下剋上を始めます。これは私の復讐のお話

ハルイロ

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執務室に入ると、朝早くから神官達が大量の手紙を仕分けていた。


「朝からお疲れ様。それは昨日届いたものかしら?」

「おはようございます、聖女様。はい、こちらは市民から届いたもので、机にあるものが正式な嘆願書です。」

所狭しと積み重なった紙の山に、日々の状況の悪化が伝わってくる。
今は、アルト商会にも協力を要請して、デルを中心に魔力補填薬の開発を進めているところだ。

でも、そもそもの原因が分からない。

ニセン王国で発症者が出てしまった時、近くにいた私は、すぐにそこへ駆けつけた。けれど、発症者の体に、それらしい原因を見つけることは出来なかった。彼らはただ、魔力を失っていただけで、体に外傷などはなかったのだ。その地域にも気になるようなものは何も見当たらなかった。


「いったい原因は、何なのかしら?」
少しずつ世界が侵食されていくような、そんな不気味な感覚。
私の大切なものを奪われる、あの感覚を否が応でも思い起こされた。






「リルメリア、少しいいか?」

「あ、はい、レーグ様。」

レーグ様は硬い表情で部屋に入ってくると、すぐに人払いをした。ただならぬ雰囲気に、私の体は緊張で強張る。


「初めに言っておくが、決めるのは貴女だ。我々はただ、貴女の決定に従う。」
レーグ様の覚悟と優しさが籠った言葉に、私は頷いて返した。


「アーレントから正式に、聖女に対して救援要請が届いた。信書はグレイス王妃とアルバス大使の連名で書かれていた。王の名ではないのは異例だが、アーレント王と王太子は病に倒れたと聞いた。現状、王妃が政務を取り仕切っているのだろう。あちらも中々厳しい状況だな。」

「そうですか。その信書はもう受け取りましたか?」

「いや、まだ概要を使者から確認しただけだ。使者の入国も許可していない。全ては、貴女の決定待ちだ。」


アーレント王国は、自国での解決を諦めた。その最後の希望が私だなんてね。なんて皮肉な運命なのかしら。

でも私がここで断れは、間違いなく被害は広がる。発症者がこれだけ増えている今、なるべく早く原因を突き止めたい。
アーレント王国の王都へ行けば、分かるかもしれない。



「使者は、シルヴァンフォード公爵だった。」


ガッシャン!
私が落としたカップが、大きな音を立てて床で割れた。


「は?」
今、レーグ様は何て言ったの?


「使者の代表は、ウィルフレイ・シルヴァンフォード公爵だ。彼に最後に会ったのは、聖女認定に呼ばれたあの夜会か。もう四年振りになるな。貴女は元気かと聞かれたのでな。元気過ぎて困っていると伝えておいた。」



ウィルが、いるの?この近くに?


ウィルフレイ・シルヴァンフォード公爵。
未だ馴染まない彼の新しい名は、私に虚しい感覚を与える。


「今、使者一行はニセンに留まり、貴女に謁見を申し入れている。」


よりにもよって使者がウィル。
でも、送られてくる手紙にも、いい加減うんざりしていたし。丁度良い機会なのかもしれない。


「分かりました。その謁見の申込を受けましょう。」

「分かった...。では、そう、伝えよう。」



久しぶりに会うウィルは、どう変わったのかしら。そして私は、今のリルメリアは、彼の目にどう写るのか。

私の心臓が、酷く高鳴っていた。









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