平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

文字の大きさ
上 下
65 / 163

2-18

しおりを挟む
それから、キャロライン様は、昼夜問わず気まぐれに私を呼び出した。
その時は、必ずニルセン様もメルデン様も、私の側にはいない。いつもいるはずの警備の騎士達もどこにも姿が見えなかった。
きっと、キャロライン様の協力者が、どこかにいるのだろう。
常に誰かに監視されているようで、私は気を緩めることが出来なかった。


「ヴェイル様...。」
ヴェイル様に打ち明けようかと思った。きっと、ヴェイル様なら助けてくれるから。

でも、その度に、キャロライン様に言われた言葉が、私の口を塞いだ。
ゴミの分際でヴェイル様に迷惑をかけるなと言われたまま負けたくなかったのだ。


「ごめんなさい、ヴェイル様。」
私の我儘が、ヴェイル様とキャロライン様の関係を邪魔してしまっている。ヴェイル様は、私の治療の協力をしてくれているだけなのに。
それでも、もう少しだけヴェイル様の側にいたいと、私はそう思ってしまった。



自分の体の状態が良くない事は、もう随分前から分かっていた。だから、いつ死が訪れてもいいように、覚悟して生きてきた。

そんな私に、ヴェイル様は未来の可能性をくれた。普通の女の子のように生きられる可能性を。
ヴェイル様がくれる魔力のおかげで、私の傷痕は、日に日に薄くなってきている。
それが、どれほど私の希望になっているか。

ヴェイル様の大きくて温かい手が好き。
落ち着いた声が好き。
微笑んだ時の優しい瞳が好き。

初めは、私を受け入れてくれたヴェイル様に依存していたんだと思う。でも、それがいつの間にか、恋に変わっていた。
これが恋だと気付いた時には、もう心がヴェイル様に落ちていた。



「ごめんなさい、ヴェイル様。もう少しだけ、あと少しだけ、お側にいさせて下さい。私、ちゃんとお別れする準備をしますから。だからどうか、もう少しだけ...。」

この治療が永遠に続けばいいのにと、私は卑怯なことを願わずにはいられなかった。






今日もキャロライン様に呼び出され、左頬を火の魔法で焼かれた。令嬢達から受ける折檻は、回数を重ねるごとに苛烈さを増している。
キャロライン様の回復魔法で、体の傷は消えても、私の精神はそろそろ限界に近かった。
それでも、ヴェイル様との限られた時間を自ら捨てることは出来なかった。



「ねえ、わたくし何度も言ったわよね?ヴェイル殿下と、食事も休憩も一緒に取っては駄目よって。ゴミは言葉まで理解出来なくなってしまったの?」

「ああ!」
踏まれた腕が、嫌な音を立てて折れ曲がる。私は、あまりの痛みに叫び声を上げた。


「もう、殺してしまおうかしら。脆弱な人間の国との同盟なんて、どうでもいい気がするのよ。そう思わない?ヴェイル殿下は、神に選ばれた異能者だもの!分かってくれるわよね!」

「そうですよ!」

「キャロライン様がお願いすれば、殿下も分かって下さいますよ!」



令嬢達の残酷な言葉が、私の落ちそうになる意識を繋ぎ止める。
私は、折れた腕で必死に体を起こした。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

処理中です...