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*ヴェイル視点 34

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「ステラをどこへやった!?」
フェーイレーン殿の制止を振り切り、俺は、膝を突く魔物の王の胸ぐらを掴み上げた。


「己の番の居場所ぐらい聞かなくても分かるだろう、青炎の異能者よ。ほら、アレは、ここだ。我の身の内、魔の底だ。」

「…そうか。では、お前を殺して、今すぐステラを取り戻す!」
剣に異能の炎を纏わせ、魔物の王の首を狙う。
しかし、剣を振り上げた俺の腕を、何者かがしがみ付いて邪魔をした。


「止めるな!」
腕に抱き付く存在が、巫女だと分かっても、俺は、力任せに振り払う。それでも、巫女は、俺に食ってかかった。そんな巫女を支えながら、フェーイレーン殿もまた、俺に鋭い視線を向ける。


「駄目よ!ステラを助けたいなら、今は堪えて!」

「クソッ!」
分かっている。
俺のこの行動が、軽率なことぐらい。

俺は、荒れ狂う異能を無理矢理身の内に収め、振り上げた剣を怒りのまま、地面へ突き立てた。
けれど、魔物の王の胸ぐらは、決して離さない。
いつでも、その首を落とせるよう、俺は魔物の王から視線を逸さなかった。



「ねえ。どうして、ステラの以前の名前を知っているの?」
不自然なほど冷静に、巫女が魔物の王へ声をかける。それが分かっているのか、魔物の王は、終始楽しそうに話していた。


「ずっと共にいたからだ。アレが言葉もまともに話せない頃から側にいた。アレの唯一の理解者は我だ。ハハ、なぜ、アレが、元の名を捨てたか知っているか?あの名は、アレの両親の欲そのものだからだ。花の妖精の意味を持つ『フローラ』という名は、アレにとって、呪いでしかないのだ。」


フローラ、それがステラの本当の名前…。
俺にも教えなかった名前か…。

俺は、ステラの心情を慮って、未だ彼女の体温が残る手を握りしめた。



「ずっと一緒にいたって、まさか!?」

巫女の指摘に、魔物の王が狂ったように笑い出す。


「やっと気付いたか!そうだ!我が直々に、アレの体が我の核を受け入れられるよう導いてやった。死にそうになる度に、甘く優しい言葉で励ましながらな。そうでなければ、他の実験体と同じく、アレも内部から我の核に喰われている。クフフ、ああ、愉快愉快。神が愛する異能者の番が闇に染まる様は、見ていて爽快だった。暇つぶしに核を提供した甲斐があったというものだ!ハハハハハハ!」

「クソ野郎…。全部、お前のせいだったのね。ステラを苦しめたお前を、私は絶対に赦さないわ!」

今にも魔物の王に飛びかかって行きそうな巫女をフェーイレーン殿が押さえる。
しかし、俺の忍耐もそろそろ限界に近かった。
そんな俺達を嘲笑うかのように、魔物の王は、更なる事実を告げる。


「それだけではないぞ?我が奪ったこの体の持ち主は、精神干渉に特化した元異能者だということを忘れたか?さすがに、同じ異能者の精神に触れる事は無理だったが、只人の異能者の番を闇に引き摺り込むのは簡単だった。お前達の中にも、狂っていく番を目の当たりにした者がいるだろう?そうだ!そうだ!全て我がやった!アハハハ!」



狂った番…。
俺はそれをよく知っている。
母は、こいつに狂わされたのか?

急に、腹の奥から酷い吐き気が込み上げてきた。咄嗟に俺は、魔物の王の胸ぐらを離し、口を押さえる。
その瞬間、俺の体が横からの強い力で突き飛ばされた。






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