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私達がいた部屋は、半地下の備品倉庫だった。残念ながら、部屋にある唯一の窓は小さく、そこからは外に出られない。
覚悟を決めて、扉から出ることに決めた私達は、すぐに準備を始めた。
まず、ニルセン様が、部屋に掛けられていた鍵を解除する。
私は、その間にニルセン様から貰った魔力で魔法を使った。


「大丈夫。間違いなく、隠匿の魔法がかかっています。」

「良かった...。では、行きましょう、ニルセン様。」

私達は、なるべく音を立てないように階段を登る。登りきった先にあった頑丈な扉を開けると、綺麗に磨かれた大理石の廊下に出た。


「大丈夫ですか、ニルセン様?」
ふらついたニルセン様を、私はなんとか肩で受け止めた。
覗き込んだニルセン様の顔色が悪い。呼吸も荒くて、これ以上彼を歩かせることは出来なかった。
私は扉の開いていた部屋に入って、一先ず、ニルセン様を座らせた。


「ニルセン様...。」
私は、持っていたハンカチで、ニルセン様の額の汗を拭った。

こんな事しか出来ない自分が悔しい。

無力な自分に打ちひしがれていると、ニルセン様が穏やかな声で話しかけてきた。


「不思議ですね。隠匿の魔法は、私の血筋に代々伝わる固有魔法なのですが。」

「私は、人から得た魔力で、魔法を使うことが出来るんです。ニルセン様の魔力は、隠匿魔法に特化していたので、私も使うことが出来ました。」

「バレリーさんのその力は、団長のためにあるのかもしれませんね...。」

「え?」

これは、実験による副作用で得た力だった。
そんな力、忌むべきものだと思っていた。
主人にも決して使ってはいけないと、きつく言われていた。
だから、ニルセン様にそう言われて、自分の中にあった根本が覆されてしまった気がした。


「いえ、今は、その話はやめましょう。バレリーさん、まだ私の魔力は残っていますか?」

「はい。」

「良かった。では、そこの窓から外に出て、そのまま庭を突っ切って下さい。ここは、おそらく王都のバルガンデイル公爵邸。敷地から出れば、目の前は王宮です。私はここで隠れていますから、行って下さい。」

「で、でも!」

「私は、これ以上歩けません。足手纏いの私を連れて行けば、確実に捕まります。バレリーさんも体内の魔力が尽きれば動けなくなってしまう。だから、行って下さい。」

確かに、この出血量では、ニルセン様を動かせない。
悔しい。
無力な自分が憎い。

私は唇を噛み締めた。


「ニルセン様、お借りしたピアスの魔力は、まだ使っていません。このピアスを使って、ここに隠れていて下さい。ピアスの魔力が尽きるまでに、必ず戻って来ます。ですから、待っていて下さい。」
私は、ニルセン様の手にピアスを握らせた。
そして、決意が鈍る前にニルセン様から離れ、窓枠に手を掛ける。
窓を開けたその時、私の背後に、毒のような息苦しい気配を感じた。


「やっと見つけた。逃がさないわよ。ゴミはここで処分するわ。」



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