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王宮の敷地の端にある転移魔法陣の管理塔から戻ってくる間、私とヴェイル殿下は、ポツポツとたわいもない話をした。
初めの内は、少しだけギクシャクしてしまったけど、この短い間で打ち解けられたと思う。
それを、良かったと、心から嬉しいと思う自分にびっくりした。
でも、ヴェイル殿下の側は、不思議と落ち着くのだ。


「仕事は、明日からで問題ないか?」

「はい、団長。」

「ステラ、その、あれだ。俺の事を、団長、と呼ぶのはやめないか?」

「やっぱり、おかしかったでしょうか?ニルセン様にも言われたのですが。」

「いや、何と言えばいいか。決して変ではないんだ。俺の問題だな。違和感というか...。」

「では、今まで通り、殿下、とお呼び致します。」

「あー、うん。いや。それも、何だか...。」
ヴェイル殿下は、どちらとも付かない返事を呟くと、突然、意を決したように地面に落としていた視線を上げた。どこか期待に満ちた眼差しを私に向けながら。


「では、ヴェイルと呼んでくれ。」

「あの、それは、いいのでしょうか?」

「ああ、もちろんだ。」

以前にも、同じ事を言われた。その時は恐れ多くて、どう断るかばかり考えていたけど。
でも、呼んでみたいと、期待に応えたいと、今の私はそう思った。
この方は、無能な私も、醜い傷痕も避けないでくれたから。


「...ヴェイル、様。」
勇気を出して名前を呼ぶと、ヴェイル殿下が私から視線を逸らし、小さく呟いた。


「もう一度。」

「え、えっと、ヴェイル、様。」

「ああ。」
赤い顔でにっこり笑ったヴェイル殿下に、私の心臓が痛いくらい高鳴った。







「良かった!仲良くなってくれて。」
王宮の一室、ゼイン先生が使っている客間に入ると、開口一番に先生からそう言われた。


仲良くなれたのかしら?
嫌われていないなら嬉しい。

私はそっと、自分の両頬に手を置いた。


「さあ、ステラも座って。治療の方法を説明するからね。」
私は、ゼイン先生に従って、ヴェイル様に向き合う形で座った。


「では、殿下、これを。」
ゼイン先生が、ヴェイル様に差し出したのは、黒のスカーフ。
私とヴェイル様の頭には、同時にハテナのマークが浮かんだ。


「ゼイン医官、これは?」

「殿下には、これで視界を遮ってほしいのですよ。見えちゃうので。」

「見える、とはいったい?」
ヴェイル様が困惑した表情で、スカーフを見つめている。
疑問に思った私も、二人の不思議な会話に耳を傾けた。


「殿下には、今回の治療から直接ステラの心臓に魔力を流してもらいます。つまり、殿下は、ステラの胸元に直に触れるのですよ。目隠ししないと見えちゃうでしょ?」

「「え!?」」

私とヴェイル様が、同時に声を上げた。




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