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「ウィル!駄目よ!」
ウィルが、ナイフを首筋に当てる。
ナイフを伝って、一筋の血が流れ落ちた。


「ゴホッ、ウィル、お願い。こんな事やめて!」
私はウィルの腕を掴んで、ナイフを止めた。
微かにウィルの腕が震えている。


「リ、ル...。ダメだ、離れて。また意識が。」
ウィルの右目に赤が混じって、段々と紫色に変わってきていた。


「くっ...。ダメだ。」
ウィルが突然、頭を抱えて蹲った。その拍子にナイフが掠め、私の腕から血が流れる。
ウィルからは、ダリア様と同じ魔力が溢れ出ていた。


どうしたらいいの?
私の死を願う魔力が、ウィルを苦しめている。
どうしたら、ウィルを助けられるの?


頭を抱え、唸っていたウィルが、その動きを止めた。
そして、ゆっくり顔を上げる。
ウィルの瞳は、青を消し去り、完全な赤に変わっていた。そこには、はっきりと私への殺意が見える。



「メリアお嬢様!逃げて下さい!お嬢様!」
懸命に私を呼ぶ声が聞こえる。


逃げる?逃げてもいいの?


ウィルはナイフを構え、私に向けた。



怖い。
死にたくない。
体から自分が消えていく、あの死の感覚はもう味わいたくない。

私は、転移の魔法を編み上げた。
けれど、最後の発動段階に達した時、なぜか私の中の魔力が流れを止めた。
もう一つの意識が、逃げることを拒否したのだ。



私は死よりも怖い事を、経験したでしょ?

大切な家族との永遠の別れ。
会いたいのに、会えない。愛してると二度と伝えられない悲しみは、今も私を苦しめている。
もう理花には戻れない苦痛を、いつもどこかで感じてきた。

今逃げれば、ウィルとはもう二度と会えないかもしれない。
リルメリアには、それが耐えられるの?
ウィルは、もういらない?
本当に?



私は、魔法を編む手を止め、ウィルを見つめた。
ウィルの体の奥底、丁度魔力が生まれる場所に、赤く染まった魔力の塊を見つけた。
あれを消し去れば、ウィルは正気に戻る。

私の残りの魔力は少ない。
その魔力で、ウィルの魔力の根元まで辿り着けるだろうか。

うんん。
ウィルを信じよう。
ウィルはきっと、リルメリアを拒んだりしない。たとえ意識がなくても、受け入れてくれる。
大丈夫。


私は、ウィルの赤い瞳を真っ直ぐに見据えた。
そして、彼をただ受け入れた。

ウィルがナイフを向けたまま、私には歩み寄る。
無抵抗の私に、ウィルの持つナイフが、深々と刺さった。


「グッ...。」
見つめ合っていたウィルの瞳が、揺れている。

大丈夫。
ウィルには、まだ意識が残っている。

ウィルが私に向けたナイフは、急所を大きく避け、左肩に刺さっていた。


「大丈夫、よ。今、助けて、あげる。」
私は、ウィルの胸に手を伸ばした。




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