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「ステラは、どちらの国のドレスが着たいの?」

「そうだな。ステラの好みだと、どうなんだ?」

ヴェイル様と姫様が、身を乗り出して私に迫ってきた。隣に座るヴェイル様なんて、私の肩に前足を乗せて、触れる寸前まで顔を寄せている。


「で、でも、あの…。結婚は、どうなるか、まだ分かりませんし…。」
思わず私がそう答えると、不満を露わにしたヴェイル様に咎められた。


「ステラ、俺達は、この先ずっと一緒だと約束しただろう。それとも、貴女は、いつか俺から離れていくつもりなのか?」

「ち、違います。私も、ヴェイル様とずっと一緒にいたいです。でも、私、先のことって、まだよく分からなくて、それで…。」

自分の不安定な未来が、こんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
先を思い描くことが、こんなに難しいことだなんて知らなかった。

私は、どうしたらいいの?
結婚って、家族になるって、どういうこと?

不安で、不安で、私はヴェイル様の温かな体温に縋り付いた。そこからは、力強い心音が聞こえる。
その音を聞いていると、自分ではどうする事も出来なかった不安定な気持ちが、次第に落ち着きを取り戻していった。


「俺は、ステラとの未来しか望まない。そこはもう、受け入れるしかないと諦めてくれ。」

ヴェイル様から向けられた言葉は、私の胸を締め付けるほど苦しくて、それでいて甘やかだった。
私は、抱きついたヴェイル様の首元で、一つの頷きを返した。



「フフフ、先ずは、二人でしっかり話し合う必要があるみたいね。でも、私は、その分準備期間が確保出来るわ!二人は、思う存分、イチャイチャしてから結ばれちゃいなさい!」

「ひ、姫、さま…。」
姫様の明け透けな言葉に、私はヴェイル様の首元から顔を上げられなくなってしまった。
そんな私の頭を、ヴェイル様が齧ったので、私は定位置化している右手に巻き付いた尻尾を少しだけ強く握り返した。







日付けが変わる頃、私達は就寝のために、一度解散することになった。
でも、冴えてしまった私の頭は、中々眠りに就いてはくれなかった。


「眠れないのか?」

「す、すみません。起こしてしまいましたか?」

私の寝たふりは、ヴェイル様にバレていたらしい。
ヴェイル様の眠りを邪魔しないように、なるべく動かないように気を付けていたんだけど、通用しなかったみたいだ。

私が使っているベッドから、少し離れたソファで丸くなっていたヴェイル様が、こちらに顔を向けている。


「いや、元々、いつ呼ばれてもいいように、寝るつもりはなかった。獣人は、体力だけはあるからな。一日ぐらい寝なくても全く問題ない。だから、俺は大丈夫だ。でも、ステラは、少しでも寝た方がいい。」

「はい。」

ヴェイル様の言葉に従って、寝返りを打った後、目を瞑る。でも、やっぱり眠気はやって来なかった。

すると、私が横になっているベッドが大きく軋む。そして、背中に温もりを感じた。





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