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ああ、趣味が悪い。
王妃様が好む赤がいつも以上に使われている会場は、ギラギラしすぎて私の趣味に合わない。各テーブルには異国から取り寄せられた品が、財力を見せつけるように並べられていた。
王妃様の力の入れようが伝わってくる。
でも折角の美しい庭園が台無しね。
「これが貴婦人の茶会か?目が痛いな。」
素直な感想を口にする猊下は、以前の夜会で着ていた黒の司祭服ではなく、純白の司祭服を纏っていた。
聖王国で白の司祭服を着用出来るのは、司祭長のみ。肩からは、神アランティウスの紋章が刺繍されたストラを掛けている。
美しい人が全身白を纏うと、ここまで神々しいのね。
一切肌を出さず、体の線すら見せない禁欲的な司祭服なのに色気を出せるって凄い。
そんな人の隣にいて、私は大丈夫なのかしら?影と一体化していそう。
丸まりそうになる私の背中を猊下が、ポンポンと叩いた。
「胸を張れ。自分の存在を見せつけろ。大丈夫だ。貴女は誰よりも美しい。」
美しい人に美しいと言われることが、こんなにも自信になるとは思わなかった。
私は背筋を伸ばして、左側に佩いた剣に触れる。
「はい。では、王妃様に宣戦布告に行きましょうか。」
「ああ、楽しみだ。」
さあ、やられた分をやり返しに行こう。
私は猊下から贈られたドレスの裾を翻して庭園の石畳を進む。
今日の私にエスコートはいらない。
私の後に猊下が続き、その後ろをノルン達が歩く。
お茶会に招待された貴族達が、私を見て呆気に取られていた。
そうでしょうね。
今の私の姿は、まさに聖女の出立ち。
スカートにボリュームを持たせないデザインは一見地味に見えるけれど、白のドレスに施された繊細な銀糸の刺繍と、肩から流れる総レースの長いケープは、王族でも手に入らない芸術的なドレスだ。
そのドレスは、私が歩く度に妖精が周りで踊っているかのように輝く。
そしてその腰には、ティリウス聖王国の王たる証、聖剣があった。
私はその証を見せつけるように、堂々と進む。
やがて王妃様の前まで行くと、私はにっこりと笑顔を浮かべた。
「王妃、茶会の招待、感謝する。折角だからな。この国を出る前に、我らの至宝をお連れした。」
猊下は王妃様が座る向かいの椅子を私のために引いてくれた。
猊下の正体に気付いた貴族達が、段々とざわつき始める。
「王妃様、急なお茶会の参加、申し訳ございません。迷惑でしたでしょうか?」
私はわざとらしく首を傾げた。
「そんな、司祭長猊下がなぜ...。リルメリア嬢も、やはりそうなのね...」
いつもは落ち着き払っている王妃様が、顔を青くして肩を震わせる。
「全ては神のご意思かと。」
「そうね...そうよね。」
王妃様は僅かに引き攣った笑顔を見せると、ドレスの裾を優雅に揺らして立ち上がった。
「素晴らしいわ!リルメリア嬢のお陰で素敵な縁が生まれたわ。」
王妃様が会場中に届くほど、その可愛らしい声を張り上げた。
「これから益々、我が国と聖王国の絆が深まるわね。アルト侯爵にも新たな褒賞を考えなくちゃ。皆んなでお祝いしましょう!」
手を合わせ可愛く微笑む王妃様に、私は冷めた目を向ける。
絆?褒賞?馬鹿らしい。
しかも決定的な事をあえて言わないのは、私への牽制なのかしら?
計算高い王妃様らしい。
さて、私が何て答えたら、この人達はリルメリアへの罪を理解するかしらね。
「グレイス!」
めでたい空気に包まれていたこの場に、怒りが籠った声が届いた。
王妃様が好む赤がいつも以上に使われている会場は、ギラギラしすぎて私の趣味に合わない。各テーブルには異国から取り寄せられた品が、財力を見せつけるように並べられていた。
王妃様の力の入れようが伝わってくる。
でも折角の美しい庭園が台無しね。
「これが貴婦人の茶会か?目が痛いな。」
素直な感想を口にする猊下は、以前の夜会で着ていた黒の司祭服ではなく、純白の司祭服を纏っていた。
聖王国で白の司祭服を着用出来るのは、司祭長のみ。肩からは、神アランティウスの紋章が刺繍されたストラを掛けている。
美しい人が全身白を纏うと、ここまで神々しいのね。
一切肌を出さず、体の線すら見せない禁欲的な司祭服なのに色気を出せるって凄い。
そんな人の隣にいて、私は大丈夫なのかしら?影と一体化していそう。
丸まりそうになる私の背中を猊下が、ポンポンと叩いた。
「胸を張れ。自分の存在を見せつけろ。大丈夫だ。貴女は誰よりも美しい。」
美しい人に美しいと言われることが、こんなにも自信になるとは思わなかった。
私は背筋を伸ばして、左側に佩いた剣に触れる。
「はい。では、王妃様に宣戦布告に行きましょうか。」
「ああ、楽しみだ。」
さあ、やられた分をやり返しに行こう。
私は猊下から贈られたドレスの裾を翻して庭園の石畳を進む。
今日の私にエスコートはいらない。
私の後に猊下が続き、その後ろをノルン達が歩く。
お茶会に招待された貴族達が、私を見て呆気に取られていた。
そうでしょうね。
今の私の姿は、まさに聖女の出立ち。
スカートにボリュームを持たせないデザインは一見地味に見えるけれど、白のドレスに施された繊細な銀糸の刺繍と、肩から流れる総レースの長いケープは、王族でも手に入らない芸術的なドレスだ。
そのドレスは、私が歩く度に妖精が周りで踊っているかのように輝く。
そしてその腰には、ティリウス聖王国の王たる証、聖剣があった。
私はその証を見せつけるように、堂々と進む。
やがて王妃様の前まで行くと、私はにっこりと笑顔を浮かべた。
「王妃、茶会の招待、感謝する。折角だからな。この国を出る前に、我らの至宝をお連れした。」
猊下は王妃様が座る向かいの椅子を私のために引いてくれた。
猊下の正体に気付いた貴族達が、段々とざわつき始める。
「王妃様、急なお茶会の参加、申し訳ございません。迷惑でしたでしょうか?」
私はわざとらしく首を傾げた。
「そんな、司祭長猊下がなぜ...。リルメリア嬢も、やはりそうなのね...」
いつもは落ち着き払っている王妃様が、顔を青くして肩を震わせる。
「全ては神のご意思かと。」
「そうね...そうよね。」
王妃様は僅かに引き攣った笑顔を見せると、ドレスの裾を優雅に揺らして立ち上がった。
「素晴らしいわ!リルメリア嬢のお陰で素敵な縁が生まれたわ。」
王妃様が会場中に届くほど、その可愛らしい声を張り上げた。
「これから益々、我が国と聖王国の絆が深まるわね。アルト侯爵にも新たな褒賞を考えなくちゃ。皆んなでお祝いしましょう!」
手を合わせ可愛く微笑む王妃様に、私は冷めた目を向ける。
絆?褒賞?馬鹿らしい。
しかも決定的な事をあえて言わないのは、私への牽制なのかしら?
計算高い王妃様らしい。
さて、私が何て答えたら、この人達はリルメリアへの罪を理解するかしらね。
「グレイス!」
めでたい空気に包まれていたこの場に、怒りが籠った声が届いた。
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