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また見られてる...。
う、ううっ、気まずい。
天幕の片隅で、正書作業に集中していた私は、度々送られてくるヴェイル殿下の視線に、正直、辟易していた。
「バレリー様、休憩にしましょう。お茶を淹れますね。何か飲みたいものはありますか?」
護衛として控えていたニルセン様が、チラチラとヴェイル殿下を窺いながら、私に休憩を促してくれた。
「は、はい!あ、お茶ですね!私、お水貰って来ます!」
気疲れしていた私にとって、ニルセン様の提案は、凄く有り難かった。
でも、ニルセン様にこれ以上、雑用なんてさせられない。
私は仕事を中断して、椅子から腰を上げた。すると、それに逸早く反応したヴェイル殿下も立ち上がる。
「待て。貴女が行くなら...。」
「大丈夫です、殿下!丁度、紙を切らしてしまったので、取りに行きたかったのです!すぐに戻りますね!」
ヴェイル殿下の言葉を遮って、私は気まずい空間から逃げ出した。
この遣り取りも、今日何度目になるか...。
ヴェイル殿下は、本当にどうしちゃったの?
一定の距離はあるものの、ずっと何かを言いたそうにしているのだ。
私から聞いてみた方がいいのかしら?
でも、やっぱり気まずい。
「はあ。」
私は、今日一番の大きな溜息を空に向かって吐き出した。
「ステラーー!」
気持ちを落ち着かせるために、ゆっくり歩いていると、前方からアレン様が駆け寄って来た。
「大丈夫?疲れてるみたいだけど、何かあった?」
「い、いいえ、何もないですよ。ずっと細かい文字を見ていたので、少し目が疲れてしまったみたいです。」
「そう?嫌な事されたら、すぐ僕に言うんだよ。即、国に連れ帰ってあげるからね!」
「ふふ、ありがとうございます。」
アレン様が、私の頭を少しだけ強く撫でた。
アレン様の気遣いのおかげで、心の疲れが消えていく。
「あっ、そうだ!ほら、あーん。」
アレン様が、腰のポケットから小さな包みを取り出して、中身を私の口に押し付けた。
口の中に入ってきた砂糖菓子が、私の舌の上で溶ける。
「美味しい?」
私は、口一杯に広がった甘味に浸りながら、首を縦に振った。
「じゃあ、もう一個。あーん。」
子供のようで恥ずかしいけれど、今の私は、甘い物の誘惑に抗えない。私は、素直に口を開けた。
そこへ、凍てつく空気が、背後から這い寄ってきた。
「おい。」
殺気を帯びた魔力が、重力に加わって、私の肩を押さえつける。恐怖に固まった私の体は、そこから全く動けなくなってしまった。
「団長、落ち着いて下さい!バレリー様、戻りましょう。」
いつの間に来たのか、ニルセン様が私の背後に立っていた。
私は促されるまま、アレン様に声も掛けず、踵を返す。その間、なぜか激怒しているヴェイル殿下の顔を、私は見ることが出来なかった。
天幕へ戻ってきた私は、ノロノロと自分の椅子に座る。そこへ、ニルセン様が湯気を立てたカップを置いた。
「大丈夫ですよ。少し状況が変わって、ピリピリしているだけですから。」
「私が、殿下を怒らせてしまった訳ではないのですか?」
「ご心配なく。バレリー様のせいではありませんから。先程、調査に出ていた騎士から報告を受けたのですが、どうやらこの森に、大型の魔物が潜んでいたようなのです。」
う、ううっ、気まずい。
天幕の片隅で、正書作業に集中していた私は、度々送られてくるヴェイル殿下の視線に、正直、辟易していた。
「バレリー様、休憩にしましょう。お茶を淹れますね。何か飲みたいものはありますか?」
護衛として控えていたニルセン様が、チラチラとヴェイル殿下を窺いながら、私に休憩を促してくれた。
「は、はい!あ、お茶ですね!私、お水貰って来ます!」
気疲れしていた私にとって、ニルセン様の提案は、凄く有り難かった。
でも、ニルセン様にこれ以上、雑用なんてさせられない。
私は仕事を中断して、椅子から腰を上げた。すると、それに逸早く反応したヴェイル殿下も立ち上がる。
「待て。貴女が行くなら...。」
「大丈夫です、殿下!丁度、紙を切らしてしまったので、取りに行きたかったのです!すぐに戻りますね!」
ヴェイル殿下の言葉を遮って、私は気まずい空間から逃げ出した。
この遣り取りも、今日何度目になるか...。
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一定の距離はあるものの、ずっと何かを言いたそうにしているのだ。
私から聞いてみた方がいいのかしら?
でも、やっぱり気まずい。
「はあ。」
私は、今日一番の大きな溜息を空に向かって吐き出した。
「ステラーー!」
気持ちを落ち着かせるために、ゆっくり歩いていると、前方からアレン様が駆け寄って来た。
「大丈夫?疲れてるみたいだけど、何かあった?」
「い、いいえ、何もないですよ。ずっと細かい文字を見ていたので、少し目が疲れてしまったみたいです。」
「そう?嫌な事されたら、すぐ僕に言うんだよ。即、国に連れ帰ってあげるからね!」
「ふふ、ありがとうございます。」
アレン様が、私の頭を少しだけ強く撫でた。
アレン様の気遣いのおかげで、心の疲れが消えていく。
「あっ、そうだ!ほら、あーん。」
アレン様が、腰のポケットから小さな包みを取り出して、中身を私の口に押し付けた。
口の中に入ってきた砂糖菓子が、私の舌の上で溶ける。
「美味しい?」
私は、口一杯に広がった甘味に浸りながら、首を縦に振った。
「じゃあ、もう一個。あーん。」
子供のようで恥ずかしいけれど、今の私は、甘い物の誘惑に抗えない。私は、素直に口を開けた。
そこへ、凍てつく空気が、背後から這い寄ってきた。
「おい。」
殺気を帯びた魔力が、重力に加わって、私の肩を押さえつける。恐怖に固まった私の体は、そこから全く動けなくなってしまった。
「団長、落ち着いて下さい!バレリー様、戻りましょう。」
いつの間に来たのか、ニルセン様が私の背後に立っていた。
私は促されるまま、アレン様に声も掛けず、踵を返す。その間、なぜか激怒しているヴェイル殿下の顔を、私は見ることが出来なかった。
天幕へ戻ってきた私は、ノロノロと自分の椅子に座る。そこへ、ニルセン様が湯気を立てたカップを置いた。
「大丈夫ですよ。少し状況が変わって、ピリピリしているだけですから。」
「私が、殿下を怒らせてしまった訳ではないのですか?」
「ご心配なく。バレリー様のせいではありませんから。先程、調査に出ていた騎士から報告を受けたのですが、どうやらこの森に、大型の魔物が潜んでいたようなのです。」
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