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ウィルは、私の体を強く抱き締めると、右手を空中の黒竜へ向けた。
粉塵が舞う空に、沢山の鋭利に輝く光が現れる。
「落ちろ。」
囁きに似たウィルの言葉が、光を鋭い刃に変えた。その刃が、一直線に黒竜へ向かって放たれる。
厚い鱗を難なく突き破った光の刃は、黒竜を地へと落とした。
断末魔の叫び声を上げ、黒竜は地面をのた打つ。
「さっすがー、ウィル君!今のは強烈な光魔法だったねー!でも、君さ、いつまでリルちゃんに抱きついてるの?」
「いけませんか?」
「当たり前でしょ!さっさと放しなさい!」
空から降り立ったルーイ先生が、ウィルから私を引き離そうと近づいて来た。ウィルは私を抱えたまま、それをヒラリと躱す。
「ウ、ウィル、放して。」
「ダメだよ、リル。危ないから、このままここにいて。」
更に抱き込まれて、耳元に甘く囁かれる。
嫌なのに、もうこの腕の中は私の場所ではないのに、体が動かない。
私の心と体がチグハグで、塞がっているはずの心の傷が痛んだ。
「いい加減にしなさいよ!今のリルちゃんを見てみろ!」
ルーイ先生が、珍しく本気で怒っている。先生の怒気に当てられ、空気が重く張り詰めた。
「ごめん、リル。ごめん、君を傷付けるつもりはなかったんだ。ただ、リルを守りたくて。お願いだ。そんな顔しないで。」
私の顔を覗き込むウィルと目が合った。ウィルが、辛そうな顔でこちらを見ている。
ウィルの瞳に映った私の顔は、不安に怯えていた。
ウィルの側は、離れ難いほどに温かい。でも痛くて苦しい。息が出来なくなる程に、胸を締め付けられる。
だから側にはいたくない。
弱い自分に戻りたくはないから。
私はウィルの腕に手を置くと、そっと彼から離れた。
「ギャー!」
地面に倒れていた黒竜が、再び翼を広げて立ち上がる。けれど、翼が傷付き飛ぶことは出来ないようだ。
黒竜は最後の力を振り絞り、後ろ足で地面を掻いた。その口に炎を滴らせて。
私はすぐ様、地面に手を翳し、魔力を流す。地面から無数に伸びた蔦が、黒竜の体に巻きついた。
拘束された黒竜の巨体が、大きな音と土煙を立てて、地へと倒れる。
「ゲイツ君、今だよ!」
「分かり、ましたよッ!」
ルーイ先生の合図で、ゲイツが黒竜に向かって走る。
風を纏ったゲイツが、黒竜の頭上へ高く飛ぶと、その剣を迷いなく振り下ろした。
黒竜は声を上げることなく、動きを止める。
そしてその体は、土の塊のように、脆く崩れていった。
粉塵が舞う空に、沢山の鋭利に輝く光が現れる。
「落ちろ。」
囁きに似たウィルの言葉が、光を鋭い刃に変えた。その刃が、一直線に黒竜へ向かって放たれる。
厚い鱗を難なく突き破った光の刃は、黒竜を地へと落とした。
断末魔の叫び声を上げ、黒竜は地面をのた打つ。
「さっすがー、ウィル君!今のは強烈な光魔法だったねー!でも、君さ、いつまでリルちゃんに抱きついてるの?」
「いけませんか?」
「当たり前でしょ!さっさと放しなさい!」
空から降り立ったルーイ先生が、ウィルから私を引き離そうと近づいて来た。ウィルは私を抱えたまま、それをヒラリと躱す。
「ウ、ウィル、放して。」
「ダメだよ、リル。危ないから、このままここにいて。」
更に抱き込まれて、耳元に甘く囁かれる。
嫌なのに、もうこの腕の中は私の場所ではないのに、体が動かない。
私の心と体がチグハグで、塞がっているはずの心の傷が痛んだ。
「いい加減にしなさいよ!今のリルちゃんを見てみろ!」
ルーイ先生が、珍しく本気で怒っている。先生の怒気に当てられ、空気が重く張り詰めた。
「ごめん、リル。ごめん、君を傷付けるつもりはなかったんだ。ただ、リルを守りたくて。お願いだ。そんな顔しないで。」
私の顔を覗き込むウィルと目が合った。ウィルが、辛そうな顔でこちらを見ている。
ウィルの瞳に映った私の顔は、不安に怯えていた。
ウィルの側は、離れ難いほどに温かい。でも痛くて苦しい。息が出来なくなる程に、胸を締め付けられる。
だから側にはいたくない。
弱い自分に戻りたくはないから。
私はウィルの腕に手を置くと、そっと彼から離れた。
「ギャー!」
地面に倒れていた黒竜が、再び翼を広げて立ち上がる。けれど、翼が傷付き飛ぶことは出来ないようだ。
黒竜は最後の力を振り絞り、後ろ足で地面を掻いた。その口に炎を滴らせて。
私はすぐ様、地面に手を翳し、魔力を流す。地面から無数に伸びた蔦が、黒竜の体に巻きついた。
拘束された黒竜の巨体が、大きな音と土煙を立てて、地へと倒れる。
「ゲイツ君、今だよ!」
「分かり、ましたよッ!」
ルーイ先生の合図で、ゲイツが黒竜に向かって走る。
風を纏ったゲイツが、黒竜の頭上へ高く飛ぶと、その剣を迷いなく振り下ろした。
黒竜は声を上げることなく、動きを止める。
そしてその体は、土の塊のように、脆く崩れていった。
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