平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

文字の大きさ
上 下
68 / 163

*ヴェイル視点 17

しおりを挟む
下ろした天蓋の隙間から入り込んだ夕日が、俺のベッドに広がる美しい真紅の髪を照らす。
深く眠ってしまったステラは、呼びかけても何の反応も示さない。
俺は、彼女の頬に張り付いた髪を、優しく払い除けた。


普段、ステラの治療はゼイン医官用の客間で、女性医官と共に行っていた。しかし、今回は、王宮内の俺の私室に無理矢理ステラを囲い込んで行った。
強引ではあったが、突然倒れたステラを守るためには仕方がなかった。


「すまない、ステラ。だが、今回は赦してほしい。」

魔力を送るために乱してしまった胸元を直そうと、俺は慎重に手を伸ばす。
なるべく肌を見ないようにと、視線を逸らしたその時、肌着の装飾とは違う鮮やかな模様が目に入った。


「これが、ステラの聖花か。」
ステラの胸元からは、金の絵の具で書かれたような大輪の花の一部が覗いていた。
母上の聖花は、父上の瞳の色と同じ、青い花だった。
ステラのこれは、俺の色。それは、ステラが俺の番である紛れもない証だった。


「ステラ...。」
俺の魔力に浮かされたステラは、ずっと俺に縋っていた。側にいて欲しいと。
俺を好きだとも言ってくれた。

嬉しかった。
そこまで俺を慕ってくれるステラが愛おしかった。

だが、寂しい、捨てないで、一人にしないで、と泣くステラに、胸を締め付けられる程の罪悪感も感じた。



「ステラ、俺も貴女が好きだ。貴女の全てを愛してる。」

俺は、寝ているステラの額に、口付けを落とした。



コンコン

小さなノックの後、気配を消したニルセンが部屋の中に入ってきた。
俺は、ベッドに座ったまま、ニルセンに話しかけた。今は、少しでもステラの側を離れたくなくて。

「どうだった?」

「団長、バレリーさんとの関係が噂されていましたよ?宜しいのですか?」

ステラを自室へ連れ込む際、人目も気にせず、堂々と彼女を抱き上げて王宮内を歩いた。その上、近衛騎士に、人払いまでさせたのだ。今頃は、ステラが俺の愛人だとでも噂されているのだろう。


「ああ、今回は仕方ない。それで?何か分かったか?」

「はい。マイリー・バルゼンとリセイル・ネイゼルは、バレリーさんを連れ出していました。申し訳ありません、我々の落ち度です。短時間でしたので、完全に油断していました。」


バルゼンとネイゼルは、他の騎士や文官と共謀して、ニルセンとメルデンを出し抜いていた。二人には、常に、どちらかがステラについていると巧妙に錯覚させていたのだ。
まさか、仲間に裏切り者がいたとは。


「バルゼンとネイゼルは、ステラをどこへ連れ出していたんだ?」

「キャロライン・バルガンデイル公爵令嬢の客間です。」

「そうか。」

あの女か...。
バルガンデイル公爵家の末娘キャロラインは、まるで自分が、王女であるかのように権力を振り翳す嫌な女だった。
最近は、番のいない俺の婚約者を自称し、側室候補まで勝手に集め出していた。
いい加減目障りで、現バルガンデイル公爵ごと排除しようとしていたのだ。

だが、ステラに手を出したのなら、家の断絶など生優しいものでは済まさない。
死が安寧に思える程の地獄を見せてやる。


「団長、メルデンが、マイリー・バルゼンとリセイル・ネイゼルを捕えました。どうしますか?」

俺は、暗い天蓋の中で、決してステラには見せられない笑みを浮かべた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。 政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。 国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。 だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...