上 下
107 / 163

3-15

しおりを挟む
「バレリーさん、また会えて嬉しいです。」

「あの時は、お別れの挨拶もせずに、すみませんでした。あれだけお世話になったのに。」

「いいえ。理由は団長から聞きました。あれは、どう考えても悪いのは団長ですよ。それよりも…、フッ。」

「おい。」
私の隣にいたヴェイル様が、牙を剥き出して唸り出す。刺すような殺気が漂う中、それを吹き飛ばす場違いな笑い声が響き渡った。


「フフッ。だ、団長が、フフフ。我らが獣人騎士団の団長が、猫に。そ、その首輪、よくお似合いです。アハハハ!」

「おい、ニルセン!」
黒豹姿のヴェイル様を見て、ニルセン様が笑い転げている。
そんなニルセン様へ、ヴェイル様が爪を剥き出して飛びかかっていた。




ヴェイル様が言っていた毒に耐性のある人物とは、ニルセン様のことだった。正確には、ニルセン様の実家の蛇獣人一族。
彼らには、強力な毒耐性があり、自然毒、魔法性毒のどちらも殆ど効かないのだそうだ。


そんな蛇の一族の協力を得るべく、ヴェイル様は、その場で姫様から許可を取ると、すぐにサウザリンド王国とイザリア聖国を転移魔法陣で繋いでしまった。そして、一族との橋渡し役としてニルセン様をこちらに呼び寄せたのだ。




「ニルセン、ヴァングレーフの一族の協力を得られるか?」
ヴェイル様は、深刻な表情でニルセン様に問いかける。


「もちろん、と言いたい所ですが、団長もご存知の通り、私の一族はアレですからね…。」

「だな…。」
二人が大き過ぎる溜息を同時に吐き出した。


「族長は、団長が説得して下さい。私では、話にならないと思いますので。」

「…分かった。何とかしよう。」


二人とも、物凄く嫌な顔をしている。
そんなに嫌なのかな?
そう言えば、以前、ニルセン様は自分の実家を毛嫌いしていると聞いた。
どうしてなんだろう。


「ステラ、俺はこれから、ヴァングレーフに行く。あの一族は特殊で、俺が説得しないと駄目なんだ。だが、のんびりしている時間はない。このまま乗り込むから、ステラも付いてきて欲しい。」

ニルセン様の様子を窺っていると、突然、ヴェイル様がこちらに振り返った。
それに、私は、ほぼ反射的に頷いて返す。

すると、ずっと黙ってヴェイル様とニルセン様のやり取りを見ていた姫様が、声を上げて反対した。


「勝手に決めないでくれないかしら?偵察は必要だけど、今、ステラを神殿から出すのは危険よ?魔物の王が目覚めたせいで、ステラの中の魔核が活性化しているの。ステラの位置がバレちゃうわ。」

「だが、俺はステラを置いて行く気はない!」

「もう!これだから本能で動く獣人は!何で、世界の危機に進んで協力しないのよ!」
姫様は、ソファの肘置きに拳を叩きつけると、すぐに立ち上がった。
そして、私の後ろに回り、きっちり結んだ赤毛に触れる。


「ごめんね、ステラ。」
切ない声で呟いた姫様が、私の髪を解き始めた。
私は、姫様の行動を不思議に思いつつも、大人しく受け入れる。すると、焦った顔のヴェイル様が、私の視界に入った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

龍王の番

ちゃこ
恋愛
遥か昔から人と龍は共生してきた。 龍種は神として人々の信仰を集め、龍は人間に対し加護を与え栄えてきた。 人間達の国はいくつかあれど、その全ての頂点にいるのは龍王が纏める龍王国。 そして龍とは神ではあるが、一つの種でもある為、龍特有の習性があった。 ーーーそれは番。 龍自身にも抗えぬ番を求める渇望に翻弄され身を滅ぼす龍種もいた程。それは大切な珠玉の玉。 龍に見染められれば一生を安泰に生活出来る為、人間にとっては最高の誉れであった。 しかし、龍にとってそれほど特別な存在である番もすぐに見つかるわけではなく、長寿である龍が時には狂ってしまうほど出会える確率は低かった。 同じ時、同じ時代に生まれ落ちる事がどれほど難しいか。如何に最強の種族である龍でも天に任せるしかなかったのである。 それでも番を求める龍種の嘆きは強く、出逢えたらその番を一時も離さず寵愛する為、人間達は我が娘をと龍に差し出すのだ。大陸全土から若い娘に願いを託し、番いであれと。 そして、中でも力の強い龍種に見染められれば一族の誉れであったので、人間の権力者たちは挙って差し出すのだ。 龍王もまた番は未だ見つかっていないーーーー。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

離縁してください旦那様

ルー
恋愛
近年稀にみる恋愛結婚で結ばれたシェリー・ランスとルイス・ヤウリアは幸せの絶頂にいた。 ランス伯爵家とヤウリア伯爵家の婚姻は身分も釣り合っていて家族同士の付き合いもあったからかすんなりと結婚まで行った。 しかしここで問題だったのはシェリーは人間族でルイスは獣人族であるということだった。 獣人族や龍族には番と言う存在がいる。 ルイスに番が現れたら離婚は絶対であるしシェリーもそれを認識していた。 2人は結婚後1年は幸せに生活していた。 ただ、2人には子供がいなかった。 社交界ではシェリーは不妊と噂され、その噂にシェリーは傷つき、ルイスは激怒していた。 そんなある日、ルイスは執務の息抜きにと王都の商店街に行った。 そしてそこで番と会ってしまった。 すぐに連れ帰ったルイスはシェリーにこう言った。 「番を見つけた。でも彼女は平民だから正妻に迎えることはできない。だから離婚はなしで、正妻のまま正妻として仕事をして欲しい。」 当然シェリーは怒った。 「旦那様、約束は約束です。離縁してください。」 離縁届を投げつけ家を出たシェリーはその先で自分を本当に愛してくれる人と出会う

利用されるだけの人生に、さよならを。

ふまさ
恋愛
 公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。  アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。  アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。  ──しかし。  運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるクレーナは、ある時婚約者であるラカールから婚約破棄を告げられた。 彼は浮気しており、その相手との間に子供ができたことから、クレーナのことを切り捨てざるを得なかったのだ。 しかしながらラカールは、煮え切らない態度であった。彼は渋々といった感じで、浮気相手と婚約しようとしていたのだ。 身勝手なことをしたというのに、責任を取る確固たる覚悟もない彼に対して、クレーナは憤った。だがラカールは、婚約破棄するのだから関係ないと、その言葉を受け入れないのだった。 婚約者から離れたクレーナは、侯爵令息であるドラグスと出会った。 二人はお互いに惹かれていき、やがて婚約を結ぶことになるのだった。 そんな折、二人の前に元婚約者であるラカールが現れた。 彼はドラグスのことを批判して、クレーナには相応しくないと批判してきたのである。 「浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか?」 しかしクレーナは、ラカールをそう言って切り捨てた。 そこで彼女は知ることになった。ラカールが自分の知らない間に、随分と落ちぶれていたということを。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...