288 / 308
7-53
しおりを挟む
「ウィル!駄目よ!」
ウィルが、ナイフを首筋に当てる。
ナイフを伝って、一筋の血が流れ落ちた。
「ゴホッ、ウィル、お願い。こんな事やめて!」
私はウィルの腕を掴んで、ナイフを止めた。
微かにウィルの腕が震えている。
「リ、ル...。ダメだ、離れて。また意識が。」
ウィルの右目に赤が混じって、段々と紫色に変わってきていた。
「くっ...。ダメだ。」
ウィルが突然、頭を抱えて蹲った。その拍子にナイフが掠め、私の腕から血が流れる。
ウィルからは、ダリア様と同じ魔力が溢れ出ていた。
どうしたらいいの?
私の死を願う魔力が、ウィルを苦しめている。
どうしたら、ウィルを助けられるの?
頭を抱え、唸っていたウィルが、その動きを止めた。
そして、ゆっくり顔を上げる。
ウィルの瞳は、青を消し去り、完全な赤に変わっていた。そこには、はっきりと私への殺意が見える。
「メリアお嬢様!逃げて下さい!お嬢様!」
懸命に私を呼ぶ声が聞こえる。
逃げる?逃げてもいいの?
ウィルはナイフを構え、私に向けた。
怖い。
死にたくない。
体から自分が消えていく、あの死の感覚はもう味わいたくない。
私は、転移の魔法を編み上げた。
けれど、最後の発動段階に達した時、なぜか私の中の魔力が流れを止めた。
もう一つの意識が、逃げることを拒否したのだ。
私は死よりも怖い事を、経験したでしょ?
大切な家族との永遠の別れ。
会いたいのに、会えない。愛してると二度と伝えられない悲しみは、今も私を苦しめている。
もう理花には戻れない苦痛を、いつもどこかで感じてきた。
今逃げれば、ウィルとはもう二度と会えないかもしれない。
リルメリアには、それが耐えられるの?
ウィルは、もういらない?
本当に?
私は、魔法を編む手を止め、ウィルを見つめた。
ウィルの体の奥底、丁度魔力が生まれる場所に、赤く染まった魔力の塊を見つけた。
あれを消し去れば、ウィルは正気に戻る。
私の残りの魔力は少ない。
その魔力で、ウィルの魔力の根元まで辿り着けるだろうか。
うんん。
ウィルを信じよう。
ウィルはきっと、リルメリアを拒んだりしない。たとえ意識がなくても、受け入れてくれる。
大丈夫。
私は、ウィルの赤い瞳を真っ直ぐに見据えた。
そして、彼をただ受け入れた。
ウィルがナイフを向けたまま、私には歩み寄る。
無抵抗の私に、ウィルの持つナイフが、深々と刺さった。
「グッ...。」
見つめ合っていたウィルの瞳が、揺れている。
大丈夫。
ウィルには、まだ意識が残っている。
ウィルが私に向けたナイフは、急所を大きく避け、左肩に刺さっていた。
「大丈夫、よ。今、助けて、あげる。」
私は、ウィルの胸に手を伸ばした。
ウィルが、ナイフを首筋に当てる。
ナイフを伝って、一筋の血が流れ落ちた。
「ゴホッ、ウィル、お願い。こんな事やめて!」
私はウィルの腕を掴んで、ナイフを止めた。
微かにウィルの腕が震えている。
「リ、ル...。ダメだ、離れて。また意識が。」
ウィルの右目に赤が混じって、段々と紫色に変わってきていた。
「くっ...。ダメだ。」
ウィルが突然、頭を抱えて蹲った。その拍子にナイフが掠め、私の腕から血が流れる。
ウィルからは、ダリア様と同じ魔力が溢れ出ていた。
どうしたらいいの?
私の死を願う魔力が、ウィルを苦しめている。
どうしたら、ウィルを助けられるの?
頭を抱え、唸っていたウィルが、その動きを止めた。
そして、ゆっくり顔を上げる。
ウィルの瞳は、青を消し去り、完全な赤に変わっていた。そこには、はっきりと私への殺意が見える。
「メリアお嬢様!逃げて下さい!お嬢様!」
懸命に私を呼ぶ声が聞こえる。
逃げる?逃げてもいいの?
ウィルはナイフを構え、私に向けた。
怖い。
死にたくない。
体から自分が消えていく、あの死の感覚はもう味わいたくない。
私は、転移の魔法を編み上げた。
けれど、最後の発動段階に達した時、なぜか私の中の魔力が流れを止めた。
もう一つの意識が、逃げることを拒否したのだ。
私は死よりも怖い事を、経験したでしょ?
大切な家族との永遠の別れ。
会いたいのに、会えない。愛してると二度と伝えられない悲しみは、今も私を苦しめている。
もう理花には戻れない苦痛を、いつもどこかで感じてきた。
今逃げれば、ウィルとはもう二度と会えないかもしれない。
リルメリアには、それが耐えられるの?
ウィルは、もういらない?
本当に?
私は、魔法を編む手を止め、ウィルを見つめた。
ウィルの体の奥底、丁度魔力が生まれる場所に、赤く染まった魔力の塊を見つけた。
あれを消し去れば、ウィルは正気に戻る。
私の残りの魔力は少ない。
その魔力で、ウィルの魔力の根元まで辿り着けるだろうか。
うんん。
ウィルを信じよう。
ウィルはきっと、リルメリアを拒んだりしない。たとえ意識がなくても、受け入れてくれる。
大丈夫。
私は、ウィルの赤い瞳を真っ直ぐに見据えた。
そして、彼をただ受け入れた。
ウィルがナイフを向けたまま、私には歩み寄る。
無抵抗の私に、ウィルの持つナイフが、深々と刺さった。
「グッ...。」
見つめ合っていたウィルの瞳が、揺れている。
大丈夫。
ウィルには、まだ意識が残っている。
ウィルが私に向けたナイフは、急所を大きく避け、左肩に刺さっていた。
「大丈夫、よ。今、助けて、あげる。」
私は、ウィルの胸に手を伸ばした。
1
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
この誓いを違えぬと
豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」
──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。
なろう様でも公開中です。
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません
真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)
との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。
今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。
ヤバいです。肝心な事を忘れて、
「林檎一切れゲットー」
なんて喜んでたなんて。
本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん
ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。
「わしはメイドじゃねえですが」
「そうね、メイドには見えないわね」
ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。
ーーーーーー
タイトル改変しました。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる