の付き合いもあったからかすんなりと結婚まで行った。
しかしここで問題だったのはシェリーは人間族でルイスは獣人族であるということだった。
獣人族や龍族には番と言う存在がいる。
ルイスに番が現れたら離婚は絶対であるしシェリーもそれを認識していた。
2人は結婚後1年は幸せに生活していた。
ただ、2人には子供がいなかった。
社交界ではシェリーは不妊と噂され、その噂にシェリーは傷つき、ルイスは激怒していた。
そんなある日、ルイスは執務の息抜きにと王都の商店街に行った。
そしてそこで番と会ってしまった。
すぐに連れ帰ったルイスはシェリーにこう言った。
「番を見つけた。でも彼女は平民だから正妻に迎えることはできない。だから離婚はなしで、正妻のまま正妻として仕事をして欲しい。」
当然シェリーは怒った。
「旦那様、約束は約束です。離縁してください。」
離縁届を投げつけ家を出たシェリーはその先で自分を本当に愛してくれる人と出会う
利用されるだけの人生に、さよならを。
ふまさ
恋愛
公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。
アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。
アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。
──しかし。
運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるクレーナは、ある時婚約者であるラカールから婚約破棄を告げられた。
彼は浮気しており、その相手との間に子供ができたことから、クレーナのことを切り捨てざるを得なかったのだ。
しかしながらラカールは、煮え切らない態度であった。彼は渋々といった感じで、浮気相手と婚約しようとしていたのだ。
身勝手なことをしたというのに、責任を取る確固たる覚悟もない彼に対して、クレーナは憤った。だがラカールは、婚約破棄するのだから関係ないと、その言葉を受け入れないのだった。
婚約者から離れたクレーナは、侯爵令息であるドラグスと出会った。
二人はお互いに惹かれていき、やがて婚約を結ぶことになるのだった。
そんな折、二人の前に元婚約者であるラカールが現れた。
彼はドラグスのことを批判して、クレーナには相応しくないと批判してきたのである。
「浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか?」
しかしクレーナは、ラカールをそう言って切り捨てた。
そこで彼女は知ることになった。ラカールが自分の知らない間に、随分と落ちぶれていたということを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる