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猊下にソファへと促された私は、テーブルに置かれた手紙の山に、ギョッとする。
広いテーブルの上を埋め尽くしている手紙は、重みに堪え兼ねたのか、雪崩のように床に崩れ落ちていた。


「こ、この大量の手紙は?」

「これは貴女の仕事だな。この中から欲しい人材を選べ。貴女の側近でも、世話係でも、奴隷でも、何に使っても構わない。そろそろ貴女専用の側仕えが必要だろう?」


ど、奴隷!?


「まだまだありますよ!ここ毎日、私達司祭が手紙の選別してますからね!ここにある手紙は、まあまあ優秀と判断された方から来たものなんで、好きに選んで大丈夫ですよ!」
ノルンがそう言って、数枚の手紙を私に差し出す。


「ちょっ、ちょっと待って!どういうことですか?」
いきなり、この中から選べと言われても...
あの手紙の山からチラリと見えた封蝋の家紋は、他国の貴族のものだった。その中から私が勝手に採用して大丈夫なのだろうか。


「あれ?猊下、ちゃんと説明しました?」

「したと思ったが。」

2人で顔を見合わせておりますが、私、何も聞いていませんよ!


「では、改めて。リルメリア様、聖女は側に置く者を自ら選ぶんです。それは、聖女が神の泉に触れ、神の使徒と自覚すると、自分の使命を垣間見るからなんです。」

使命って...


「深く考える必要はない。好きか嫌いか程度で十分だ。そもそもこの国は、聖女のためにある。貴女が何をしたところで問題ない。」


猊下、私はまだ聖女じゃないのですが。


「それも問題ない。」

どうやら猊下は私の心が読めるようだ。
気を付けないと。




「それにしても、毎日毎日凄い数の手紙やら謁見の申込やら来てますけど、何なんですかね?こちらはまだ何の情報も出していないのに。」

「ああ、それは、アーレントの王が広めているからな。自国で聖女が誕生したと自慢しているようだ。神の加護が強い国だとでも言いたいのだろう。こちらには、王女を聖女の側近にと使者付きの信書を送ってきた。随分と切り替えの早いことだな。」


ダリア様を私の側近に!?


「もちろん、さっさと追い返した。無能はいらん。」

「ププッ、猊下、一国の王女に無能は不味いですって。役立たずぐらいにしましょ?」

ノルン、それ一緒じゃ...





コンコン

ドアを叩く音が、私達の賑やかな会話を中断させた。


「お話中、申し訳ありませんな、猊下、リルメリア様。」
笑い皺を湛えた白髪の司祭が、深々と頭を下げる。
先程まで笑い転げていたノルンが、いつの間にか、引き締まった顔で猊下の後ろに立っていた。


「どうした、アイゼン?」

「はい、猊下。神が呼んでおります。リルメリア様、どうか神の御許へ。」

司祭が告げた言葉は、私に酷く重い緊張を齎した。


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