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「それ本気なの、リル?」
ウィルのいつもより低い声が私の心に響く。

「招火の儀に同行する浄化の乙女だよ⁈それがどういう意味かリルも分かっているはずだ。それでも行くと言うの?」

「ええ、私はアルト商会副会長として正々堂々と行くわ。」

「私が何を言っても無駄なんだね。」
ウィルはどかりとベンチに腰掛けると、額を押さえ俯く。ウィルの苛立ちが、中庭に吹く少し肌寒い風に運ばれて、私に届いた。


「ウィル、相談もなくごめんなさい。リングドン家にも迷惑を掛けてしまうわ。でも信じて。私は王家の花嫁にはならない。」
私は両膝を地面について、ウィルの手を握る。ウィルの手は、血の気が引いてとても冷たかった。


「分かっているんだ。でも...。私にもう少し力があれば...。」

「ウィル、私はただ守ってもらうお姫様じゃないわ。それは貴方がよく知っているでしょう?」
私は震えるウィルの背中をそっと抱きしめた。私にはウィルがいるから大丈夫。

私の背中にも腕が回り、力強く抱きしめられた。





「これならいけそうね。」

「でもこれだと相当高価な魔鉱石を大量に消費しちゃうわよ?採算取れるの?副会長様?」

招火の儀の使節団として王都を出発する日まで、あと10日を切った。
学院には休学届を出し、今は転移装置の開発に勤しんでいる。


「今の段階では、物だけ送れればいいわ。人が転送出来ることは、まだ秘密にしておきましょう。」

「そうね。この国出るかもしれないしね。」
ケラケラと笑うレイズは、この状況を楽しんでいるようだ。


「ねえ、レイズ。アルト家が国を出るって言ったらレイズも来てくれるの?」
私は作業の手を止めて、レイズに向き合う。

「もー、リルたん!当たり前でしょ!私はこの国にいたいんじゃなくて、アルト商会にいたいの!だからどこまでも着いていくわよ。」
レイズから色気たっぷりのウインクが飛んできた。嬉しくて私の頬が緩む。



「僕も行くよー。」

「え⁈」
ソファからのんびりとした声を掛けられる。


「ルーイ先生も⁈先生はダメじゃないですか?仕事はどうするんです?」

「えーー。僕ならどこでも引っ張りだこだから大丈夫!それに財産も結構あるしねー。リルちゃんといた方が楽しいし。」

いやいや主席が急にいなくなったら宮廷魔法士の皆さん大変なことになるんじゃ。
私が慌てていてもルーイ先生はいつも通りだった。



「大体皆んな来ると思うわよ?今回の王家のやり方に怒ってる人多いし。皆んなやる気満々よ?私も楽しみ!」
レイズの言葉を嬉しく思う反面、何だか少し複雑な心境になった。


「と、とにかく!今は転移装置を完成させちゃいましょう!」


「リルちゃん!これ本当に凄いよ!世紀の大発明だよー!あっ僕も使節団について行くからね!よろしくー。」

「え⁈本当に宮廷魔法士の仕事は大丈夫なんですか⁈」

「大丈夫!適度に転移魔法で帰るから。変装もするし。バレないバレない!」
いや、部下の人大丈夫かな?仕事押し付けられてないのかな?


「あ、私も行くわよ?侍女として。」

「え⁈レイズも⁈しかも何で侍女?」

「私がアルト商会の魔道具開発責任者って知られたくないの。そういえば、今回は結構大人数で行くみたいよ?アルト商会の本気度合いが凄いわ!王家との交渉が大変って聞いたわ。」

開発に夢中でそっちのことは、お父様とお母様に任せっきりになっていた。
私は早めに確認しようと、手元の作業を終わらせることにした。







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