上 下
216 / 308

6-3

しおりを挟む
「さあ、全員ついて来なさい。」

私がぼんやりと昨日の遣り取りを思い出していると、グレゴール男爵が戻ってきた。
私達は言われるがまま、男爵の後に続いて馬車に乗り込んだ。


馬車で移動した先は、やはり王宮。
裏門から人目を忍んで、王宮に入った私達は、居住区と思われる場所の客室へ案内された。



「ああ、これで私も、憧れの王妃様にお仕え出来るのね!」
黒髪の少女が、上機嫌で部屋の中をクルクルと回っている。他の子達も、釣られるようにどこか浮かれていた。


「何見てるのよ!」

「い、いえ。えっと、皆さん、王妃様が大好きなんですね。」

「そんなの当たり前でしょ!オーレリー王妃様は、元平民でありながら、その美貌と魔法の才能で王様に見初められた凄い方なのよ!」

「お前、そんな事も知らないで、ここにいるのかよ。」

「えっと、すみません。僕、田舎の出で。」
蔑むような目で見られながらも、私は低姿勢で大人しくやり過ごす。


「これだから、私、孤児は嫌だって言ったのよ!もう、貴方、この話は辞退しなさい!」
黒髪の少女が私の腕を引いて、強引に部屋から追い出そうとする。

しかしその時、ゆっくりとドアが開いた。





「あらあら、喧嘩はいけないわよ?貴方達は、大切な子達なのだから仲良くね?」
ダークブラウンの髪を高く結い上げた妖美な女性が、グレゴール男爵を連れて現れた。



「あ、ああ、王妃様...。」
子供達が、ぎこちなくも必死に礼を執る。


「ふふ、みんな頭を上げて。その可愛い顔を見せてちょうだい。」

顔を上げると、オーレリー王妃と目が合った。
もう四十過ぎとは思えないほど、美しい妖艶な女性だった。胸元を大きく開けたドレスがよく似合っている。
王妃は子供達を見回すと、その真っ赤な唇の端を上げて微笑んだ。


「さあ、可愛い子供達!特別な場所へ連れて行ってあげる。いらっしゃいな。」

「「「はい、王妃様!」」」
子供達が王妃を囲んで、嬉しそうにはしゃいでいた。


「あ、でも、王妃様!この子はダメです!だって汚い孤児なんですよ!王妃様の側に置いておけません!それに、王妃様の事も馬鹿にしていて...私、そんな子、絶対に赦せません!」
黒髪の少女が突然、私を指差して糾弾した。それに周りの子達も賛同している。


「まあ、貴女は私を守ってくれるのね。可愛い子、貴女のお名前は?」

「わ、私は、エリンです!」

「ふふ、エリン、ありがとう。でも、私はみんなと仲良くして欲しいわ。たとえ孤児でもね。出来るかしら?」

「は、はい!王妃様のためなら。」

「良い子ね。みんなもよ?」

「「「はい!」」」

「ふふ、じゃあ行きましょうね。」

オーレリー王妃がこちらに背を向ける直前、一瞬だけ私と目が合った。その目は冷たく、はっきりと嫌悪感が浮かんでいた。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その婚約破棄本当に大丈夫ですか?後で頼ってこられても知りませんよ~~~第三者から見たとある国では~~~

りりん
恋愛
近年いくつかの国で王族を含む高位貴族達による婚約破棄劇が横行していた。後にその国々は廃れ衰退していったが、婚約破棄劇は止まらない。これはとある国の現状を、第三者達からの目線で目撃された物語

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます! ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。 ※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。

乙女ゲームに転生?そんなの知りません私はとことん家族と幸せに暮らします!

みゆ
恋愛
宮崎華蓮は、高校2年生で1人っ子な上に父と母は幼い頃に他界していた。 その為華蓮は家族愛というものを知らずに育ち、友達と一緒に普段生活していた。 だが、友達の1人に乙女ゲームを勧められ、それをやったところ思ってたよりも面白くついついやり込んでしまった。 そんなある日、いつの間にか寝ていて、起きてみると白い部屋に!? 女神様が私を守りきれなかったらしく、死んじゃったらしい。 「おぎゃーおぎゃー!!」 ん?え?はああああああ!!!!!!まさかの最近はやってる転生的なやつ?強制!?えええええ!!!!私まだやり残してることあったのにいぃぃ!!!ルークルートまだ途中だよぉぉおお!!どうしてくれんのおぉ!女神様ああ!!! 乙女ゲームに転生?そんなの知りません私はとことん妹と弟を愛でます、から名前変えました! 初心者なので誤字脱字が出るかも知れませんが、暖かい目で見守ってくれるとありがたいです。恋愛にしていくつもりではありますが、かなりファンタジー要素の方が強いかも知れません!恋愛までは気長に待っていただけるとありがたいです。 更新は不定期です!すみません!それで、私情により数ヶ月更新できなくなる場合があります!ご了承ください! 現在、1話ずつ読みやすいよう修正しておりますがペースが遅いため途中で読みにくくなってるところがございます。 ご了承ください┏●

医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ
恋愛
親の再婚で8歳の義妹・莉子がやって来たのは春樹が22歳の医大生の時。莉子が病弱ゆえに、開業している実父から勉強になるからと、治療や看護の記録を書くように言われ、治療にも立ち会うようになった。それ以来毎日診察することが日課となる。その莉子も今年から大学生となり、通学に便利だからと、俺のマンションに引っ越してきた。このお話は、春樹が男としての欲望にジタバタしながらも、溺愛する可愛い莉子の闘病に奮闘する甘~い二人の愛の物語です。 なお、このお話は全て想像で書いた架空の話なので、医学用語や病気情報はすべて真に受けないように、どうぞよろしくお願い致します。エロいマークは*です。

転生後モブ令嬢になりました、もう一度やり直したいです

月兎
恋愛
次こそ上手く逃げ切ろう 思い出したのは転生前の日本人として、呑気に適当に過ごしていた自分 そして今いる世界はゲームの中の、攻略対象レオンの婚約者イリアーナ 悪役令嬢?いいえ ヒロインが攻略対象を決める前に亡くなって、その後シナリオが進んでいく悪役令嬢どころか噛ませ役にもなれてないじゃん… というモブ令嬢になってました それでも何とかこの状況から逃れたいです タイトルかませ役からモブ令嬢に変更いたしました ******************************** 初めて投稿いたします 内容はありきたりで、ご都合主義な所、文が稚拙な所多々あると思います それでも呼んでくださる方がいたら嬉しいなと思います 最後まで書き終えれるよう頑張ります よろしくお願いします。 念のためR18にしておりましたが、R15でも大丈夫かなと思い変更いたしました R18はまだ別で指定して書こうかなと思います

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

処理中です...