上 下
161 / 308

3-73

しおりを挟む
それからすぐにアルト家には、国王陛下からの召喚状が届けられた。その内容からも陛下は相当お怒りのようだ。
処分についても書かれていたけれど、お父様がそこは教えてくれなかった。というより、その手紙はぐちゃぐちゃに握り潰されていたので読めなかった。

お父様、それはいいのでしょうか。

執事のルーベルが、何食わぬ顔で紙屑になった手紙を暖炉に焚べていた。


「いいんだよ、こんなの。まあ、このままでは終わらせないけどね。」
お父様の笑顔が黒い。
でも私だって怒っているのだ。


「お父様、ごめんなさい。お忙しいのに。それで、これからどうするのですか?」

「いいんだよ、リル。うーん、そうだね。どうしようかな。」
お父様の顔は、迷っているようには見えない。もう既に結論は出ているのだろう。


「そういえば、リヴァンが帰って来たよ。さすがに今回は、疲れたみたいだね。今日はそのまま休ませた。」


「そうですか!明日にでも会いに行って来ますね!」

嬉しい!
リヴァン先生とこんなに長く離れていたのは初めてだった。話したいことがあり過ぎて、当分はリヴァン先生の下に入り浸ってしまいそうだ。



「リル、私はね。今、少しずつアルトの拠点を他国に移しているんだ。リヴァンの帰りが遅かったのは、転移ポータルを予定以上に増やしたからなんだよ。」

私は、ハッとしてお父様を凝視した。
お父様、まさか!


「まだ決定ではないよ。でも、時間の問題かな。陛下がね、聖火を貴族に売り始めたんだ。魔物の脅威のない王都の貴族にもね。聖火はアーレント王国の象徴であり、王家の誇りなのに。本当にバカなのかな。」

だから私の卒業課題に、陛下はこれ程怒っているのね。


聖火を売りたい陛下にとって、結界魔道具の販路を持つアルト商会は、目障りのはずだ。王家と対立することになれば、アルト家はこの国にはいられない。



「アルト家が他国にいくつかの爵位を持っていることは知っているでしょう?いざとなったら、それを利用するつもりなんだ。だからその日の為に、準備を進めてる。ある意味、ルイセント様の魔法士ギルド設立は、好機なんだよ。」

「お父様、私達はこの国にいられなくなるのですか?」

「うーん。それはちょっと違うかな。私はね、リルとアルトが作り上げたものは、世界中に渡るべきだと考えているんだ。だからこの国に縛られたくないんだよ。リルにもアルトにも自由であってほしい。そのために私は力を尽くそうと思ったんだ。」

お父様は私の側に来ると、書類の山を払い除けて、隣に座った。
バサリと床に崩れ落ちた書類に気にも止めず、お父様は私の頭を撫でる。


「だからリルも好きなようにしなさい。ここに残るなら誰にも文句は言わせない。気に入った国があるなら、そこで好きに生きよう。気に入らないなら新しく国を作ってもいい。金なら腐るほどあるのを知ってるでしょう?なんでも出来るさ。」
でも国を作るならセラフィが女王ね!と、お父様はケラケラと笑った。

楽しそうな提案に、私もつられて笑ってしまった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

処理中です...