平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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それからの姫様の行動は早かった。
各国に第三の災厄の来襲を伝えると異能者達と連携を取り始めたのだ。
そんな中、相変わらず私は、イザリア聖国で、することもない日々を送っている。


みんなが忙しく動いているのに、狙われている私がこれでいいの?

時間が過ぎる度に、その想いが私の中で膨れ上がっていった。



悶々とした気持ちに折り合いをつけられないでいると、姫様から数日ぶりのお呼びがきた。
姫様もヴェイル様もあれから忙しそうで、ずっと姿を見ていなかったのだ。


「ステラ、この神殿は、結界が張ってあるから易々と魔物は入って来られないのだけれど、安全のために貴女に護衛を付けるわね。」
笑顔の姫様は、開口一番にそう言い放った。


「護衛、ですか?」

「そうよ。頑張ってね、ステラ!」


頑張る?
私は何を頑張ればいいの?

私が首を捻っている内に、立ち上がった姫様は、軽い足取りで応接間を縦断していく。そして、廊下へ続く扉を勢いよく開いた。

すると、そこから大きな黒い影が入ってきた。


「フフ、首輪はステラの髪色にしてみたの!似合っているでしょう?ちょっと、不貞腐れているけれど、噛まないから大丈夫!可愛がってあげてね!」

姫様の横から姿を現したのは、大きなリボンを首に巻いた黒豹だった。
上機嫌な姫様に対峙する黒豹の黄金の瞳には、剣呑な光が宿っている。
その目がこちらを捉えた瞬間、黒豹は、私が座っているソファに飛び乗ってきた。不機嫌そうにそっぽを向いているものの、スリスリと寄ってきた尻尾が、私の腕に巻き付く。
その感触に覚えのある私は、恐る恐る黒豹に声を掛けた。


「ヴェ、ヴェイル、さ、ま?」

「…グルゥ…。」
振り返った黒豹は、渋々といった態度で、私の手に額を擦り付けた。


「あら、可愛い。私には、触らせてもくれなかったのに。大好きなステラには従順なのね。」

「ひ、姫様!そんな事を言っては…!」

「いいのよ、殿下も納得したのだから。護衛といえど、未婚のステラに、四六時中、男性を貼り付けておく訳にはいかないでしょう?ゆえに、獣の姿は色々と都合がいいの。そうでしょう、殿下?」

そうは言っても、黒豹姿のヴェイル様は、私の隣で姫様を威嚇していた。


一部の獣人は、獣の姿を取ることが出来るらしい。けれど、それは、獣人の中では忌避される行為なのだそうだ。


きっと、ヴェイル様も凄く嫌なんだろうな。
でも、そこまでして、ヴェイル様は私を守ってくれる。

私は、瞳を潤ませた顔を見せたくなくて、俯き気味に頭を下げた。


「ありがとうございます、ヴェイル様。なるべくご迷惑をお掛けしないよう心がけます。よろしくお願いします。」
ポタリポタリとソファに私の涙が落ちる。それをスカートの裾で拭おうとすると、ヴェイル様が自分の額を私の頭に擦り寄せた。


「ステラは、俺が側にいて嫌ではないか?」

顔を上げたそのすぐ前には、黒豹姿でも変わらない黄金に輝く瞳があった。私は、その瞳から視線を逸らすことなく、口を開く。


「ずっと、ずっと、お会いしたかったです。ごめんなさい、ヴェイル様。私、貴方を拒絶して、酷い事を言ってしまいました。ごめんなさい、ごめんなさい。私、貴方を傷付けてしまいました。でも、ヴェイル様の側にいたいんです。」

「ああ、ステラ…。ずっと側にいる。これからは、ずっと一緒だ。」

私の体は、いつの間にか逞しい腕の中に包まれていた。

私は、その体温を少しでも多く感じたくて、広い背に手を伸ばした。



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