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*レディアス(アーレント王国王太子)視点 2
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その光が肖像画に吸い込まれると、絵が消えた額縁の中には、薄暗い通路が延びていた。
そこは石造りの狭い空間で、窓は無く、ただ無機質に先へと続いている。等間隔に掛けられたランプは、私達が近付く度に辺りを照らしていった。
やたらと足音が響く空間が、私の不安を掻き立てた。
陛下のすぐ後を歩いて行くと、少し広い空間に出た。
そこは明々と光が灯り、私には眩しい程だった。その明かりはアーレント王家の家紋が刻まれた壁を照らしていた。
そこへ再び、陛下が指輪のある手を当てる。
肖像画の時と同様、石造りの壁が淡い光に変わり、徐々に消えていった。
私は目を凝らし、光に眩んだ目で先を見据える。
壁の先にあったのは、天井の高いホールのような広い空間だった。四隅で燃える炎が、空間を赤く照らしている。
そこの中央には、黒い何かがあった。
「ダ、ダリア!?」
よく見ると、空間の中央にいたのはダリアだった。
ダリアは、最近好んで着ている赤いドレス姿で、冷たい石の床に寝ている。
「陛下、これはどういう事ですか!?」
私はダリアに近付き、肩を揺する。
すると、ダリアはゆっくりとその真紅の瞳を見せた。
「お兄様?わ、私...、あれ?な、何!?」
ダリアが体を起こすと、鈍い金属音が聞こえた。
ダリアの足には、床から伸びた太い足枷があった。
「な、何これ!?お、お父様!?何ですか、これ!?ここはどこ!?」
パニックを起こしたダリアが、必死で鎖を引く。しかし、それはびくともしない。
「レディアス、よく見ておけ。これは王の役目だ。」
陛下は懐から出したナイフで、自らの指先を傷付けた。流れ出した血が、指輪を通過し、血の色の光を放つ。そして光を孕んだ血が、指先を伝って床に落ちた。
「あ、あ、ああ、何...これ?」
暴れていたダリアが、その動きをピタリと止める。
落ちた血が床の溝へ流れ、ダリアを囲うように魔法陣が浮かび上がった。
「あ、ああ、イヤ!やめて!やめて!痛いの!やめて!助けて!いやー!」
ダリアが胸を押さえて、床に蹲った。ダリアの叫び声が広い空間に響き渡る。
「陛下!」
「これは、元々この娘の役割だ。それに贖罪としては丁度良い。」
「役割?」
養子とはいえ、娘がのた打ち回る姿を見ても表情一つ変えない自分の父に、私は寒気を覚えた。
「レディアスよ。国の歴史の中で、聖火の弱体化は、何度かあったのだ。その危機が訪れる度に、アーレント王家は血族から生贄を捧げてきた。我らに受け継がれてきた初代の血は、聖火を灯す礎なのだ。」
陛下は再び、血を床の魔法陣へ落とした。
赤い血の柱がダリアを囲み、檻を作る。決して逃さぬように。
「この娘の母であり、余の妹でもあったヴィクトリアは、生贄用の姫だった。王族の私生児は、例外無く全て聖火への捧げ物。しかし余は、愚かにも期待してしまった。ダリアは、王家の希望だと。だが、所詮、生贄は生贄だったようだ。レディアス、お前も王となる覚悟を示せ!」
陛下が、私に血の付いたナイフを渡す。
「わ、私が、い、生贄?そんなの、イヤ、よ。助けて。謝るから。ご、ごめんなさい。お兄様、た、助けて。」
ダリアが泣き腫らした顔を、私達に向けた。
「レディアス、これは王の義務。息子に美しいアーレントを継がせたいのだろう?ならば、やれ。」
陛下がなぜ、凡庸な私を次期王に選んだのか、初めて分かった。
優しいアルバスには、この決断は無理だ。
「イヤ、お兄様...。お願い、助けて。」
ダリアの悲痛な懇願が、私の耳を掠る。
私は、手に当てたナイフをゆっくり横に引いた。そこから溢れた血が雫となって、床を染めていく。
私はただ、無感情にそれを眺めた。
ダリアの獣のような叫び声が、私の鼓膜を揺らした。
そこは石造りの狭い空間で、窓は無く、ただ無機質に先へと続いている。等間隔に掛けられたランプは、私達が近付く度に辺りを照らしていった。
やたらと足音が響く空間が、私の不安を掻き立てた。
陛下のすぐ後を歩いて行くと、少し広い空間に出た。
そこは明々と光が灯り、私には眩しい程だった。その明かりはアーレント王家の家紋が刻まれた壁を照らしていた。
そこへ再び、陛下が指輪のある手を当てる。
肖像画の時と同様、石造りの壁が淡い光に変わり、徐々に消えていった。
私は目を凝らし、光に眩んだ目で先を見据える。
壁の先にあったのは、天井の高いホールのような広い空間だった。四隅で燃える炎が、空間を赤く照らしている。
そこの中央には、黒い何かがあった。
「ダ、ダリア!?」
よく見ると、空間の中央にいたのはダリアだった。
ダリアは、最近好んで着ている赤いドレス姿で、冷たい石の床に寝ている。
「陛下、これはどういう事ですか!?」
私はダリアに近付き、肩を揺する。
すると、ダリアはゆっくりとその真紅の瞳を見せた。
「お兄様?わ、私...、あれ?な、何!?」
ダリアが体を起こすと、鈍い金属音が聞こえた。
ダリアの足には、床から伸びた太い足枷があった。
「な、何これ!?お、お父様!?何ですか、これ!?ここはどこ!?」
パニックを起こしたダリアが、必死で鎖を引く。しかし、それはびくともしない。
「レディアス、よく見ておけ。これは王の役目だ。」
陛下は懐から出したナイフで、自らの指先を傷付けた。流れ出した血が、指輪を通過し、血の色の光を放つ。そして光を孕んだ血が、指先を伝って床に落ちた。
「あ、あ、ああ、何...これ?」
暴れていたダリアが、その動きをピタリと止める。
落ちた血が床の溝へ流れ、ダリアを囲うように魔法陣が浮かび上がった。
「あ、ああ、イヤ!やめて!やめて!痛いの!やめて!助けて!いやー!」
ダリアが胸を押さえて、床に蹲った。ダリアの叫び声が広い空間に響き渡る。
「陛下!」
「これは、元々この娘の役割だ。それに贖罪としては丁度良い。」
「役割?」
養子とはいえ、娘がのた打ち回る姿を見ても表情一つ変えない自分の父に、私は寒気を覚えた。
「レディアスよ。国の歴史の中で、聖火の弱体化は、何度かあったのだ。その危機が訪れる度に、アーレント王家は血族から生贄を捧げてきた。我らに受け継がれてきた初代の血は、聖火を灯す礎なのだ。」
陛下は再び、血を床の魔法陣へ落とした。
赤い血の柱がダリアを囲み、檻を作る。決して逃さぬように。
「この娘の母であり、余の妹でもあったヴィクトリアは、生贄用の姫だった。王族の私生児は、例外無く全て聖火への捧げ物。しかし余は、愚かにも期待してしまった。ダリアは、王家の希望だと。だが、所詮、生贄は生贄だったようだ。レディアス、お前も王となる覚悟を示せ!」
陛下が、私に血の付いたナイフを渡す。
「わ、私が、い、生贄?そんなの、イヤ、よ。助けて。謝るから。ご、ごめんなさい。お兄様、た、助けて。」
ダリアが泣き腫らした顔を、私達に向けた。
「レディアス、これは王の義務。息子に美しいアーレントを継がせたいのだろう?ならば、やれ。」
陛下がなぜ、凡庸な私を次期王に選んだのか、初めて分かった。
優しいアルバスには、この決断は無理だ。
「イヤ、お兄様...。お願い、助けて。」
ダリアの悲痛な懇願が、私の耳を掠る。
私は、手に当てたナイフをゆっくり横に引いた。そこから溢れた血が雫となって、床を染めていく。
私はただ、無感情にそれを眺めた。
ダリアの獣のような叫び声が、私の鼓膜を揺らした。
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