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気持ちの良い日差しを浴びながら、私は腕を上げて背中を伸ばす。
程良く剪定された木に止まった色鮮やかな小鳥が、可愛らしい声で歌を奏でていた。
平和だな。
少し前まではあんなにギスギスしてたのに。
「まーた1人で出て来たんですか、リルメリア様?怒られても知りませんよ?」
花壇の前でしゃがみ込んでいると、背の高い陰が私にかかった。
「今日は朝から体調いいのよ。だから大丈夫。」
「そんな事言って。昨日、花壇で寝てたでしょ。さすがの私でも、アレにはビビりましたよ!花壇から女性の足が出てるんですもん。」
ほらほらとノルンに背を押されて、私は無理矢理回廊へと戻された。
白一色で統一されたティリウス聖王国中央教会の最奥、聖女のための居住区に、ノルンの賑やかな声が響き渡る。
中庭から差し込む柔らかな光が、先に続く廊下を照らしていた。
うーん。迷子になりそう。
この国に来て半年、そして同じく中央教会に住んで半年が経った。
清廉と言えば聞こえはいいけれど、どこまでも続く真っ白な建物は、殺風景過ぎて私の方向感覚を狂わせる。
スマホが欲しいな。位置機能付きの。本気で、切実に。
その内またリヴァン先生と研究してみようかな。
新しい魔道具の開発案を頭の中で練っていると、いつの間にか私が今使っている部屋に着いていた。
そしてそこには、仁王立ちした鬼が待ち構えていた。
「リルメリア、あれだけ1人で出歩くなと言っただろう。貴女の耳は飾りか?それとも魔力の使い過ぎで頭に傷害が残ったか?どれ、私が見てやろう。」
猊下の腕が私の頭へ伸びる。
私は身の危険を感じて、ノルンの後ろに隠れた。
「ご、ごめんなさい。つい、天気が良くて。」
「はあ、これは早急に貴女の従者を決める必要があるな。今代の聖女殿は目を離すと行方不明になりそうだ。」
ジト目で私を見ている猊下から、私はそっと顔を背けた。
「まあいい。それだけ元気ならそろそろ良いだろう。近日中に聖王国の深淵、神の泉へ案内するとしよう。」
やっと...
泉の水に触れられなければ、聖女ではない。
そもそも泉自体にも近付けないらしい。
私は本当に聖女なのだろうか。
私が大規模な転移装置を起動したあの日、移住に同意したアルト商会の従業員ごと、私達は聖王国に転移した。
今頃、アルトの全てがアーレント王国に無いことに、王国民は気付いただろう。
アルト商会が供給していた生活品や医療品も底をついたはずだ。
あの国は今後どうなっていくのだろう。
とはいえ、膨大な魔力を消費した私は、この半年間、一日の半分以上を寝て過ごしていた。
さすがにあれだけの人数を一度に転移させたのは中々無謀だったみたいだ。
でも大商会のアルトが下手に他国へ動くと、権力欲の強い陛下が何をするか分からなかった。だからあの時まで人員を移動させることが出来なかった。
転移ポータルで人の転移が可能なことを秘密にしておいて本当に良かった。そのおかげで、無事に皆んな、あの国から脱出出来たのだから。
「そう言えば、お父様達から連絡はありましたか?」
「ああ、昨日エルーゲに着いたそうだ。あの地は良い所だ。問題ないだろう。」
聖職者が国事を担う聖王国は、貴族制度はなく、中央教会に任命された管理官が各地域を統治している。
お父様はこの度、聖王国の西に位置するエルーゲの管理官となった。
エルーゲは大きな貿易港を持ち、気候も穏やかで活気溢れる地域だそうだ。
お父様はそこでアルト商会を再始動する。
私も早く行きたい。
「まだ、ダメだぞ?」
私の心を読んだ猊下に、肩をしっかり掴まれ、私は身動き出来なくなった。
程良く剪定された木に止まった色鮮やかな小鳥が、可愛らしい声で歌を奏でていた。
平和だな。
少し前まではあんなにギスギスしてたのに。
「まーた1人で出て来たんですか、リルメリア様?怒られても知りませんよ?」
花壇の前でしゃがみ込んでいると、背の高い陰が私にかかった。
「今日は朝から体調いいのよ。だから大丈夫。」
「そんな事言って。昨日、花壇で寝てたでしょ。さすがの私でも、アレにはビビりましたよ!花壇から女性の足が出てるんですもん。」
ほらほらとノルンに背を押されて、私は無理矢理回廊へと戻された。
白一色で統一されたティリウス聖王国中央教会の最奥、聖女のための居住区に、ノルンの賑やかな声が響き渡る。
中庭から差し込む柔らかな光が、先に続く廊下を照らしていた。
うーん。迷子になりそう。
この国に来て半年、そして同じく中央教会に住んで半年が経った。
清廉と言えば聞こえはいいけれど、どこまでも続く真っ白な建物は、殺風景過ぎて私の方向感覚を狂わせる。
スマホが欲しいな。位置機能付きの。本気で、切実に。
その内またリヴァン先生と研究してみようかな。
新しい魔道具の開発案を頭の中で練っていると、いつの間にか私が今使っている部屋に着いていた。
そしてそこには、仁王立ちした鬼が待ち構えていた。
「リルメリア、あれだけ1人で出歩くなと言っただろう。貴女の耳は飾りか?それとも魔力の使い過ぎで頭に傷害が残ったか?どれ、私が見てやろう。」
猊下の腕が私の頭へ伸びる。
私は身の危険を感じて、ノルンの後ろに隠れた。
「ご、ごめんなさい。つい、天気が良くて。」
「はあ、これは早急に貴女の従者を決める必要があるな。今代の聖女殿は目を離すと行方不明になりそうだ。」
ジト目で私を見ている猊下から、私はそっと顔を背けた。
「まあいい。それだけ元気ならそろそろ良いだろう。近日中に聖王国の深淵、神の泉へ案内するとしよう。」
やっと...
泉の水に触れられなければ、聖女ではない。
そもそも泉自体にも近付けないらしい。
私は本当に聖女なのだろうか。
私が大規模な転移装置を起動したあの日、移住に同意したアルト商会の従業員ごと、私達は聖王国に転移した。
今頃、アルトの全てがアーレント王国に無いことに、王国民は気付いただろう。
アルト商会が供給していた生活品や医療品も底をついたはずだ。
あの国は今後どうなっていくのだろう。
とはいえ、膨大な魔力を消費した私は、この半年間、一日の半分以上を寝て過ごしていた。
さすがにあれだけの人数を一度に転移させたのは中々無謀だったみたいだ。
でも大商会のアルトが下手に他国へ動くと、権力欲の強い陛下が何をするか分からなかった。だからあの時まで人員を移動させることが出来なかった。
転移ポータルで人の転移が可能なことを秘密にしておいて本当に良かった。そのおかげで、無事に皆んな、あの国から脱出出来たのだから。
「そう言えば、お父様達から連絡はありましたか?」
「ああ、昨日エルーゲに着いたそうだ。あの地は良い所だ。問題ないだろう。」
聖職者が国事を担う聖王国は、貴族制度はなく、中央教会に任命された管理官が各地域を統治している。
お父様はこの度、聖王国の西に位置するエルーゲの管理官となった。
エルーゲは大きな貿易港を持ち、気候も穏やかで活気溢れる地域だそうだ。
お父様はそこでアルト商会を再始動する。
私も早く行きたい。
「まだ、ダメだぞ?」
私の心を読んだ猊下に、肩をしっかり掴まれ、私は身動き出来なくなった。
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