平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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「カーネリアン陛下、私と取引をしませんか?」

「わしと其方が取引だと?そんな暇はないんだが…。」

相変わらずの無表情で、こちらに視線を向けるカーネリアン王に、私は背筋を伸ばして告げた。


「私からは、知識を提供します。その代わり、ヴェイル様にお力添えを。」

「知識だと?確かに、先程の理論は面白かったが、其方のような小娘が持つ知識など高が知れている。その程度で、わしが満足するわけなかろう。馬鹿にしているのか?」

カーネリアン王の平坦な態度の中に、確かな怒りを感じる。それでも、私は、怯む事なく次の言葉を紡いだ。


「ご心配には及びません。私の知識は、極上です。何しろ、サージェント王アデライード様の下で得た知識ですから。」

「うむ。大国サージェントに集まる知識は、素晴らしいものだろう。が、うろ覚えで語られても困るのだがな。」

訝しむようなカーネリアン王に、私は少しだけ笑顔を乗せて、自信満々に答えた。


「私は、一度読んだ文章は、決して忘れません。目を通した本は、一字一句間違えることなく諳んじられます。如何ですか?この知識、欲しくはありませんか?」

一時の沈黙が、部屋の全ての動きを止める。その空気を一番に解かしたのは、ヴェイル様だった。


「ステラが優秀だとは思っていたが、それは、本当に凄いな…。アデライード陛下達が絶賛していた理由がよく分かった。」

「バレリーさんが作る資料には、過去の事例や数値が、記載されているものが多かったので、とても分かりやすく、読み手側としては助かっていました。ですが、それはきっと、バレリーさんが既にお持ちの知識だったのですね。驚きです。」


ヴェイル様とニルセン様に見つめられて、少し居心地が悪い。
二人は褒めてくれたけど、私はただ、人より物覚えがいいだけ。そこから何かを新しく生み出せるわけではない。
だから、そんな風に手放しで褒められると背中がむず痒い。


「…本当なのか?其方の頭には、サージェントの知識が詰まっていると?人間の知恵は、細やかで繊細だ。そして、多岐にわたる分野に複雑に絡み合っている。だから、より奥が深い。其方の中には、それが集約されてあるのだな。なんと素晴らしい…。わしにも、その鱗片を見せてくれ。」

「はい!では、取引成立ですね。」

「ああ。」

良かった!上手くいった!
これで、災厄を退ける一歩が踏み出せる!

私は嬉しくて、思わずヴェイル様の首に抱きついてしまった。
くっつけた私の耳から、微かにヴェイル様が喉を鳴らす音が聞こえた。その可愛い音に益々気分を高揚させていると、ペロリと頬を舐められ、鼻先で頸を擽られる。
さすがに恥ずかしくなって正気に戻った私は、一度ヴェイル様から手を離す。すると、今度は唇の端を軽く舐められた。


「ヴェ、ヴェ、ヴェイル様!」

「優秀なステラは、俺のだからな。マーキングしておいた。」
ニヤリと牙を見せて笑ったヴェイル様は、私が開けた距離を詰めて、体をピッタリ寄せてきた。


顔が熱い。
恥ずかしすぎて、ニルセン様とカーネリアン王の反応を見られない。
私は、両手で真っ赤に染まった顔を隠した。




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