下剋上を始めます。これは私の復讐のお話

＊ウィルフレイ視点 14

ずっと私の隣にいたリルは、日を追う毎に綺麗になっていった。10代半ばを過ぎた頃からは、魅惑的な女性の色香まで放つようになった。
それに加えて、アルト商会の次期商会長という圧倒的な財力と天才的な魔法の才まで持ち合わせている。

リルは当然、社交界一の大輪花、と言われるようになった。

そんなリルには、私という婚約者がいながらも、日々多くの縁談が舞い込んでいた。

リルの肩書に目を付けた貴族ならまだ良かった。その程度なら何とかなる。
でも、最近は王家や王族に準ずる公爵家まで、リルに興味を示していた。


リルの私への愛情を疑ったことはない。
けれど、貴族の結婚は、愛だけでは結ばれない。

私の中には、少しずつ焦りが募っていった。





そんな時、シルヴァンフォード公爵家の使いが、秘密裏に我が家へ訪ねてきた。


斜陽のシルヴァンフォード公爵家。
公爵家は莫大な財産を保有しながらも、長らく社交界から遠ざかっていた。

その発端は、当時のシルヴァンフォード公爵の離婚、そして突然の死だった。離婚した公爵夫妻には子供がいなかったため、前公爵が老体に鞭を打って、再び公爵の地位に就いたと、以前、貴族の間で話題になった。


そんな公爵家から私に、次期公爵位継承の打診が来たのだ。



何を今更。
今まで一度たりとも、私に会いに来た事などないというのに。


私は、リングドン夫妻の実子ではない。
正確には、リングドン子爵の妹の子だった。


生みの母は、体の弱い女性だったそうだ。ある夜会で母は、若きシルヴァンフォード公爵と一夜の恋に落ち、私を身籠った。
しかし、公爵には婚約者がいた。現国王の姉ルドリアーシャ様という婚約者がいるにもかかわらず、二人は関係を持ってしまったのだ。

王家の怒りを恐れた公爵は、母を切り捨て、王女との結婚を強行した。

隠れるように私を生んだ母は、失意の内に亡くなった。
そんな曰く付きの私を引き取ってくれたのが、リングドン夫妻だった。


リングドン家は、私を家族として受け入れてくれた。
幸せだった。父、母、二人の兄達、みんな大好きだ。薬草園の仕事も天職だと思っていた。




でも、それでも...。
公爵家への怒り、大切な家族、その全てを捨てても、私は...、あの時の私は、権力を望んだ。リルを奪われない、絶対的な力を。


リングドンの家族は、私の決断を快く受け入れてくれた。しかし、私の存在はあまりにも複雑だった。