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*ヴェイル視点 11
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「団長、緊急案件です。」
竜討伐の後処理で、書類仕事が続いていた俺は、凝り固まった体を動かすべく、騎士達に混じって剣を振っていた。
そこへ、慌てた様子のニルセンが駆け寄ってくる。
「何があった?」
「団長、まさかまだ、バレリーさんに夜会のエスコートを申し出ていないのですか?」
「は?」
唐突に、ニルセンから予想外の事を言われ、構えていた力が抜ける。
「団長、もうすぐ終幕の夜会なのですよ!しかも今回は、ガイル陛下肝入りの催しもあるのです。ここでバレリーさんを誘わないで、どうするのですか!会議に参加した各国の使用人達も、夜会に出席可能なのですから、バレリーさんも気負わずに楽しめるはずです。今すぐ誘ってきて下さい!」
力説するニルセンの勢いに呑まれながらも、俺は冷静に考える。
今回の終幕の夜会は、中庭を挟んで向き合う第一ホールと第二ホールを開放した大規模なものになる。それに伴い、招待する客層も幅広い。誰でも気兼ねなく、他国の要人と交流が持てるよう、なるべく格式ばったものは省いたと、兄上が言っていた。感謝を込めて、招待客にドレスや宝飾品を用意するのだとも。
身分を問わない気楽な夜会であれば、ステラもきっと楽しめるだろう。
ステラと夜会か...。
彼女には、どんなドレスが似合うだろうか。
「バレリーさんにドレスを贈らなくてよろしいのですか?今なら、何とか間に合うのでは?」
ニルセンの誘惑に、俺の心が激しく揺れる。
サウザリンドでは、意中の女性に、自分の色の入ったドレスを贈って好意を伝えるという習わしがあった。そのドレスを着た女性とダンスを踊ることが出来れば、それ以降、他の男が、二人の関係に割り込むことはない。
つまり、人前で堂々と、この女は自分のものだと、宣言出来るのだ。
だが、俺とステラにはまだ早い。
ステラは、俺の気持ちを知らないのだから。自分が、俺の番であるということでさえ。
もちろん、それをすぐに受け入れてもらえるとも思っていない。
しかし、もし...。
ステラがもし、贈ったドレスに俺の存在を感じてくれたら。
少しでも、俺を意識してくれたなら。
いや、女性に察してもらうなど、卑怯な手法だ。
「ニルセン、夜会当日、俺は、朝から兄上の補佐をしなければならない。警備こそ免除されてはいるが、ずっとステラの側にいることは不可能だ。」
「はい、分かっています。ですが、ダンスぐらいは可能かと。」
「ああ、そうだな。」
ステラが、俺の気持ちに気付いてくれなくても構わない。美しく着飾って、旨い物を食べて、暫く別れる同僚達と煌びやかな世界を楽しんでくれたら、それだけで十分だ。
もしそれで、ほんの少し、俺とも時間を共有してくれたなら...。
「ステラに、ドレスを贈ろうと思う。手配を頼めるか?」
「もちろんです、団長。お任せを。」
騎士の礼を取ったニルセンが、すぐに踵を返す。
俺も訓練を切り上げて、王族専用の衣装室へ足を向けた。恥を忍んで、古くから知るベテランの針子に、ステラへ贈るドレスの意見を聞くために。
竜討伐の後処理で、書類仕事が続いていた俺は、凝り固まった体を動かすべく、騎士達に混じって剣を振っていた。
そこへ、慌てた様子のニルセンが駆け寄ってくる。
「何があった?」
「団長、まさかまだ、バレリーさんに夜会のエスコートを申し出ていないのですか?」
「は?」
唐突に、ニルセンから予想外の事を言われ、構えていた力が抜ける。
「団長、もうすぐ終幕の夜会なのですよ!しかも今回は、ガイル陛下肝入りの催しもあるのです。ここでバレリーさんを誘わないで、どうするのですか!会議に参加した各国の使用人達も、夜会に出席可能なのですから、バレリーさんも気負わずに楽しめるはずです。今すぐ誘ってきて下さい!」
力説するニルセンの勢いに呑まれながらも、俺は冷静に考える。
今回の終幕の夜会は、中庭を挟んで向き合う第一ホールと第二ホールを開放した大規模なものになる。それに伴い、招待する客層も幅広い。誰でも気兼ねなく、他国の要人と交流が持てるよう、なるべく格式ばったものは省いたと、兄上が言っていた。感謝を込めて、招待客にドレスや宝飾品を用意するのだとも。
身分を問わない気楽な夜会であれば、ステラもきっと楽しめるだろう。
ステラと夜会か...。
彼女には、どんなドレスが似合うだろうか。
「バレリーさんにドレスを贈らなくてよろしいのですか?今なら、何とか間に合うのでは?」
ニルセンの誘惑に、俺の心が激しく揺れる。
サウザリンドでは、意中の女性に、自分の色の入ったドレスを贈って好意を伝えるという習わしがあった。そのドレスを着た女性とダンスを踊ることが出来れば、それ以降、他の男が、二人の関係に割り込むことはない。
つまり、人前で堂々と、この女は自分のものだと、宣言出来るのだ。
だが、俺とステラにはまだ早い。
ステラは、俺の気持ちを知らないのだから。自分が、俺の番であるということでさえ。
もちろん、それをすぐに受け入れてもらえるとも思っていない。
しかし、もし...。
ステラがもし、贈ったドレスに俺の存在を感じてくれたら。
少しでも、俺を意識してくれたなら。
いや、女性に察してもらうなど、卑怯な手法だ。
「ニルセン、夜会当日、俺は、朝から兄上の補佐をしなければならない。警備こそ免除されてはいるが、ずっとステラの側にいることは不可能だ。」
「はい、分かっています。ですが、ダンスぐらいは可能かと。」
「ああ、そうだな。」
ステラが、俺の気持ちに気付いてくれなくても構わない。美しく着飾って、旨い物を食べて、暫く別れる同僚達と煌びやかな世界を楽しんでくれたら、それだけで十分だ。
もしそれで、ほんの少し、俺とも時間を共有してくれたなら...。
「ステラに、ドレスを贈ろうと思う。手配を頼めるか?」
「もちろんです、団長。お任せを。」
騎士の礼を取ったニルセンが、すぐに踵を返す。
俺も訓練を切り上げて、王族専用の衣装室へ足を向けた。恥を忍んで、古くから知るベテランの針子に、ステラへ贈るドレスの意見を聞くために。
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