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私が住まう中央教会から馬車で30分程行った所に、重病患者を収容する医療施設がある。その奥まった一室に、ダリア様は軟禁されていた。
私は面会の要請をするとすぐに、ローズとライ、アリアを連れてダリア様の下に向かった。
ダリア様がいる部屋の周りには、至る所に聖騎士が配置されていた。
簡素な建物に、黒の騎士服を着た男性達が立ち並ぶ光景は、どこか異様で、凄く近寄り難い。
私達が到着すると、事前に聞いていたのか、
扉の前にいた聖騎士が、直ぐに扉を開けてくれた。
ライを扉の前に残し、私達は女性だけで部屋へと入った。
部屋の中は、ベッドと小さなサイドテーブル以外は何もない、少し寂しい空間だった。
「誰?」
ベッドに上半身を起こして、窓の方を向いていたダリア様が、こちらに振り返った。
「ダリア様...。」
「ああ、やっぱり来たのね。」
ポツリと諦めたように呟いたダリア様の瞳は、白く濁ってしまっていた。あの美しかった真紅の瞳は、もう見られない。
レーグ様から聞いた報告の一つに、ダリア様の目のことがあった。
目が覚めた彼女は、両目共にその視力を失っていた。
「惨めな私を笑いに来たんでしょう?あの時、殺してくれても良かったのに。」
強気なダリア様の態度とは裏腹に、視線は不安からか宙を彷徨っている。
そんなダリア様に、私はどうしても聞きたかった疑問を投げかけた。
「ダリア様、ダンジョン内で会った貴女は、不浄の魔力に囚われていました。本当にあれが貴女の意志だったのですか?」
「お父様に見捨てられた私に、甘い声が囁いたの。それからずっと、その声は私と共にあった。でも、私は操られてなんかいない。私は、初めから貴女が嫌いだった。羨ましくて、羨ましくて...。貴女の場所に、取って代わりたかった。貴女を愛しむウィルフレイ様が欲しかったの。」
ダリア様が光を失った瞳から、大粒の涙を溢す。
「...じゃない。貴女には、美しさも地位も財産も才能まであるのよ。私に一つくらいくれたっていいじゃない!」
「そう、ですか。ねえ、ダリア様。人のものを欲しいと泣いて縋って、それで得られたものに、貴女は満足出来ましたか?人の欲は、無限です。楽に手に入る方法を知れば、間違いなくそれを繰り返すでしょう。そうして手に入れたものを、貴女はこれまで大切にしてきましたか?貴女はウィルを手に入れたとしても、満足出来ませんよ。」
「な、何も知らないくせに!私の苦しみを理解出来ない貴女に、何も言われたくないわ!」
興奮したダリア様が、ベッドの上で身を乗り出す。
「それは、お互い様です。だから人は、言葉で歩み寄るのですよ?与えられるだけでは駄目なんです。愛されることは、当たり前ではないのです。」
「だって、だって。私は...。」
泣き崩れるダリア様に、私は残酷な言葉を送る。これは、決めていたことだから。
「ダリア様、貴女をこれから、僻地の教会へ送ります。そこでは、貴女のことを知る人は誰もいません。その名前すら、捨ててもらいます。目も見えず、魔法も使えない貴女は、この先苦労するでしょう。今まで当たり前だった助けはありません。そこで、人の優しさの有り難みを噛み締めながら生きて下さい。」
私は、アリアにダリア様の診察を頼み、部屋を出た。
「さようなら、ダリア様。」
これからは、世界に翻弄されない貴女だけの人生を生きて。
ただ私は、彼女の幸福だけを願った。
私は面会の要請をするとすぐに、ローズとライ、アリアを連れてダリア様の下に向かった。
ダリア様がいる部屋の周りには、至る所に聖騎士が配置されていた。
簡素な建物に、黒の騎士服を着た男性達が立ち並ぶ光景は、どこか異様で、凄く近寄り難い。
私達が到着すると、事前に聞いていたのか、
扉の前にいた聖騎士が、直ぐに扉を開けてくれた。
ライを扉の前に残し、私達は女性だけで部屋へと入った。
部屋の中は、ベッドと小さなサイドテーブル以外は何もない、少し寂しい空間だった。
「誰?」
ベッドに上半身を起こして、窓の方を向いていたダリア様が、こちらに振り返った。
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「ああ、やっぱり来たのね。」
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目が覚めた彼女は、両目共にその視力を失っていた。
「惨めな私を笑いに来たんでしょう?あの時、殺してくれても良かったのに。」
強気なダリア様の態度とは裏腹に、視線は不安からか宙を彷徨っている。
そんなダリア様に、私はどうしても聞きたかった疑問を投げかけた。
「ダリア様、ダンジョン内で会った貴女は、不浄の魔力に囚われていました。本当にあれが貴女の意志だったのですか?」
「お父様に見捨てられた私に、甘い声が囁いたの。それからずっと、その声は私と共にあった。でも、私は操られてなんかいない。私は、初めから貴女が嫌いだった。羨ましくて、羨ましくて...。貴女の場所に、取って代わりたかった。貴女を愛しむウィルフレイ様が欲しかったの。」
ダリア様が光を失った瞳から、大粒の涙を溢す。
「...じゃない。貴女には、美しさも地位も財産も才能まであるのよ。私に一つくらいくれたっていいじゃない!」
「そう、ですか。ねえ、ダリア様。人のものを欲しいと泣いて縋って、それで得られたものに、貴女は満足出来ましたか?人の欲は、無限です。楽に手に入る方法を知れば、間違いなくそれを繰り返すでしょう。そうして手に入れたものを、貴女はこれまで大切にしてきましたか?貴女はウィルを手に入れたとしても、満足出来ませんよ。」
「な、何も知らないくせに!私の苦しみを理解出来ない貴女に、何も言われたくないわ!」
興奮したダリア様が、ベッドの上で身を乗り出す。
「それは、お互い様です。だから人は、言葉で歩み寄るのですよ?与えられるだけでは駄目なんです。愛されることは、当たり前ではないのです。」
「だって、だって。私は...。」
泣き崩れるダリア様に、私は残酷な言葉を送る。これは、決めていたことだから。
「ダリア様、貴女をこれから、僻地の教会へ送ります。そこでは、貴女のことを知る人は誰もいません。その名前すら、捨ててもらいます。目も見えず、魔法も使えない貴女は、この先苦労するでしょう。今まで当たり前だった助けはありません。そこで、人の優しさの有り難みを噛み締めながら生きて下さい。」
私は、アリアにダリア様の診察を頼み、部屋を出た。
「さようなら、ダリア様。」
これからは、世界に翻弄されない貴女だけの人生を生きて。
ただ私は、彼女の幸福だけを願った。
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