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「...テラ、...ステラ!大丈夫?顔色が真っ青よ?」
「ごめんね。起こしちゃった?」
「私の事はいいの!ああ、体まで冷え切ってるじゃない。」
そう言って同僚のアンナが、ぼうっと鏡の前に佇んでいた私にカーディガンを掛けてくれた。
使用人寮のルームメイトであるアンナは、私と同じく、この城で侍女をしている。2つ年上の彼女は、私にとって頼れるお姉さん的な存在。
「私、今日は早番だから、もう行くわね。ステラ、あんまり無理しちゃ駄目よ。分かった?」
「うん。分かった。気を付ける。」
アンナが部屋を出て行くと、私も仕事の準備を始めた。
12歳で王城の主に引き取られた私は、今年で18歳の成人を迎えた。
元奴隷の私が、今や一国の王の侍女。
つくづく運命とは、分からないものだ。
鏡の前で、私は赤い髪を一つに纏める。そこに王専属の侍女服を着れば、いつも通りの自分の完成だ。
紺色の飾り気のない侍女服に、表情の乏しい地味な私。
どこにいても埋もれてしまう自分に、私は安堵と、そして落胆の溜息を漏らした。
ダメね。
気持ちを切り替えなきゃ。
さあ、今日も仕事仕事!
私は、アンナが淹れてくれたココアを一気に飲み干した。
「おはようございます、アデライード様。」
「おはよう、ステラ。お前は今日も早いな。」
背筋を伸ばして一際豪華な扉を開くと、私の主人、サージェント王国女王アデライード様が、本日も麗しい姿で執務を行っていた。
アデライード様は、普段から彼女専用の軍服を着用している。その凛々しい姿に違わず、有事の際は、主人自ら剣を振るうこともあった。
黄金の長い髪を靡かせ、舞う様に剣を振るう主人は、大柄な騎士達の中にいても一際輝く。
アデライード様の美しさは、正に別格なのだ。
その手に剣を持っても、花を持っても美しい。既に四十歳を越えているにもかかわらず、その姿は私を助けてくれた六年前からちっとも変わっていない。
そんな主人は、誰よりも尊敬できる私の大切な人。
「陛下、こちらは本日の会議に出席する貴族のリストでございます。」
「ああ、ありがとう。前回、このリストには助けられた。ステラ、何度も言うが、私の秘書官になる気はないか?」
「陛下、有難いお話ですが、元奴隷の私にはあまりにも分不相応でございます。」
主人からは、文官への昇格を推薦されていた。でも、今以上の役職は、私には無理。
私は目立たず主人の役に立てれば、それでいい。
「まったく、欲のない。お前の働きは、皆が認めているのだぞ?やっかみなら、私が対処してやる。」
何の後ろ盾もない私が、アデライード様の専属侍女であることを良く思わない人もいた。酷い嫌がらせを受けたこともある。
けれど、終始頭を低くして過ごし、目立たない存在であり続けた結果、結婚相手を探す令嬢や出世欲のある令息からは、私は認識されなくなった。
これでいい。
これが私の正しい立ち位置なのだから。
「まあいいか。今はな。そう言えば、ステラ。医局長がお前を呼んでいたぞ。」
「あ、はい。後で一度、顔を出します。」
「最近体調は大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで。」
「そうか、あまり無理をするなよ。」
「はい、ありがとうございます。」
誰かに心配してもらえることが嬉しい。
それが大好きな人からだからこそ、とても幸せ。
温かな感情が詰まった胸を押さえて、私は仕事に集中した。
「ごめんね。起こしちゃった?」
「私の事はいいの!ああ、体まで冷え切ってるじゃない。」
そう言って同僚のアンナが、ぼうっと鏡の前に佇んでいた私にカーディガンを掛けてくれた。
使用人寮のルームメイトであるアンナは、私と同じく、この城で侍女をしている。2つ年上の彼女は、私にとって頼れるお姉さん的な存在。
「私、今日は早番だから、もう行くわね。ステラ、あんまり無理しちゃ駄目よ。分かった?」
「うん。分かった。気を付ける。」
アンナが部屋を出て行くと、私も仕事の準備を始めた。
12歳で王城の主に引き取られた私は、今年で18歳の成人を迎えた。
元奴隷の私が、今や一国の王の侍女。
つくづく運命とは、分からないものだ。
鏡の前で、私は赤い髪を一つに纏める。そこに王専属の侍女服を着れば、いつも通りの自分の完成だ。
紺色の飾り気のない侍女服に、表情の乏しい地味な私。
どこにいても埋もれてしまう自分に、私は安堵と、そして落胆の溜息を漏らした。
ダメね。
気持ちを切り替えなきゃ。
さあ、今日も仕事仕事!
私は、アンナが淹れてくれたココアを一気に飲み干した。
「おはようございます、アデライード様。」
「おはよう、ステラ。お前は今日も早いな。」
背筋を伸ばして一際豪華な扉を開くと、私の主人、サージェント王国女王アデライード様が、本日も麗しい姿で執務を行っていた。
アデライード様は、普段から彼女専用の軍服を着用している。その凛々しい姿に違わず、有事の際は、主人自ら剣を振るうこともあった。
黄金の長い髪を靡かせ、舞う様に剣を振るう主人は、大柄な騎士達の中にいても一際輝く。
アデライード様の美しさは、正に別格なのだ。
その手に剣を持っても、花を持っても美しい。既に四十歳を越えているにもかかわらず、その姿は私を助けてくれた六年前からちっとも変わっていない。
そんな主人は、誰よりも尊敬できる私の大切な人。
「陛下、こちらは本日の会議に出席する貴族のリストでございます。」
「ああ、ありがとう。前回、このリストには助けられた。ステラ、何度も言うが、私の秘書官になる気はないか?」
「陛下、有難いお話ですが、元奴隷の私にはあまりにも分不相応でございます。」
主人からは、文官への昇格を推薦されていた。でも、今以上の役職は、私には無理。
私は目立たず主人の役に立てれば、それでいい。
「まったく、欲のない。お前の働きは、皆が認めているのだぞ?やっかみなら、私が対処してやる。」
何の後ろ盾もない私が、アデライード様の専属侍女であることを良く思わない人もいた。酷い嫌がらせを受けたこともある。
けれど、終始頭を低くして過ごし、目立たない存在であり続けた結果、結婚相手を探す令嬢や出世欲のある令息からは、私は認識されなくなった。
これでいい。
これが私の正しい立ち位置なのだから。
「まあいいか。今はな。そう言えば、ステラ。医局長がお前を呼んでいたぞ。」
「あ、はい。後で一度、顔を出します。」
「最近体調は大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで。」
「そうか、あまり無理をするなよ。」
「はい、ありがとうございます。」
誰かに心配してもらえることが嬉しい。
それが大好きな人からだからこそ、とても幸せ。
温かな感情が詰まった胸を押さえて、私は仕事に集中した。
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