下剋上を始めます。これは私の復讐のお話

ハルイロ

文字の大きさ
上 下
292 / 308

7-57

しおりを挟む
私が住まう中央教会から馬車で30分程行った所に、重病患者を収容する医療施設がある。その奥まった一室に、ダリア様は軟禁されていた。

私は面会の要請をするとすぐに、ローズとライ、アリアを連れてダリア様の下に向かった。


ダリア様がいる部屋の周りには、至る所に聖騎士が配置されていた。
簡素な建物に、黒の騎士服を着た男性達が立ち並ぶ光景は、どこか異様で、凄く近寄り難い。


私達が到着すると、事前に聞いていたのか、
扉の前にいた聖騎士が、直ぐに扉を開けてくれた。
ライを扉の前に残し、私達は女性だけで部屋へと入った。



部屋の中は、ベッドと小さなサイドテーブル以外は何もない、少し寂しい空間だった。


「誰?」
ベッドに上半身を起こして、窓の方を向いていたダリア様が、こちらに振り返った。


「ダリア様...。」

「ああ、やっぱり来たのね。」

ポツリと諦めたように呟いたダリア様の瞳は、白く濁ってしまっていた。あの美しかった真紅の瞳は、もう見られない。


レーグ様から聞いた報告の一つに、ダリア様の目のことがあった。
目が覚めた彼女は、両目共にその視力を失っていた。



「惨めな私を笑いに来たんでしょう?あの時、殺してくれても良かったのに。」
強気なダリア様の態度とは裏腹に、視線は不安からか宙を彷徨っている。
そんなダリア様に、私はどうしても聞きたかった疑問を投げかけた。


「ダリア様、ダンジョン内で会った貴女は、不浄の魔力に囚われていました。本当にあれが貴女の意志だったのですか?」

「お父様に見捨てられた私に、甘い声が囁いたの。それからずっと、その声は私と共にあった。でも、私は操られてなんかいない。私は、初めから貴女が嫌いだった。羨ましくて、羨ましくて...。貴女の場所に、取って代わりたかった。貴女を愛しむウィルフレイ様が欲しかったの。」
ダリア様が光を失った瞳から、大粒の涙を溢す。


「...じゃない。貴女には、美しさも地位も財産も才能まであるのよ。私に一つくらいくれたっていいじゃない!」

「そう、ですか。ねえ、ダリア様。人のものを欲しいと泣いて縋って、それで得られたものに、貴女は満足出来ましたか?人の欲は、無限です。楽に手に入る方法を知れば、間違いなくそれを繰り返すでしょう。そうして手に入れたものを、貴女はこれまで大切にしてきましたか?貴女はウィルを手に入れたとしても、満足出来ませんよ。」

「な、何も知らないくせに!私の苦しみを理解出来ない貴女に、何も言われたくないわ!」
興奮したダリア様が、ベッドの上で身を乗り出す。


「それは、お互い様です。だから人は、言葉で歩み寄るのですよ?与えられるだけでは駄目なんです。愛されることは、当たり前ではないのです。」


「だって、だって。私は...。」

泣き崩れるダリア様に、私は残酷な言葉を送る。これは、決めていたことだから。


「ダリア様、貴女をこれから、僻地の教会へ送ります。そこでは、貴女のことを知る人は誰もいません。その名前すら、捨ててもらいます。目も見えず、魔法も使えない貴女は、この先苦労するでしょう。今まで当たり前だった助けはありません。そこで、人の優しさの有り難みを噛み締めながら生きて下さい。」

私は、アリアにダリア様の診察を頼み、部屋を出た。


「さようなら、ダリア様。」

これからは、世界に翻弄されない貴女だけの人生を生きて。

ただ私は、彼女の幸福だけを願った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。 能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。 しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。 ——それも、多くの使用人が見ている中で。 シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。 そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。 父も、兄も、誰も会いに来てくれない。 生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。 意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。 そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。 一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。 自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...