247 / 308
7-14
しおりを挟む
執務室に入ると、朝早くから神官達が大量の手紙を仕分けていた。
「朝からお疲れ様。それは昨日届いたものかしら?」
「おはようございます、聖女様。はい、こちらは市民から届いたもので、机にあるものが正式な嘆願書です。」
所狭しと積み重なった紙の山に、日々の状況の悪化が伝わってくる。
今は、アルト商会にも協力を要請して、デルを中心に魔力補填薬の開発を進めているところだ。
でも、そもそもの原因が分からない。
ニセン王国で発症者が出てしまった時、近くにいた私は、すぐにそこへ駆けつけた。けれど、発症者の体に、それらしい原因を見つけることは出来なかった。彼らはただ、魔力を失っていただけで、体に外傷などはなかったのだ。その地域にも気になるようなものは何も見当たらなかった。
「いったい原因は、何なのかしら?」
少しずつ世界が侵食されていくような、そんな不気味な感覚。
私の大切なものを奪われる、あの感覚を否が応でも思い起こされた。
「リルメリア、少しいいか?」
「あ、はい、レーグ様。」
レーグ様は硬い表情で部屋に入ってくると、すぐに人払いをした。ただならぬ雰囲気に、私の体は緊張で強張る。
「初めに言っておくが、決めるのは貴女だ。我々はただ、貴女の決定に従う。」
レーグ様の覚悟と優しさが籠った言葉に、私は頷いて返した。
「アーレントから正式に、聖女に対して救援要請が届いた。信書はグレイス王妃とアルバス大使の連名で書かれていた。王の名ではないのは異例だが、アーレント王と王太子は病に倒れたと聞いた。現状、王妃が政務を取り仕切っているのだろう。あちらも中々厳しい状況だな。」
「そうですか。その信書はもう受け取りましたか?」
「いや、まだ概要を使者から確認しただけだ。使者の入国も許可していない。全ては、貴女の決定待ちだ。」
アーレント王国は、自国での解決を諦めた。その最後の希望が私だなんてね。なんて皮肉な運命なのかしら。
でも私がここで断れは、間違いなく被害は広がる。発症者がこれだけ増えている今、なるべく早く原因を突き止めたい。
アーレント王国の王都へ行けば、分かるかもしれない。
「使者は、シルヴァンフォード公爵だった。」
ガッシャン!
私が落としたカップが、大きな音を立てて床で割れた。
「は?」
今、レーグ様は何て言ったの?
「使者の代表は、ウィルフレイ・シルヴァンフォード公爵だ。彼に最後に会ったのは、聖女認定に呼ばれたあの夜会か。もう四年振りになるな。貴女は元気かと聞かれたのでな。元気過ぎて困っていると伝えておいた。」
ウィルが、いるの?この近くに?
ウィルフレイ・シルヴァンフォード公爵。
未だ馴染まない彼の新しい名は、私に虚しい感覚を与える。
「今、使者一行はニセンに留まり、貴女に謁見を申し入れている。」
よりにもよって使者がウィル。
でも、送られてくる手紙にも、いい加減うんざりしていたし。丁度良い機会なのかもしれない。
「分かりました。その謁見の申込を受けましょう。」
「分かった...。では、そう、伝えよう。」
久しぶりに会うウィルは、どう変わったのかしら。そして私は、今のリルメリアは、彼の目にどう写るのか。
私の心臓が、酷く高鳴っていた。
「朝からお疲れ様。それは昨日届いたものかしら?」
「おはようございます、聖女様。はい、こちらは市民から届いたもので、机にあるものが正式な嘆願書です。」
所狭しと積み重なった紙の山に、日々の状況の悪化が伝わってくる。
今は、アルト商会にも協力を要請して、デルを中心に魔力補填薬の開発を進めているところだ。
でも、そもそもの原因が分からない。
ニセン王国で発症者が出てしまった時、近くにいた私は、すぐにそこへ駆けつけた。けれど、発症者の体に、それらしい原因を見つけることは出来なかった。彼らはただ、魔力を失っていただけで、体に外傷などはなかったのだ。その地域にも気になるようなものは何も見当たらなかった。
「いったい原因は、何なのかしら?」
少しずつ世界が侵食されていくような、そんな不気味な感覚。
私の大切なものを奪われる、あの感覚を否が応でも思い起こされた。
「リルメリア、少しいいか?」
「あ、はい、レーグ様。」
レーグ様は硬い表情で部屋に入ってくると、すぐに人払いをした。ただならぬ雰囲気に、私の体は緊張で強張る。
「初めに言っておくが、決めるのは貴女だ。我々はただ、貴女の決定に従う。」
レーグ様の覚悟と優しさが籠った言葉に、私は頷いて返した。
「アーレントから正式に、聖女に対して救援要請が届いた。信書はグレイス王妃とアルバス大使の連名で書かれていた。王の名ではないのは異例だが、アーレント王と王太子は病に倒れたと聞いた。現状、王妃が政務を取り仕切っているのだろう。あちらも中々厳しい状況だな。」
「そうですか。その信書はもう受け取りましたか?」
「いや、まだ概要を使者から確認しただけだ。使者の入国も許可していない。全ては、貴女の決定待ちだ。」
アーレント王国は、自国での解決を諦めた。その最後の希望が私だなんてね。なんて皮肉な運命なのかしら。
でも私がここで断れは、間違いなく被害は広がる。発症者がこれだけ増えている今、なるべく早く原因を突き止めたい。
アーレント王国の王都へ行けば、分かるかもしれない。
「使者は、シルヴァンフォード公爵だった。」
ガッシャン!
私が落としたカップが、大きな音を立てて床で割れた。
「は?」
今、レーグ様は何て言ったの?
「使者の代表は、ウィルフレイ・シルヴァンフォード公爵だ。彼に最後に会ったのは、聖女認定に呼ばれたあの夜会か。もう四年振りになるな。貴女は元気かと聞かれたのでな。元気過ぎて困っていると伝えておいた。」
ウィルが、いるの?この近くに?
ウィルフレイ・シルヴァンフォード公爵。
未だ馴染まない彼の新しい名は、私に虚しい感覚を与える。
「今、使者一行はニセンに留まり、貴女に謁見を申し入れている。」
よりにもよって使者がウィル。
でも、送られてくる手紙にも、いい加減うんざりしていたし。丁度良い機会なのかもしれない。
「分かりました。その謁見の申込を受けましょう。」
「分かった...。では、そう、伝えよう。」
久しぶりに会うウィルは、どう変わったのかしら。そして私は、今のリルメリアは、彼の目にどう写るのか。
私の心臓が、酷く高鳴っていた。
1
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月
りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。
1話だいたい1500字くらいを想定してます。
1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。
更新は不定期。
完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。
恋愛とファンタジーの中間のような話です。
主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる